第152話 準備完了
久しぶりの能力判別を終え、商業通りへと戻ってきた俺は武器屋へと来ていた。
今回の目的は新たな防具を買うこと。
皮装備は動きやすさがピカイチのため好んで使用していたのだが、ただの皮装備では流石に心許ないからな。
カルロとの戦いに向け、なるべくダメージを抑えることのできる装備を買っておきたい。
店内を見て回り、耐久性があって動きやすさも損なわれない防具がないかを見ていたのだが……。
その二つが両立する防具は、ワイバーンの鱗でできた防具のみ。
耐久力があるのに素材が軽く、更に耐熱性も耐寒性にも優れており、魔法も軽減される優れものなのだが、値段が破格の白金貨十枚。
それも上着だけでその値段で、ヘルムや下も合わせると白金貨二十枚あっても購入することができない。
金を気にしないのであればワイバーン装備で即決するところだが、生憎そんな金はどこにもない。
三ヶ月の森での引き篭もり生活を行っていなくとも、購入することが不可能な値段だからな。
こればかりは仕方がないため、俺は購入できる動きやすい装備の中で一番性能の良い物を選ぶことにした。
約一時間ほどかけて選んだ装備は――フォロスコブラの装備一式。
ヴェノムパイソンに似た蛇の鱗から作られた装備で、ワイバーン装備には劣るものの中々の耐久性を誇っている防具だ。
値段は上と下のセットで金貨六枚。
これで俺が使える金は全て使い切ってしまったが、ケチる場面ではないため一切の後悔もない。
ラルフとヘスターに渡した金も恐らく使い切っているだろうし、これで正真正銘の一文無しになる訳か。
本当にクラウスが手配した追手のせいで、色々と計画をめちゃくちゃにされた。
ずっと友好関係を築き、これからも師事していくつもりだった『銀翼の獅子』の面々も殺され、順調にいっていた冒険者生活も行えなくなり、家まで借りたオックスターからも離れることを強いられた。
己自身を強化することだけに専念する機会ができたことは良かったかもしれないが、それ以上に失ったものが大きすぎる。
弱肉強食のこの世界で、弱かった俺達が悪いといわれればそれまでだが……。
こちらも強くなった今、この借りを全て返させてもらう。
まずはアルヤジさんを、【銀翼の獅子】の面々を殺した隻腕の男カルロからだ。
強い怒りの感情を秘め、復讐心を胸に――あと数時間後に迫るカルロとの決戦に向け、二人と合流するため俺は一度家へと戻った。
家へと戻ってから、俺は能力判別で新たに分かったスキルを一通り試した。
カルロとの戦闘では使うつもりはないが、念には念を入れてどんなスキルなのかぐらいを把握はしておくため。
体力を無駄に消費しないよう、ザッと確認程度にスキルの確認を終えたところで……丁度いい時間となった。
新たに購入したフォロスコブラの防具を着込み、鋼の剣を腰に差す。
アルヤジさんが身に着けていた形見のネックレスを身に着け、準備は万端だ。
自室を出て一階へと降りると、リビングには既にラルフとヘスターの姿があった。
いつにも増して集中――というよりかは、メラメラとたぎるような怒りが俺にも伝わってくる。
お調子者のラルフが、この三ヶ月間は一切ふざけることなく、自身の信念を曲げてでも修行に打ち込んでいたからな。
ヘスターだって普段は冷静そのものなのに、熱くなっているのが見ただけで分かる。
「二人とも準備は万全か?」
「ああ。三ヶ月間も準備していたからな! 絶対に【銀翼の獅子】さん達の借りは返す」
「そうですね。……グリースも殺したいほどムカつきましたが、今回は明確な殺意が湧いています。必ずカルロを倒しましょう」
「準備が整っているなら良かった。怒りはいいが、絶対に冷静さだけは失うなよ。どんな挑発も流して、カルロを倒すことだけを考えてくれ」
「ああ。正直、怒りで震えているぐらいだが……俺は絶対に自分は見失わない!」
「私もです。冷静にカルロを追い込むことだけを考え、魔法を食らわせるつもりです」
「分かっているならいい。――それじゃ行くか」
俺の言葉に二人は無言で頷き、俺達は家を出て……カルロがよく現れるという酒場へと向かった。
既に日は暮れて、夜となっていた。
ただ、まだまだ街は人で溢れかえっており、商業通りともなれば昼間以上の賑わいを見せている。
俺達はそんな人混みの中を進み、一軒の酒場の前で立ち止まる。
『ダイナーポップ』という、裏道を入った先にある大きいとはいえない酒場。
中からは楽しそうな人の声が漏れ出ており、この楽しそうな声にカルロの声も混ざっていると思うと……怒りでドアを叩き壊しそうになるのを抑え、ゆっくりと扉を押し開けた。
店内は楽しそうにドンチャン騒ぎが行われていて、店員が忙しなく動いているため、入店した俺達に誰も気づく様子はない。
俺は瞬時に【生命感知】【知覚強化】のスキルを発動させ――店内にいる全ての人間の確認を行う。
……見つけた。気配は抑え込んではいるが、一際大きな生命反応がある男を見つけた。
カウンターにドッシリと座り、樽ジョッキに入った酒を勢いよく飲んでいる二メートル近い大柄の男。
後ろ向きで更に黒い外套を羽織っているため、片腕がないかどうかも分からないし、額の傷も確認できないが……。
発する生命力の強さから間違いなく奴が、【銀翼の獅子】の面々を殺したカルロだ。