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第111話 一対多


 先手を打ってきたヴェノムパイソンが行ってきたのは、先ほどホーンディアーに対してやっていた、予備動作なしからの噛みつき攻撃。

 ギリギリ目で追えるかどうかの速度なのだが、俺は鉄の剣でその噛みつきをなんとか防ぎ、すかさず首部分を狙って鋼の剣で突き刺す。


 この鋼の剣での突きは、ダメージを与えることが最優先ではなく、体内に毒を注入することが目的の――いわば注射針のような感覚。

 これで少しでも動きが鈍ってくれればいいのだが、剣を突き刺しても動きが鈍る様子は微塵も見せておらず、続けざまに攻撃を仕掛けようとしてきている。


 気をつけなければいけないのは、巨体に巻き付かれて締め上げられること。

 ホーンディアーがそうだったように、締め上げられてしまうと一切の身動きが取れずに一瞬で丸のみにされる。

 そして、丸のみにされたら圧によって一瞬で心臓は止められ、命はないと思うしかない。


 とにかく捕まらないように逃げて攻撃を躱しつつ、俺は逆に隙を突いて攻撃を与えなければならないのだ。

 六匹全てが俺を捕食しようと目を光らせており、その圧迫感で冷や汗が止まらないのだが――。

 このヒリヒリした緊張感がたまらない。

 

 熊型魔物と同等の危機的状況に、俺は過去一番の集中力を発揮できている。

 最初に攻撃を仕掛けてきた右端のヴェノムパイソン、そして真ん中で様子を窺っていた二匹も続くように攻撃を仕掛けにきた。


 右端のヴェノムパイソンは地を這うように、真ん中二匹は頭を持ち上げる姿勢となり、上からの攻撃を狙っている。

 これはヴェノムパイソンの知恵なのか、上を注意したら下が手薄になり、下を注意したら上が手薄になるという状況を作られた。


 そしてこうなると……大抵の生物は、二匹が構えている上に視線がいきがちになる場面だが、俺はあくまでも視線を下のヴェノムパイソンに向ける。

 高い位置からの攻撃は咄嗟で防げるが、足はすくわれたら一巻の終わり。


 どんなに高い位置からでも、最終的には地に足つけている“俺”を攻撃しなければいけないのだ。

 どっしりと構えて攻撃を防ぎ――鋼の剣で毒を刺し込んでいくことだけに意識を集中させる。


 まず動いてきたのは、高い位置で構えている真ん中二匹のヴェノムパイソン。

 上から毒を噴出させ、大量の毒を浴びせるように吐き出してきたのだが、もちろん俺はそれを避けることはせずに全て受ける。


 そして、二匹が行った毒吐きとタイミングを合わせるように攻撃を仕掛けたのは、先ほど俺が首元に鋼の剣を突き刺した右手側にいたヴェノムパイソン。

 毒をモロに浴びたことで、俺の動きが止まると踏んでの行動だろうが……残念だが俺に毒は効かない。


 そんなことは知る由もないヴェノムパイソンは、地を這うように距離を詰めてくると、俺の足目掛けて一気に噛みついてきた。

 俺はそのヴェノムパイソンに対し、上から突き刺すように剣で首を貫く。

 

 毒を浴びせたことで慢心し、単調になった攻撃に突きを合わせただけの簡単な作業だ。

 首を上から貫かれたことで、動きを止めたヴェノムパイソンの頭を、鋼の剣で更に撫で斬ってから思い切り顔を蹴り上げると、体を何回転もさせながら地面を転がっていた。


 ――よし。

 これで右端にいたヴェノムパイソンは、ほぼ動けなくなったとみていい。

 生命力を考えるとトドメを刺しておきたいが、それは今やるべきことじゃないな。


 真ん中のヴェノムパイソン二匹に剣を向けつつ、空いた右手側にゆっくりと移動する。

 残りのヴェノムパイソンは五匹。

 右端の奴がいなくなったことで囲い込みからも脱することができたし、あとは上手く立ち回って全てのヴェノムパイソンを倒し切るだけだ。


 六対一の場面で一匹がやられたことにより、シューシューと体を擦らせながら威嚇をし始めた五匹のヴェノムパイソン。

 そんな状況を他所に、俺は頭の中で攻撃パターンのシミュレーションを行う。


 まだ戦闘を開始してから間もないが、ヴェノムパイソンのおおよその攻撃パターンを掴んだ。

 メインの攻撃は予備動作なしの噛みつき、そして大技は弓のように引き絞っての噛みつき。

 毒を噴射するのも大技に入るのだろうが、俺には何の意味もないため一切考えない。


 それから自身の体で円を作り、獲物を閉じ込めてからの締め上げと、足元を狙っての足払いくらいが主な攻撃手段。

 手足がない体の影響もあるのか、とにかく攻撃が単調なのが目に付く。


 その分、他の魔物とは違って、同種であるヴェノムパイソンとの連携を図ってくるのだが……。

 それでも二体までなら、余裕で捌くことができる自信が出てきたな。

 

 短く強く息を吐き、今度は俺から攻撃を仕掛けることを決めた。

 足は絶対に止めず、五匹のヴェノムパイソンの周りを大きく回るように移動しながら、二対一以上の状況を作らせないのが必須。


 それだけを意識し、俺はつい笑みを溢しながら距離を詰めていく。

 先ほど真ん中で頭を上げて高い位置をとっていた二匹のヴェノムパイソンは、首を弓のように思い切り引きながら、近づく俺に対して威嚇しつつ攻撃を図ろうとしてきている。

 

 カーライルの森のゴブリンアーチャーもそうだったが、反応できる速度だと分かってしまえば――。

 一直線に飛んでくるものほど躱しやすいものはない。

 高速で飛ぶように大口を開けて攻撃を仕掛けてきたが、俺は上体を傾けてその攻撃を避けつつ顔面に鉄剣を叩き込む。


 ラルフの剣だし、攻撃を弾くという意味合いで剣を振ったのだが……。

 手に残る感触は完璧で、ヴェノムパイソンの突っ込んできた威力が上乗せされたこともあり、そのまま頭を縦に真っ二つに斬り裂いた。


 血飛沫が上がり、頭を裂かれたヴェノムパイソンはそのまま地に伏せて動かない。

 ……まさかの一撃で、ヴェノムパイソンを仕留めることに成功したのだった。


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