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第113話 変な顔

 

 ヘスターが作りだした土の壁が一気に崩れていく。

 そして、中から出てきた二人は――何故か涙でぐちゃぐちゃになっており、酷い顔になっていた。

 

「ふ、……ふふっ、あっはっはっ! ………………おい。こっちは疲れてるんだから変顔で笑わすな」

「笑わぜでねぇよ!! 俺もベズダーも大真面目に心配しでだんだぞ!!! なのにグリズど来だら――やっぱずげぇよ!」

「…………本当に、本当に無事でいでくれで良がっだです」


 二人して両鼻から鼻水が地面についており、俺は思わず笑ってしまったのだが……どうやら真剣に心配して泣いていたらしい。

 ラルフは袖で思い切り目の涙を拭き、ヘスターはというと――。

 そう言葉を漏らしてから、勢いよく俺に飛びついてきた。

 

 急な行動に呆然とし一瞬だけ固まったが、なんとかその飛びつきを地面を転がるようにして躱す。

 ――危なすぎる。さっきまでヴェノムパイソンの噛みつきを躱しまくったから、咄嗟に反応できて良かった。


 ヘスターは俺に綺麗に躱されたことで、勢いそのままに頭を雪の中に突っ込んだ。


「もがっ! ……な、なんで避げるんでずが!! ――酷いでずよ!」

「いや、ヴェノムパイソンの毒を思い切り全身に浴びてしまったからな。ジンピーのポーションもべったりだし、今の俺に触れたらかなり危険なんだよ」

「…………あー、そういうことでしたか」


 冷静な俺の対応に、恥ずかしそうに顔を赤らめたヘスター。

 とりあえず今の俺は毒まみれの超危険人物なため、二人からは距離を置いて会話をする。


「とりあえず、六体のヴェノムパイソンは全て殺した。最低でも十匹と言っていたから、あと三匹は倒したいが――。ひとまず俺は、倒したヴェノムパイソンの舌を剥ぎ取るから、その間に二人は涙を引っ込めておいてくれ」

「わがった」

「わがりました」


 こうして、まずはヴェノムパイソンの死体から舌を剥ぎ取って回る。

 この漆黒の蛇皮も高く売れそうだが、今回は持ち帰ることは無理そうだ。


 牙に毒があり危険なため、俺が一人で六匹のヴェノムパイソンの舌の剥ぎ取りを行った。

 その間にようやく涙が収まったのか、目は真っ赤だが二人の様子は平常に戻っている。


「よし、これで全部の舌を剥ぎ取り終わったな。……二人共、涙はもう収まったか?」

「ああ、みっともないところ見せて悪かったな!」

「私も……奇行に走ってすいませんでした!」


 爽やかな笑顔で謝るラルフと、未だに顔を赤くさせたまま頭を下げているヘスター。

 とりあえず謝罪は流すとして、これからの動きについてを話し合いたい。


「謝罪はいらん。それよりもこれからどうするかを話したい」

「どうするか……? オックスターに帰るんじゃないのか? グリースの奴のことを伝えなきゃならないし!」

「いや、副ギルド長が最低十匹と言っていたから、あと三匹は倒さなきゃ依頼は達成じゃないからな」

「本気かよ……。殺されかけたんだぞ?」

「だから、お前達が大げさなんだよ。戦う前にも言ったが、【毒無効】を持つ俺にとってはただのデカい蛇だった。確かに危険な場面ではあったが、これっぽっちも殺されるなんて思わなかったぞ」

「私達との温度差が凄いです……。【アースウォール】の中で、私とラルフは肩を寄せ合いながらクリスさんの無事を祈ってたんですよ」

「そんなこと知るか。――見りゃ分かるだろうが、傷もほとんど受けてないだろ?」

「確かに……。じゃあこれから三人で、残りのヴェノムパイソンを仕留めにいけばいいんじゃないのか?」


 そう。普通ならばその通りなのだが……。

 ――グリースをどうするかを、俺達は考えなければいけない。


「そうなんだが、俺はグリースをどうするかを聞いているんだ。……ちなみにだけど、俺はあいつを殺すと決めた」

「こ、殺す……。人を殺すのか」

「グリースは明確な殺意を持って、俺達にヴェノムパイソンをなすりつけてきたからな。……親切にしてくれた人には親切に。高圧的な態度の奴には高圧的に。施されたら施し返して、殴られたら殴り返す。そして――殺されかけたら、殺す」


 殺意を込めて、二人にそう宣言した。

 二人は少し身震いをしながら、背筋をピンと立てた。


「もし殺したのがバレたら咎められるのは俺達だし、正直殺すのは反対だ……。でも、グリースに殺されかけたのは事実だし、あいつを野放しにしていいとは思わない」

「な、何か妥協案はないんですかね……?」

「ないな。何度かは見逃してきたが、今回ばかりは絶対に許せない。二人がやらないとしても、俺は一人で実行する」


 俺の意思が変わらないことを悟ったのか、二人はゆっくりと頷いてから顔を上げた。


「……分かった。クリスの意思に変わりがないなら手伝う。俺達は一蓮托生だ」

「ですね。私もクリスさんについていきます」

「すまないな。俺の我儘に付き合わせてしまって。……お前達には、殺人の重荷は背負わせないから安心してくれ」

「いや、付き合うと決めたら付き合う! グリースをこのままにしていたら、俺達が悪者にされてもおかしくないしな。甘えは捨てたよ」


 こうして、まずはヴェノムパイソンの残党ではなく、崖から飛び降りたグリース一行を追うことにした。

 あいつらにオックスターに帰還させてしまうと、殺すのが厄介になる。


 俺達が死んだと思って、だらだらと帰還しているだろうから――飛ばせば追いつくはずだ。

 ヴェノムパイソンの死体を焼却し、俺達は急いで北の山から下山することにしたのだった。

 


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