9.【勇者SIDE】勇者は現実逃避しながら、とぼとぼとダンジョンから逃げ帰る
本日、四度目の更新です
「魔力を使わずに戦えるようにってイシュア様のアドバイス。最終手段は――杖で、殴る?」
リディルは杖を構えたまま、リザードマンへと向かっていく。
詠唱することもなく何をするのかと思えば、
「はああああ――!?」
リディルは、巧みな杖捌きでリザードマンの斬撃を受け止めたではないか。
『スマッシュ・ブロー!』
さらには杖を両手持ちに切り替え、勢いよくフルスイング。
リザードマンを吹き飛ばした。
(う、うそおおおお……?)
小柄の少女のどこに、そんなパワーがあったというのか。
おおよそ「賢者」らしくない戦い方。
「賢者にいつまでも前衛を張らせる訳には行かないッスね」
「ミーティア。怪我は……?」
「ポーション飲み干して無理やり治したッスよ。こんな志半ばで死ねないッスからね」
「うん。同感」
2人の少女は頷き合う。
「イシュア様のチートが無いと、ウチたちはこんなもの。嫌になるッスね……」
「ほんとうにね。それでも最悪の事態は避けられた。いざという時に備えろってアドバイスをくれたイシュア様には、感謝しないと」
ボロボロになりながら、少女たちは元・パーティメンバーの名を口にした。
彼女たちの心を支えているのは勇者の俺ではない。
あいつなのだ。
「アラン、撤退ッス。文句はないッスよね?」
「ミーティア、こんな奴に許可取る必要なんてない」
俺の返事を待つことすらない。
リディルはスタスタと歩き始めてしまう。
「ま、待て! 勇者である俺を置いていくなんて許さんぞ!!」
「置いてはいかないッスよ。――誰かさんとの違いッスね」
ミーティアはチクリと刺す。
逃げ出そうとしたのは事実だ。
俺は何も言い返すことは出来なかった。
◆◇◆◇◆
ダンジョンの帰路。
ミーティアとリディルは、現れるモンスターに苦労しながらも安定して歩みを進めていた。
「単純な剣術だけでも意外と戦えるッスね」
「魔導剣士なら半分は剣士。当たり前」
「耳が痛いッス。今までは魔剣でゴリ押してただけ。魔法・剣術の両方が必要な魔導剣士の大変さが良く分かったッス」
(情けない)
(あんなのが魔導剣士と賢者の戦い方だとは……)
俺は内心で吐き捨てる。
ミーティアとリディルの戦い方は、魔力を使わない地道なもの。
そんな無様をさらしておいて、2人とも楽しそうなのは何故なのか。
『聖剣よ、我が求めに従って――ぐああああぁぁぁ……』
何度か聖剣を使おうとしたが、決まって鋭い頭痛に苛まれた。
「クソっ。どうなってるんだ……」
「だから魔力切れッスよ。後は地道に戦うしかないッス」
「ふざけるな、今まではもっと戦えただろう! 今さら魔力切れに襲われるなど、あってたまるか!!」
「今まではイシュア様の魔力供給のおかげッス」
「黙れ! その名を二度と口にするな!!」
「……もういいッス。邪魔せず黙ってれば何も言わないッスよ」
(その言い方はなんだ。俺は勇者に選ばれた男だぞ!)
(何故、そんな目で見られないといけない!?)
帰ったら新たなメンバーを募集しよう。
小生意気な奴ではなく、きちんと実力も伴った素直な人が良い。
「……なんッスか?」
「どうせ、何かろくでもないこと考えてる」
(といっても、こいつらを捨てるのも勿体ないか。見た目だけは好みだし)
(……どうしてもと頼むなら、置いておいてやるか)
もはや現実逃避にも等しい思考。
やがて待ちに待ったダンジョンの出口が見えてくる。
俺たちは、命からがらAランクダンジョンから逃げ帰るのだった。
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