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第153話 隻腕のカルロ


 怒りなのか緊張なのか分からないが、異様に高鳴る心臓を落ち着かせてから、俺は黒い外套を羽織ったカルロに近づく。

 俺に全く気付く様子を見せず、樽ジョッキの酒を煽り続けるカルロだが、俺が真後ろに立った瞬間――首をグリンと曲げて俺を見てきた。

 額には大きな切り傷。それに右腕もないため、やはりこの男がカルロで間違いない。


「【観察眼】」


 カルロは小さくそう呟いた後に、右目は細く、左目を大きく開けて舐るように俺の全身を見てきた。

 何かのスキルを発動させているようで、大きく見開いた左目は黄色いオーラのようなものを纏っている。

 

「おいおい! お前、中々つえーじゃねぇか! この街じゃ一番の強さを持っているぜ!! ――んで、いきなり背後に立って俺様に何の用だ? 今は機嫌が良いから、素直に謝るなら見逃してやってもいいぞぉ!?」

「俺がクリスだ」


 何の説明もなしに、俺はカルロにそう告げた。

 その瞬間に爆発させたように大笑いし、膝を叩く音が店中に響き渡る。


「あーはっはっは!! なんだお前、わざわざ来てくれたのか! くっくっ。かーかっかっか!! 今日はツイてる。本気でツイてるぜ! 面倒だし真面目に探す気なんて更々なかったのに、獲物がわざわざ出向いてくれるんだもんな!!」

「……俺を探している目的はなんだ?」

「あぁ? 依頼されたから動いているだけだ! クラウス――お前の糞弟から捕まえるようにと命令を受けているんだよ! 王都の裏社会では、お前の首に見たこともねぇ金が懸けられているんだぜ!?」


 本当に上機嫌なのか、聞いたことを全てペラペラと話すカルロ。

 ……予想はついていたが、やはりクラウスが仕向けていたか。

 

「俺を探していた理由は分かった。外に出ろ。【銀翼の獅子】の仇を取らせてもらう」

「いいぜ、いいぜぇー! 目立つのは俺も嫌だからなぁ! てめぇから人気のないところに出向いてくれるってんなら好都合だ! ……それと【銀翼の獅子】ってどいつらだ? わりぃな。雑魚は色々と殺しまくってたから覚えちゃいねぇ」

「覚えていないなら、気にしなくていい。必ずお前を殺し、あの世で詫びさせてやるからな」

「カッコいいねぇ!! 俺も言ってみてぇなそんな台詞をよぉ!」


 大笑いしながら、心底俺を馬鹿にするような態度を見せてから立ち上がると、俺達の前を歩き始めたカルロ。

 堂々と背中を見せているのだが、グリースと違って斬りかかっても即座に反応される――わざと隙を作っているような感覚だ。


 カルロが楽しそうに音程の外れた鼻歌を歌い、俺達は全力で警戒しながらその後を追うという異様な空気感の中、オックスターの街を出て北の平原へとやってきた。

 まさか街の外まで出てくれるとは思っていなかったが、これは本当に好都合だな。

 ……殺した後、すぐにカーライルの森へと運ぶことができる。


 平原をしばらく進んだところで、カルロは鼻歌を止めてこちらへと向き直した。

 羽織っていた外套を脱ぎ捨て、そこでようやくカルロの全身が初めて見えた。


 ただでさえ二メートルを超える大きな体なのに、筋肉量が凄まじく破裂しそうなほど全身の至るところが太い。

 右腕がなくなったのは後天的なのか、食い千切られたような痛ましい傷なのだが、その傷すら恐ろしく見える体格だ。


 更に体中に無数の斬り傷があり、数えきれないほどの戦闘を行ってきたのが窺い知れる。

 グリースとは違い、数多の戦いによって鍛え抜かれた強さ。

 あの【銀翼の獅子】達が殺されたと聞いて疑問だったが、この姿を見る限り不思議ではないと思える圧倒的な存在感。


「へー! 俺のこの体を見てビビらねぇのも久しぶりだぜ! 流石に高額の懸賞金を懸けられているだけあって、胆力は中々のものだな。……だが、これでどうだ? 【気配遮断】【隠密】解除」


 スキルを解除したことにより、消していた気配が一気に解かれた。

 今まで出会った生物の中で、一番強烈な圧を放っているが――俺は生命感知で見抜いていたため驚きは少ない。

 ただ横に並ぶラルフはドッと汗が噴き出たのか、額に流れる汗を必死に拭っている。

 

「おっ!? まだ表情を変えねーのか! これは……少しは期待してもいいんだよなぁ!? 簡単に死んでくれるなよ? せいぜい俺を楽しませてから死んでくれ!!」


 ――そう叫ぶと、カルロは獣のような目つきで俺達に襲い掛かってきた。


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