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第112話 無双


 血を噴き上げながら、地へと伏せるヴェノムパイソン。

 そして――その光景を見て、隣で攻撃を仕掛けようとしていたヴェノムパイソンが一瞬固まったのを俺は見逃さない。


 頭を裂かれて倒れたヴェノムパイソンを踏みつけながら懐に潜り込み、腹部に鋼の剣を突き刺した。

 慌てたヴェノムパイソンは、体を一気に収縮させて俺を締め上げに動いたが――それを冷静にジャンプで躱し、避け際にもう一発剣を突き刺す。

 

 ――楽しい。本当に楽しいな。

 親父に死ぬ一歩手前まで打ち合いをさせられた時、何度かあったこの感覚。


 視界に入る情報が全て頭で理解でき、俺以外の全員がスローで動いているようなこのゾーン状態。

 今までは頭では反応できていたけど、体が一切ついてこなかったんだが……今はギリギリではあるが体がついてこれる。

 

 二カ所刺されたことで、悶えるように体をくねらせたヴェノムパイソン。

 不格好な姿勢から懲りずに噛みつきに来るが、目の前まで引き付けてから軽くステップを踏んで躱し、横から頭を鋼の剣で突き刺した。

 

 すぐに剣を引き抜き、距離を取ると――ヴェノムパイソンは苦しそうに地に伏せた。

 三カ所の刺傷に加えて、毒まで盛られているからな。

 いくら巨体のヴェノムパイソンと言えど、致命傷となったのだろう。


 とりあえず、これで六匹中三匹を倒し、残るは三匹のみとなった。

 ここまで持って来れれば、もう負ける心配はないだろう。


 俺は大きく息を吐き、次の動きを考える。

 ヘスターとラルフに声を掛け、三人で仕留めにかかってもいい。


 今の状態の俺がいれば二人を守りながらも戦える。

 経験を積むことのできる貴重な好機だし、それが一番なのは分かっているけど……。

 二人には悪いが、ここは俺一人で片付けさせてもらう。


 俺は血振りし流れるように、追加でジンピーのポーションを刃に塗りたくった。

 そして、正面を切って構えているヴェノムパイソンへと向かう。


 他のヴェノムパイソンがやられているのは見ていたと思うが、スノーパンサーのように逃げる気配は一切見せずに、三匹とも俺の下へと向かってきた。

 相手取るのは二匹が限界だと思っていたが、今の俺の集中し切った状態なら三匹相手でも立ち回れる気がしている。


 徐々に距離が縮まっていき、ヴェノムパイソンの間合いに踏み込んだ瞬間――弾丸のような噛みつきが飛んできた。

 一切芸がないが、それでも三匹ともなると対処が一気に難しくなる。

 

 最小限の動きで避けつつ、控えている二匹の攻撃にも備えなくてはいけない。

 顔の正面からは常に外れるように動き、タイミングを合わせて攻撃を仕掛けてくるヴェノムパイソンの噛みつきを、俺は次々と避け続ける。


 締め上げにかかろうとする動きだけは剣で防ぎ、噛みつきには決して剣では防がずに全てを避けていく。

 ――これは良い訓練になりそうだな。


 三匹を相手取ることにももう慣れたため、いつでも三匹を殺せる状況だが……。

 こいつらは俺を殺そうとしてきたのだから、少しくらいは訓練に付き合ってもらわなければ割りに合わない。

 敢えて攻撃は加えずに、俺はひたすら避け続けて動きが鈍るのを待つ。

 

 最初の方は三方向からの波状攻撃に面を食らって数回攻撃を受けたが、動きに慣れた今では掠りすらしない。

 三匹全てのヴェノムパイソンに、一発ずつだけ鋼の剣を突き刺しているため、時間が経過していく毎に動きが鈍り始めてきた。


「――そろそろ限界か?」


 体を擦らせて発していた威嚇音も消え、あからさまに噛みつき攻撃の速度も落ちてきた。

 ……この速度ではもう何の訓練にもならないため、俺は一気にトドメを刺すことに決める。


 動きの鈍くなった噛みつき攻撃に合わせ、剣を叩き込むことで頭を潰し――まずは一匹。

 懐に潜り込んで胴体から両断させ、身動きの取れなくなった頭に鋼の剣を突き刺し――二匹目。


 最後はじりじりと後退し始めたヴェノムパイソンに、俺がゆっくり近づいていくと……最後の悪あがきとして行ってきた噛みつき攻撃。

 これを一歩横に移動して楽々と躱し――俺の真横を通り過ぎた首を上段から斬り落とした。


 噛みつきの勢いをそのまま、首だけが地面を転がっていき……。

 六匹全てのヴェノムパイソンが死んだことで北の山の頂上に静寂が流れる。


「…………ふぅー。なんとか倒せたか」


 全身が気怠く、視界もぼやぼやとしている。

 今までの人生の中で一番の集中力を発揮したし、肉体の限界も大幅に超えていた気がする。


 ホーンディアーを捕食していたヴェノムパイソンは一撃でぶった斬れなかったが、最後の攻防では一撃で両断することができていたしな。

 血振りしてから剣を鞘へと納め、未だに端っこで【アースウォール】を使っているヘスター達に声を掛けに向かう。


「ヘスター、ラルフ。終わったぞ。もう魔法を解いていい」


 俺は【アースウォール】に手を当てながらそう声をかけると、すぐに魔法が解かれて目の前の土の壁が一気に崩れた。


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