第97話 ジンピーの効能
新しい家の契約を終えたところで、俺は一度宿屋へと戻ることにした。
諸々の話を聞いていたということもあって、もう昼過ぎだし時間的にも丁度いい。
『木峯楼』へと辿り着き、部屋の中へと入る。
今回は音を立てて入ったため、帰ってきたことに気が付いたスノーが、物凄い勢いで入口まで駆けてきた。
今の今まで寝ていたのか、目がとろんとしているが……尻尾がはち切れんばかりに振られていて、今にも俺に飛び掛かろうとジャンプしている。
「動けないから離れろ。ほら、ひとまず飯だ」
足にまとわりついて歩きにくいため、スノーを抱っこして部屋の中に入った。
俺のことを食おうとしているのかと思うほど、抱っこしている手をペロペロと舐めまくるスノーに、帰りに買ってきたミルクを皿に移してから与える。
この様子なら、もう固形の物でも食えそうだがどうなんだろうな。
皿に水滴を一滴も残さないように綺麗に舐めとるスノーを見ながら、俺も昼食とリザーフの実も食べていく。
それからスノーが走り回るのをひとしきり見たところで、能力判別を行うため再び部屋を出ようとすると……。
俺のズボンの裾に必死に噛みつき、行かせないように必死の抵抗を見せてきた。
でも、まだ歯が生えそろっていないからか、噛んではすぐに外れてしまい、また噛んではすぐに外れてしまうというのを扉の前まで繰り返している。
「…………お前も一緒に行くか?」
「アゥッ!」
能力判別を終えたら、またすぐに部屋に戻ってくる予定だし――その度にこれをやられたら面倒くさい。
そう自分を納得させてから、鞄にスノーを入れて俺は部屋を出た。
鞄にいれた状態なら見つからないし、見つかっても犬か猫としか思わないだろう。
それに行く先は教会だけだしな。
言葉は分からないだろうが、一応うるさくしないように言いつけてから、俺は教会へと足を運んだ。
「教会の中でも静かにしててくれよ」
「クゥン」
言葉が分かっているんじゃないかと思うほど、綺麗に返事をするかのように小さく鳴いたスノー。
俺は数回頭を撫でてから、教会の中へと入った。
前回来た時と同じように信者の姿は一人も見えず、講壇で暇そうに佇む神父が一人だけ。
この教会がどうやって運営できているのか気になるが、それよりも俺の能力値の方が気になる。
「あ! どうも、ご無沙汰しております! この間の能力判別の人ですよね?」
「ああ、そうだ。今日も能力判別をしてもらいたいんだが大丈夫か?」
「もちろんです。ごらんの通り、暇を持て余していますので! ささっ、こちらにどうぞ!」
神父に案内されるがまま、奥の部屋へと入って行く。
前回と同じ水晶の置かれた部屋に座り、金貨と冒険者カードを手渡してから、能力判別が終わるのを座って待つ。
「うっ、ふぅー……。終わりました。冒険者カードをお返し致します」
「ありがとう。助かった」
一回目ということもあるだろうが、前回よりかは疲れた様子を見せていない神父。
この様子なら、あと三回は訪れても大丈夫だろうか。
神父を見てそんなことを思いながら、冒険者カードを確認する。
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【クリス】
適正職業:農民
体力 :16 (+55)
筋力 :11 (+54)
耐久力 :11 (+50)
魔法力 :3 (+2)
敏捷性 :8 (+4)
【特殊スキル】
『毒無効』
【通常スキル】
『繁殖能力上昇』
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おおっ!
