第137話 別れ
アルヤジさんに師事してから、約二週間が経過した。
なんだかんだ【銀翼の獅子】の面々は、この二週間付きっ切りで俺とラルフに指導をつけてくれ、ヘスターが爺さんに魔法を教えてもらっている期間、俺達も修行に打ち込むことができた。
「クリス君。この二週間で、スキルの発動と解除がかなり上達しましたね。僕なんかよりも何十倍もセンスありますよ。一日での成長も、今までで見たことがないレベルで強くなっていってましたから」
「アルヤジさんの指導が良かったからだ。……それに、無詠唱でスキルが使えるようになっただけで、同時にスキルを発動させることはできないままだったしな」
「それは前にも言いましたが、そう簡単に会得できたら僕の立場がないですから。基本的な練習方法と心得は伝授したつもりですので、毎日練習していつか使えるようになればいいんです」
「確かにそうだな。……アルヤジさん、二週間本当にありがとう。実に濃い二週間を過ごすことできたのは、全てアルヤジさんのお陰だ」
「こちらこそありがとうございました。またいつか……次はノーファストでお会いしましょう。ノーファストの街を案内しますから」
「ああ。次は俺達が遊びに行く。その時は街を案内してくれ」
アルヤジさんとガッチリ握手を交わし、別れの挨拶を済ませた。
ラルフとレオンも挨拶を済ませているようで、暑苦しい言葉をかけあっている。
「それにしても……。ヘスターはこの二週間、一度も稽古には顔を出さなかったね! アタシも弟子に稽古つけたかったんだけど!」
「ヘスターは丁度、別の人に師事を受けているからな。朝は早く、夜は遅く。俺とラルフも一度も会えていないし」
「……え? それって大丈夫なの? 変な爺さんじゃないよね!?」
「分からんが、見た感じは大丈夫だと思う。最後くらいは【銀翼の獅子】の面々に挨拶させたかったんだがすまないな」
「それは別に大丈夫だよ! アタシが会いたかったってだけで、いつでも会える距離だからさ!」
【銀翼の獅子】の面々にも説明した通り、ヘスターはこの二週間ほぼ毎日朝から夜中まで爺さんの下へと行っている。
ゴーレムなんてものを扱おうという魔法使いだけあって、俺が想像しているよりも凄い人なのかもしれない。
「それじゃ、俺達はもう行くぜ! ラルフ、修行は欠かさずに行えよ! クリスも……次会うときは敬わせてやるからな!」
「いや。次会うときは、レオンよりも強くなっておく」
「無理に決まってんだろ! ばーかっ! ――って言いたいとこだけど、クリスはこえーからなぁ! 俺よりも強くなってること、期待して待っているぜ!」
レオンはそう爽やかに笑い、片手を上げながらノーファストへ向けて歩き出した。
俺も手を振り返して見送ろうと思ったのだが、一つ伝え忘れていたことがあったのを思い出し、慌ててレオンを引き留める。
「すまん。一つ伝え忘れていたことがあった」
「おいおい! いい感じで別れの挨拶を済ませたのに、これじゃ締まらねぇだろ!」
「そんなのはどうでもいい。――伝え忘れていたことだけど、ノーファストで俺を探している人物がいるから気を付けてくれ。外で会話するときは“クリス”の言葉を発しないように徹してほしい」
「……なんじゃそりゃ? 一から十まで意味が分からねぇ」
「クリスさんはお尋ね人なんですか?」
「まぁ……そんなところだな」
ミスリル冒険者だし、実力もある。
わざわざ注意するほどのことでもないだろうが、気を付けるに越したことはない。
注意しなければ、【銀翼の獅子】の面々を巻き込むことになる可能性もあるしな。
「とりあえず、ノーファストではクリスの名前を言わないように気を付ければいいんだろ? 分かったぜ!」
「それだけでなく、接触してきた人物にはくれぐれも注意してくれ。何かあってからでは遅いからな」
「大丈夫だっての! クリスの情報は漏らさねぇからよ!」
「そうじゃねぇよ。そっちの心配をして言ってるんだ。……とにかく注意しろよ。俺の追手の分かっている情報は片腕がなく、額に傷のある男だ」
「分かった分かった! 詳しい情報までは大丈夫だっての。――それじゃ今度こそさよならだな! 二人共、元気でいろよ!」
忠告をあまり気に止めることなく、豪快に笑いながら再び歩き始めたレオン。
それからアルヤジさん、ジャネット、ジョイスの三人も、各々俺達に手を振りながら、歩き出していった。
「クリス、良い人達だっただろ! 【銀翼の獅子】のみんなは!」
「そうだな。全員良い人だった。実力もちゃんとあったしな」
「だろ? 俺はレオンさんみたくなりたい!」
「……うーん。レオンはやめとけ。通過点としてならアリだけどな」
「ずっと気になったんだけど、レオンさんに当たり強すぎだろ! 本当に凄い人なんだぞ!」
「別に当たりは強くねーよ。アルヤジさん以外はフラットだ。……それより、爺さんのところへ行こうぜ。ヘスターが気になる」
「確かにな! 結局、二週間顔見てねーぞ。毎日帰ってきてはいたみたいだけどよ!」
【銀翼の獅子】を見送った俺達は、ヘスターの様子を見に行くことに決めた。
話によれば、ゴーレムを破壊した遺跡で魔法の稽古をつけてもらっているらしい。
俺達がゴーレムを破壊したことで、爺さんも自由に遺跡を見て回れるから、稽古と調査を同時にできて都合がいいようだ。
今回はすぐ戻ってくる予定のため、スノーには留守番していてもらうとして……
俺とラルフは二人で南西の遺跡へと向かったのだった。