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第148話 逃亡の準備


「私はクリスさんの話に納得しました。追手と戦ったとしても、私達が勝てるとは到底思えませんから。……逃げるとして、レアルザッドからオックスターに移り住んだように、また別の街に移り住むんですか?」

「確かにそれでもいいかもしれないが、確実に逃げるとしたらもう国を出るしかない。……ただ国を出るとしたら、必ず関所を通らなければ出ることができないんだ。もし関所にクラウスの手先が待ち受けていたとしたら、そこで全てが終わる」

「…………じゃあどうするんだよ。逃げる場所なんて何処にもないだろ!」

「一つだけある。――カーライルの森だ。カーライルの森で潜伏し、数ヶ月の間で一気に強くなることだけを考えて行動するつもりだ」


 そう。カーライルの森の拠点で暮らし、有毒植物を食べまくる生活を行う。

 家で栽培していた有毒植物も全て拠点へと移し、追手がオックスターに辿り着く前に万全の準備を整えるつもりでいる。


「確かに、森の中でしたら見つかる可能性は限りなく低いですね」

「森へは全員で移り住むのか?」

「そのつもりでいる。既にラルフとヘスターのことも、知られている可能性が高いからな」

「そうですか……。森での生活。また一気に振り出しに戻ってしまった感じですね」

「いいや、振り出しになんか戻っていない。俺達は一歩ずつ着実に成長できている。――ただ、一歩ずつじゃもう遅いんだ。ここから俺は一気に成長するつもりだ。二人には迷惑をかけてしまうだろうが、二人がもうついてこれないというなら止めるつもりは……」

「馬鹿野郎! 俺とヘスターに、クリスについていかないなんて選択はねぇぞ!」


 先ほど以上に机を強く叩いたラルフが、声を荒らげてそう叫んだ。


「ラルフ、ありがとな。……とりあえずしばらくの動きはこんな感じだ。何か聞きたいことはあるか?」

「……単純な疑問なんですけど。森にいる間の衣食はどうするんですか?」

「衣に関しては、副ギルド長とシャンテルに頼むつもりでいる。シャンテルに関しては、ポーションの生成をこれまで通り頼まなくてはいけないから、今日の朝一に事情を説明しに行くつもりだ」

「それでは、私が副ギルド長に諸々の説明をしてきますね。食に関しては……自分たちで獲るって感じですかね?」

「そうしてもらうつもりでいる。カーライルの森は動物も多いし、近くの池には魚もいるからなんとかなるはず。それと……二人には、俺がスキルを身につけるための魔物を狩ってきてもらいたいと思っている」

「スキルを身につけるための魔物?」


 レッドコングのいた北東の山林地帯で魔物を探して狩ってもらい、オンガニールの宿主となる魔物を見つけてきてもらうつもりでいる。

 完全に俺のためだけに動いてもらうことになるが、急成長をするために二人にはやってもらわなくてはいけない。


「ああ、そうだ。この間説明した植物の、宿主となる魔物を倒して運んできてほしい」

「分かりました。私達は魔物を倒して強くなりつつ、その倒した魔物を運んでくればいいんですね」

「なるほど。俺達は魔物を倒して強くなり、その倒した魔物によってクリスは強くなるって訳か! 一石二鳥って訳だな」

「そういうことだ。……とりあえずこれからの動きは以上となる。相手は【銀翼の獅子】の面々を楽々と殺した男。まだオックスターには来ないとは思うが、くれぐれも注意しつつ――早めにここを発つぞ」


 昨日あった出来事とこれからの予定についてを話し、俺達は朝食を食べてから別行動で準備に取り掛かる。

 俺は【旅猫屋】、ヘスターが冒険者ギルド、ラルフが買い出しと三人バラバラで行動をし、一刻も早くオックスターを発つために動き出した。



 すぐに商業通りへとやってきた俺は、早速【旅猫屋】へと足を踏み入れる。

 レッドコングを倒し、そのままカーライルの森まで運んでから、アルヤジさんの一件。


 一睡もできておらず、疲れもピークに達しているのだが、頭は覚醒し切っているせいで目だけが冴えている。

 そんな状態で【旅猫屋】へと入ったからか、いつも元気に出迎えてくれるシャンテルの態度が、今日は少しだけおかしかった。


「いらっしゃいませ! クリスさんじゃないで――え? だ、大丈夫ですか!? な、なんか凄く疲弊しているように見えますけど!?」

「大丈夫だ。それよりも大事な話がある」

「そ、そうですか……。いや、ちょっと待ってください!! ポーションを持ってきますから!」


 シャンテルはそう言うと、凄い勢いで店の裏へと走り、何かを持ってすぐに戻ってきた。

 手に持たれているのは……黄色いなんとも怪しげなポーション。


「これ、クリスさんにあげます! いつもお世話になっているお礼です! 無料ですので気にせずグイッといってください!」

「あ、ああ。助かる。それで話なんだが――」

「先にポーションをグイッと! グイッといってください!!」

 

 こっちに来いみたいなジェスチャーで、ポーションを飲めと言い続けるシャンテル。

 こりゃ飲まなきゃ話が進まないだろうな。


 対応も面倒くさいため、一気にポーションを飲んで話を進めさせよう。

 ――そんな軽い気持ちでポーションの蓋を開けて一気に煽ったのだが、飲み干した瞬間に体の重さが一気になくなり、深い睡眠を取った後のように疲れも吹き飛んだ。


「なんだ? このポーション」

「体力回復じゃなくて、滋養強壮のものを詰め込んだ疲労回復薬ですよ! 本当はたかーいポーションなんですからね!」

「凄いな。本当に体の疲れが取れた気がする。シャンテル、ありがとう」

「……へ? え、え? そ、そんな真顔でお礼を言われると照れちゃいますよ!!  ……え、えーと、本題!! 本題はなんですか!?」


 いつもは全く相手にしないからか、素直に褒めたら顔を真っ赤にさせて慌てふためいたシャンテル。

 こんな時こそ堂々と胸を張っていればいいのに、本当に面倒くさい性格をしているような。

 まぁ、だからこそ気を許せるというのもあるんだけど。


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