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第135話 スキル操作


 特訓を始めて約二時間くらいだろうか。

 ただ立ち止まってスキルの発動を繰り返しているだけなのに、酷く疲れを感じていて膝も疲労で震え始めている。


 スキルの発動には俺が思っている以上に体力を使うことと、解除に手間取っても体力の消耗が激しいことが分かった。

 ……なのにもかかわらず一向に上達する気配がなく、アルヤジは一瞬で発動と解除を行えるのに、俺は完全に発動し切ってからでないと解除ができないのだ。


「そろそろ止めにしましょうか。初日にしては中々上達したと思いますよ」

「……お世辞はいらない。自分で上達していないことはよく分かっているからな」

「クリス君は自分に厳しいタイプの人のようですね。そんな簡単に会得できたら、僕の立場がありません。決してお世辞ではなく、初日でこれだけのスキルの発動と解除の回数をこなせれば十分ですよ」


 俺の肩を叩き、そう励ましてくれるアルヤジ。

 色々と丁寧だし、本当に良い人なんだな。

 

「確かにそう簡単に会得できるわけはない――か。なぁ、もう一度手本を見せてくれないか?」

「お手本ですか? もちろんいいですよ。……そうですねぇ、実戦形式でお見せしましょうか?」

「実戦形式でいいのか? 俺に手の内を見せることになるぞ?」

「ふふふっ、それは今更ですよ。ラルフ君との試合も見せましたし、見たからといってどうこうできる訳じゃないですから」

「そういうことなら、お言葉に甘えさせてもらう」

「クリス君はスキルを使わなくていいですからね。体力も限界に近いですし、僕のスキルの使い方だけを注視してください」


 アルヤジはそう言って木剣を構えた。

 俺も少し距離を取り、言葉通りスキルの使い方だけに意識を向けて対峙する。


「いつでもどうぞ」


 その言葉と同時に、俺は攻撃を仕掛けにいく。

 アルヤジの言う通り、体力の限界は近いがダラダラとやるつもりはない。


 一気に“ゾーン状態”に入り、本気で倒しにいきつつ……アルヤジの動き全てを脳内に叩き込む。

 僅かな筋肉の動きも見逃さないよう、凝視しながら近づいていくが間合いに入っても尚、アルヤジが動き出す気配はない。

 動かないのであれば――本気で打ち込むだけだ。


 地面が抉れるぐらい踏み込み、木剣を構えたまま動かないアルヤジに対し、俺が上段斬りを打ち込んだその瞬間。

 目の前にいる人間が、全くの別人に変わったような感覚に陥る。

 

 筋肉量、感知能力、放たれる圧まで全てが変わり、俺が先に打ち込んだはずなのだが――後から動き出したアルヤジの木剣は、先に俺の胴部分へと打ち込まれた。

 それからすぐに普段のアルヤジへと戻り、一歩下がって距離を取ってきた。


 …………正直、意味が分からない。

 ゾーン状態だったから全て感知できていたが、この現象がありえるとするのならば……複数のスキルを一気に、それも同時に発動させた――だ。


 グリースや俺が行っているように重ね掛けをしていく訳でなく、全てを一気に発動されている。

 ついでに言うならば、複数のスキルの解除も同時に行われた。


 ……そしてもう一つ気になったのだが、アルヤジは口に発することなくスキルを発動させていること。

 小さく呟くとかでもなく、完全に無言のままスキルの発動に至っている。

 

「…………凄い。実際に打ち合ってみたから分かったが、とんでもない技量だな。スキルをそういう風に扱う発想も凄い」

「随分と褒めてくれますね。お世辞だとしても、久しく褒められることなんてなかったので嬉しいです」

「いや、お世辞なんかじゃない。今行ったのはスキルの同時発動か?」

「――っ! クリス君、よく分かりましたね。一回の打ち合いで気づかれたのは初めてですよ」

「やはりそうだったか。それと、スキルの発動を口に出さずに行っているよな?」

「ええ。こちらは誰でもできるようになると思います。まぁ意識しないと一生できないと思いますが……。スキルの発動は、口出さずともできるということだけ頭に入れておいてください。これがスキルを高速で発動と解除させる一番の近道です」


 …………この人は本当に凄い。

 まだ垣間見えているのはスキルの扱いの一点のみだが、それだけでも練度の高さと工夫がみられる。

 なんとかして有毒植物に辿り着いた俺と似たような……底知れぬ執念が感じ取れた。


「アルヤジさん。本当に参考になった」

「あれ……? 急にさん付けですか?」

「尊敬する人には敬称をつけると決めている。アルヤジさんで二人目だな」

「二人目ですか? それは大変光栄ですね。ちなみに一人目はどなたなんですか?」

「レアルザッドって街で質屋をやっている人だな。俺の命の恩人でもある人だ。……それよりも、もっと実戦形式で見せてもらってもいいか?」

「もちろんです。僕の体力が持つまでお見せしますよ」

 

 こうして俺は何か一つでも盗めるように、何度も攻撃を仕掛けては防がれてを繰り返し――アルヤジさんの体力が尽きるまで付き合ってもらった。

 まだ全然理解の範疇にないが、それでも呼吸の取り方やスキルを発動する前の動作。

 細かい部分を注力して見たことで、少しは自分に落とし込むことができた気がした。


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