イシュア、相談する
本作のコミカライズが始まっています。
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――勇者。
突如として手に入ったその称号は重い。
世の中には、アランのような碌でもない勇者が存在する。
だからこそ、その汚名をすすぐためにも、選ばれた以上は、それに相応しい生き方をするべきだと思うのだ。
――いつものようにハズレ依頼をこなし、帰路につく。
サインを求められて、苦笑しながら断って。
明るく笑顔で応えるリリアンを眩しく思ったり。
――そんな日々を送りながら、僕は、これからどうするべきか密かに悩んでいた。
***
ある日のこと。
クエストを達成した僕たちは、冒険者ギルドに併設されたお店で夕食を取っていた。
「ねえ、リリアン。勇者って、何をすればいいのかな?」
「イシュア? いきなり、どうしたの?」
僕――イシュアは、そんなことを頼れるパーティーメンバーに相談していた。
質問された少女――リリアンは、こてりと首を傾げながら僕を見返してくる。
「勇者に選ばれて3ヶ月。
代わり映えしない日々が続いてるわけだけど――」
……勇者らしい行動とはなんだろう。
常に人の模範たれ。
勇者とは、人類の希望そのもの。
考えてはみたけれど、まるで答えは浮かばず。
――僕は、頼れる先輩勇者に聞いてみることにしたのだ。
「僕って、本当に勇者やれてるのかな……?
やっぱりその肩書きは、どうにも僕の肩には重い気がしてね……」
「そんなことないの!
イシュアは、前を歩いてるだけで勇気を与えてるの。
街に元気を与えてて――誰よりも勇者として相応しいの!」
「勇気、かあ……」
必死に言い募るリリアン。
たしかに街の困りごとは、積極的に手伝うようにしているけど。
どうにも言葉にされると、実感がないのだ。
「自分を過小評価するのは、先輩の悪い癖ですよ。
今や先輩は、この街の――いいえ、この国の救世主ですから!」
そんなやり取りを聞き、そう声をかけてくる少女が1人。
少女の名はアリア――勇者パーティーの聖女であり、冒険者学園における僕の後輩だ。
今日は、本当はリリアンにだけ相談しようと思っていたのだ。
しかしアリアは、僕が悩んでいるのを察したのだろう。気がつけば隣に座り、悩みを吹き飛ばすようにほんわかとした笑みを浮かべているのだ。
アリアは凄腕の努力家で、回復に支援にまさしくパーティーの大黒柱。
そんな頼れる聖女、ことアリアは、
「勇者の役目――それは、ずばり聖女に魔力を注ぐことです!」
――とろんとした目で、そんなことをのたまった!
(いつの間にか酔っ払ってる……!)
「アリア、また呑んだ!?」
「えへへ~、呑んでないですよ~♪
勇者としての在り方が知りたいんですよね。えへへ、それなら聖女である私が詳しいです――だから先輩。今日はこのまま――――」
「ぬ、抜けがけは許さないのっ!」
酔った勢いで、腕を組んでくるアリア。
そんなアリアを見て、リリアンまでもう片方の腕を引っ張ってくる。
「む~、先輩は、今日は私と飲み明かすんです!」
「イシュアは、勇者として悩んでるの。勇者の悩みが分かるのは、勇者だけなの!」
むむむ~と睨み合うアリアとリリアン。
(…………あれ?)
(どうしてこうなった!?)
僕が、突然の自体に困惑していると、
パタンッ
冒険者ギルドの扉が開けられた。
入ってきたのは、魔女帽の少女と魔剣を携えた少女――名はリディルとミーティアだ。
「み~、やっぱりイシュア様のマナが欲しい……」
「こんなところにいたッスね!」
入ってくるなり、そう声をあげる2人の少女。
「二人とも、抜けがけはなしッス!」
「み~。マナの独り占め、良くない」
「ふたりとも……」
パーティーメンバーに情けないところは見せられないと思って、僕はこっそりとリリアンに相談しようとしていた。
だというのに気がつけば、この場にパーティーメンバーが揃ってしまったようだ。
「こんなところで、何してたッスか?」
「それは――」
リリアンが、困ったように目をそらす。
僕が悩んで、勇者としてどう生きるべきか相談していたことを伏せるべきか迷っていたようだ。
「ううん、大したことじゃないよ。ちょっと『勇者』っていうのは、何をするべきか考えてただけだから」
「「?」」
僕は、結局、正直に打ち明けることにした。
その言葉に、2人の少女はきょとんとした顔をする。
「イシュア様ともあろうことが、不思議なことで悩んでるッスね。
何も複雑に考える必要はないと思うッス。そこにいるだけで励まされる存在――それが勇者ッスよ?」
「みー、イシュア様のこれまでの生き様が評価されて勇者になった。
だからありのまま――普段通りが一番」
2人の少女は、曇りない眼差しでこちらを見てくる。
「でも……、いや――そうなのかな」
勇者という存在。
何を目指すかは、人それぞれだ。
勇者――何か招集されれば、それに全力で応える義務はある。
それが勇者という称号に与えられる恩恵に返すべきものだ。
だけども、裏を返せばそれ以外は自由。
何をなすかは、人それぞれに委ねられているのだ。
アランのように落ちぶれるのも自由。
リリアナのように、心優しく勇敢な勇者になるも自由。
だからこそ迷っていたわけだけど
(――これまで通りの生き方を、か)
せめて、このパーティーメンバーの期待を裏切らないように。
前を向いて、リリアンやアリアの歩む道を、パーティーメンバーがまっすぐに輝けるように――
(ああ、それが僕なりの"勇者"なのかも)
「イシュア。悩みは大丈夫?」
「うん、おかげさまで。ありがとう、リリアン。それにみんなも!」
おずおずとこちらを見てくるリリアンに、僕はそう微笑み返す。
人それぞれ、目指すべき勇者がある。
そこに答えなんてないし、正解も、間違いもないのだ。
「せんぱーい! というわけで飲み明かしましょう~♪」
「アリアは、お酒禁止だって言ったのに~!?」
アリアが、すっかりできあがった様子で、僕にしだれかかってきた。
――勇者の役目は、もしかすると聖女様がお酒を飲まないように見張ることかもしれない。
僕はため息をつきつつ、そんなことを思うのだった。
新作はじめました。
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「健康な身体ってすごい!(ドラゴンをワンパンしながら)」 病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
https://ncode.syosetu.com/n6956in/
普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話です
(※前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます)




