396話 集いし魔神達①
聖なる魔神の神域にて聳え立ち、竜崎達を見下ろしたるは、7柱の巨神。
燃え盛る炎を背負うは―。マグマのような赤黒き肌と強靭な体躯を誇り、狂暴なる肉食恐竜の如き顔を持つ『火の高位精霊』【魔神】“イブリート”
豪雨と激流を背負うは―。潮のような蒼き肌と人魚の如き美しき身体と魚の脚、クラゲの触手を髪とする『水の高位精霊』【魔神】“エナリアス”
凍てつく寒威を背負うは―。手足や髪を氷、縦ロールの先に氷柱と、氷華の如き白睫毛、ロシア帽と長外套に似た深雪を纏った『氷の高位精霊』【魔神】“フリムスカ”
唸る雷光を背負うは―。雷霆のような黄光肌と蒼白光の手足を持ち、短髪全てを避雷針の如く尖らせ、常に迅雷帯する女雷様な『雷の高位精霊』【魔神】“サレンディール”
泰然たる岩土を背負うは―。苔土や煉瓦、岩石で身を構成し、座禅を組む足は流砂。そして巨大な平石に乗り、土偶の王冠や全身を煌びやかな鉱物で装飾した『土の高位精霊』【魔神】“アスグラド”
颯々たる風渦を背負うは―。雲のフリル付き緑風ドレスを着、風の羽を髪とし綺麗に纏め、竜巻製の小シルクハットを被った淑女『風の高位精霊』【魔神】“エーリエル”
光を受け七色に、また神秘の脈動を見せるは―。金剛石や水晶を凌ぐほどに美麗な鱗、硝子のように滑らかな翼被膜、取り込まれそうなほどに深蒼の瞳を湛える弩級竜『竜の魔神』【神竜】“ニルザルル”
――およそ世界を統べる存在と言っても過言ではないであろう、彼らが。全ての者を拝させるほどの威光放つ彼らが―。
竜崎とニアロンのため、この場に集ったというのである―。
数度目にさせてもらった魔神、初めてお目にかかった魔神。そんな彼らの勢揃いっぷりに、身を震わせてしまうさくら。マーサとシベルも、知っていたとはいえ動けなくなっている。
そんな中平然としているのは、勇者一行のみ。そしてその中でも渦中の人である竜崎が、一切臆することなく進み出た。
「皆…有難う。集まってくれて」
アリシャの介助を一旦辞退し、杖を突きながらも単独の力で深々と礼を示す彼。そして、申し訳なさそうに唇を噛んだ。
「私の力が未熟だったばかりに、皆を不安にさせて――」
「フン…。 それ以上は口にせぬことだな、我が友よ」
―と、彼の自戒を止めたのはイブリート。 顔を上げた竜崎に示すように、彼は竜頭を動かした。
「お前が自らを省みれば省みるほど、居た堪れなくなる奴がいる」
その言葉の先に居たのは…やはり―。
「違いますのリュウザキ…。全てはワタクシの力不足なのですわ…」
氷の高位精霊、フリムスカであった。
あの転移装置を巡る戦いの際、攻め立てる巨躯の獣人…『ビルグドア』への対抗策として、竜崎が召喚した存在こそが彼女、フリムスカ。
意気揚々と登場した彼女は、前に竜崎から教わったらしい、この世界には存在しない道具であるガトリング砲を生成。そして氷の弾丸を以てビルグドアを叩いた。 その能力は凄まじく、一時は善戦と転じた。
――しかし、謎の魔術士『ナナシ』による奇策、及びビルグドアの異能…『強化術紋』と『複腕』、そして奪われてしまった『神具の鏡』―。それにより、決着はついてしまった。
散々戦局を掻き乱され、砕くことすら不可能に近い硬氷は次々破壊され、フリムスカは消滅させられてしまったのだ。
そしてその後どうなったかは……言うまでもないだろう。余力を失った竜崎は必死の抵抗を試みたものの、結果は惨敗。腹を抉り貫かれ、呪いを解放され、魔導書は盗まれ、そして…死線を彷徨った。
無論、あの戦いにおいて竜崎陣営に悪い者はいない。悪行を働いたのは魔術士と獣人の方なのだから。
しかしそれでも―。フリムスカは自らを責めていた。『氷の高位精霊』『魔神』とも呼ばれている自身が、得体のしれぬ相手にとはいえ遅れをとったこと。そして友である竜崎達を守り切れなかったことを。
「あなたのせいじゃないでしょ、フリムスカ。力をほとんど出せない緊急簡易召喚、制限された戦場、アリシャに並ぶ実力者、そして神具の鏡。 勝つ方が難しいわよ」
落ち込む様子のフリムスカの両肩に手を置き、慰めるエナリアス。他魔神達も同意を示すように頷く。
「ま、その服とか色々を教えてくれたリュウザキに報いれなかったって気持ちもあるんでしょうけど…。苛まれすぎよ」
更にエナリアスはそう宥め、フリムスカの雪のロングコートを撫でる。そこでさくらはちょっと合点がいった。
他の高位精霊達に比べフリムスカだけ、ガトリングやらコートやらとやけに…なんというか『現代かぶれ』的な、異世界に相応しくない恰好をしていると思っていたのだ。
それもこれも、どうやら竜崎の入れ知恵…もとい、『元の世界』の話が元になっているらしい。多分彼は『そんなのがある』と伝えただけだろうが…。よほど気に入られた様子である。
そしてそれを教えてくれた大切な友人だからこそ、フリムスカは竜崎を守れなかったことを強く悔やんでいるのであろう。
「エナリアス達の言う通りだよ、フリムスカ」
―すると、竜崎が再度足を動かす。ふらつきを堪えるように動く彼は、フリムスカの前へと。 そして彼女の顔をしっかり見上げ、しっかり見つめた。
「君があの時召喚に応じてくれなければ、そして戦ってくれなければ―。私は、ううん、私達は間違いなく死んでいた。 私とさくらさんは殺されて、ニアロンは消滅していた」
そう述べながら竜崎は、軽く背後を見る。遠くにはさくらが、近くにはニアロンが。命あって、その場に立っている。
それを喜ぶように目を細めた竜崎は、フリムスカへ、心からの真摯な感謝の言葉を伝えた。
「だから―。有難う、フリムスカ。 私達を守ってくれて、本当にありがとう」
「―! リュウザキ……! …うぅぅ…!」
それを受け、そしてニアロンとさくらの礼を受け、フリムスカは感極まったらしく、氷の涙を流したのであった―。
「フッ…。まあ誰があの場に呼ばれたところで、同じように戦い―。そして負けた際には、同じように自分を責めていたであろうがな」
「…汝…空気を読めと…。 というかせめて、機を読めと…」
「ほんと…。ニルザルルに同意するわ…」
……と、余計?な一言を口にするイブリートを、ニルザルルとサレンディールが窘める一幕もあった。




