第119話 それぞれのやること
クラウスについての情報を聞いた日から、更に二週間が経過した。
この二週間何をしていたのかというと、特段変わったことをやっておらず、シルバーランクの依頼を受け続けて金稼ぎに勤しんでいた。
ヴェノムパイソンの緊急依頼の報酬、グリースを排除したことでの報酬、ここ三週間の依頼達成による報酬。
これらのお陰で、金が大分貯まってきた。
そのため――俺はここから二週間、カーライルの森に籠るつもりでいる。
まだ手をつけていないが自家栽培も順調だし、長期間籠る必要はないのだが、今回の第一の目的は新たなオンガニールの発見。
今のところ、ゴブリンの一本だけしか見つけられていないし、宿主であるゴブリンの栄養がなくなってきたのか枯れ始めている傾向にもある。
グリースの死体に作付できていなかった場合、オンガニールがなくなってしまうことになるため、早急に新たなオンガニールを探さなければならない。
ということで、カーライルの森を練り歩き、オンガニールの捜索へと向かうことを決めた。
予定としては、最初の一週間はオンガニールの捜索。
見つけることができれば、残りの一週間は有毒植物の採取に移り、見つからなければ二週間全て使って捜索に当てるつもりでいる。
「今日から、クリスは二週間ほど森に籠るんだよな!」
「ああ。二人も依頼は行わないんだったっけか?」
「はい。私とラルフはノーファストに行ってこようと思ってます。クリスさんを探しているという人物を逆に探しつつ、色々と役に立つ情報を集めたり買い物をしてきます」
「そうか。くれぐれも気を付けて行って来いよ。多分大丈夫だとは思うが、ラルフとヘスターも顔が割れている可能性もあるからな」
「はい。警戒は怠らずに行ってきます!」
どうやら二人は三大都市の一つ、ノーファストに行くらしい。
俺が森で模索するように、二人も成長のヒントになるものを探しに繰り出すようだ。
残されたスノーはというと、俺と一緒にカーライルの森に行く予定だったのだが――。
シャンテルが是非預かりたいということで、言葉に甘えて任せることにした。
オンガニール探しとなると、俺が拠点にいる時間は短くなるだろうし、スノーにとってもシャンテルと一緒に留守番していた方がいいはず。
まぁこの間のように、スノーの遊び相手をとっ捕まえて、拠点で遊ばせているのもいいとは思ったんだけどな。
ということで二週間という短い間だが、俺達はバラバラに生活することとなった。
この二週間で、二人が爆発的な成長をするかもしれないし、俺も成果がなかったとならないように気合いを入れないといけないな。
それから間もなく、前日にまとめて置いた荷物を背負い、俺は一人カーライルの森を目指して歩を進めた。
オックスターを出てカーライルの森へとやってきた俺は、すぐさま拠点へと向かい、荷物を置いてからまずは……。
グリースの死体を見に行くことにした。
前回同様、最後に見に行くのが気持ち的にベストなんだろうが、今回に限っていえば、グリースにオンガニールが生えているかどうかでこれからの動きにも関わってくるからな。
生えてくれていればいいんだが、はたしてどうだろうか。
オークジェネラルの時の失敗を活かして、心臓はキッチリと残したんだが……。
オンガニールの独特の気配を頼りに進んで行くと、オンガニールの生えたゴブリンが見えてきた。
そして、その横にはグリースの死体が見える。
オークジェネラルの時も思ったが、死体を放置していても他の生物に食われる様子がない。
蛆やらも湧きそうなイメージだが、もしかしたらオンガニールは、生きるもの全てを寄せ付けないのかもしれない。
そんなことを考えながら、更に近づいてグリースの死体を確認してみると――。
「…………生えている、な」
グリースの死体からは、オンガニールがしっかりと生えていた。
オークジェネラルの時の茶色く枯れた様子とは違い、複数の根が絡まり合っていて、グリースの心臓付近からはぶっとい芽が出ている。
ゴブリンのオンガニールとはまた別種かとも思ってしまうほど、しっかりしたオンガニールが生えてきていた。
嬉しい。嬉しいのだが、それ以上に……。
「……気味が悪いな」
ゴブリンのオンガニールですら、相当な気味の悪さを感じていたが、グリースから生えているものはレベルが違うな。
『植物学者オットーの放浪記』にも書かれていた、オンガニールは個体差が激しいという言葉を俺は今、身をもって感じている。
……ただ、これでグリースをオンガニールの宿主にさせるという計画は達成できた。
この実を食べなくてはいけないという嫌悪感はあるものの、この芽を見たら分かる通り、ゴブリンの実とは比べ物にならない性能を秘めている可能性がある。
今日から二週間後。
この成長度合いから見て、森を出る時には実がなっている可能性が高いため、また帰り際に様子を見に来るとしようか。
オンガニールの生えている場所を離れ、俺は新たなオンガニール探しへと移ったのだった。