まずは前回からの成長度を調べるべく、能力値を見てみたんだが――予想以上に能力が上昇している。
体力と耐久力はそれほどでもないが、筋力に至ってはプラス値が18も上昇しているな。
リザーフの実に関しては毎食のように食べていたし、大量に採取してきたこともあり、まだストックも尽きていない。
成果が出たことに、俺は顔がニヤケるのを抑えられない。
それと敏捷性が上昇しているのは、オークジェネラルの死体を傍に置いてきたときに、実を一つ採取して食べたことによる上昇だろう。
スキルに関しては何の変化もないことから、あのオンガニールに成る実の効能は、敏捷性+2と『繁殖能力上昇』のスキルの付与で確定と思っていいはず。
スキルは使いどころを全く見いだせないスキルだが、単純に敏捷性が2も上がるのは非常に大きい。
ただ、オンガニールの存在自体がまだ一つしか確認されていない上に、実の成る速度もかなり遅い。
敏捷性を効率良く上げるには、やはり別の有毒植物を見つける方がてっとり早いかもしれないな。
……そして何と言っても、俺自身の能力もかなり上がっている。
オークジェネラルを倒したからか、体力筋力耐久力が共に2上がり、今まで微動だにしていなかった魔法力も1上昇している。
なんだかんだいって、こっちの能力値が上がるのも嬉しいんだよな。
ひとしきり能力値を見て満足したところで、俺は教会を出て、持ってきたジンピーのポーションをすぐ近くで飲むことに決めた。
飲み終えたら、すぐさま能力判別を行ってもらう予定。
教会前の小さな池とオリーブの木が生えているところで腰を下ろし、鞄からスノーを出してあげてから、俺はジンピーのポーションを手に取る。
見た目はエグい色をしてるけど、はたして味の方はどうなんだろう。
蓋を取り、まずは臭いから嗅いでみる。
……色味に対して、そこまでキツイ臭いはしないな。
香ばしい葉っぱの香りに、若干土の臭いが混じっている感じ。
スノーが興味深そうに俺を見守る中、軽くポーションを振ってから、一気にポーションを飲んだ。
――おっ? 意外と不味くない。
少し苦いお茶って感じで、回復ポーションよりも全然飲みやすい。
見た目は飲む気が失せる色をしているが、味に関しては全然飲めるレベルなため、俺はそのまま一気にジンピーのポーションを飲み干した。
さて、これで能力の上昇があるかどうかが問題なのだが……作成に金貨二枚をかけたのだから、成果が出てほしいところ。
軽くスノーの気分転換をさせたところで、再び鞄の中へと戻し、教会の中へと戻った。
いつもの如く、神父はちびちびと魔力ポーションを飲んでいたが、俺が入ってくることに気が付くと、何も言わずに奥の部屋へと入って行った。
俺もその後を続くように進み、先ほど座った椅子に座り直す。
「それでは二回目の能力判別いきますよ――。ふっ、はぁー、はぁー……。お、終わりました。ご確認お願いします」
「ああ、ありがとう」
俺がポーションを持参していたために、時間もほとんど空けずに能力判別をお願いしたせいで、かなり疲弊した様子を見せている神父。
そんな神父を横目に、俺は冒険者カードを確認する。
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【クリス】
適正職業:農民
体力 :16 (+55)
筋力 :11 (+54)
耐久力 :11 (+50)
魔法力 :3 (+2)
敏捷性 :8 (+6)
【特殊スキル】
『毒無効』
【通常スキル】
『繁殖能力上昇』
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お、おおっ! 敏捷性が上昇している。
それも、オンガニールと同じく2も上がっているぞ。
ジンピーは敏捷性を上昇させる植物だったか。
あの時、面倒くさがらずに採取して本当に良かった。
――これで、体力、筋力、耐久力、魔力、敏捷性。
全て能力値を上昇させる植物を見つけることができた。
ジンピーの葉は、ポーションにしないといけないため摂取に手間がかかるが、2上昇するのであれば何も問題ない。
シャンテルに大量生産をお願いするとして、これで俺自身の強化の目途が立った。
となると、後はヘスターとラルフの能力アップだな。
あの二人は元々の才能があるため、そこまで心配していないが……生ぬるい成長では駄目なのだ。
二人には今日の成果と今後の方針を改めて伝えるとして、満足のいく結果が出て上機嫌で宿屋へと戻ったのだった。