イシュア、隣国の勇者パーティに絡まれる(2)
「ぎゃっはっはっは! 覚悟は良いか?」
「そっちこそ、なの!」
険悪な雰囲気で睨み合う、勇者と勇者。
リリアンと隣国の勇者――名前はザ・コウというらしい――。
(あ、もう僕も勇者だった)
どうしても実感がない。
相手は3人組。
1人は大斧を持ち運ぶ力自慢。
もう1人は、やっぱりハンマーを持ち運ぶやっぱり力自慢。
最後の1人は、拳を構える拳使いで――これまたやっぱり力自慢。
(あれ、もしかして隣国の勇者パーティって……?)
「というか魔法使える人はいないんですか?
脳筋しかいないんですか、隣国の勇者パーティには」
僕が首を傾げると同時に、アリアがそう口を開いた。
ナチュラルに煽るあたり、なかなかにザ・コウ一味は、なかなかにアリアを怒らせることに成功したようである。
「魔法って、なんのために存在してるんだ?」
「ああ。この鍛え上げたこの拳で!!
魔法だって粉砕してやんよ!!!!」
ザ・コウたちは、そんなことをのたまった。
「魔法なんてものは不要!
だからこそ、マナポーターなんて役職で勇者に選ばれたなんて冒険者は許せねえんだよ!!」
「言われてますよ、先輩」
「うん……。魔法の大事さ、教えてあげようか」
『マナ・リンクフィールド!』
僕は、とりあえずフィールドを展開。
これは、いわば支援魔法だ。
「ふう。イシュアさんの魔力は最高なの!」
「先輩の魔力は美味しいです!」
「無味無臭なはずだからね!?」
アリアとリリアンが、気持ち良さそうに目を細める中、
「キュー!」
「うっ……、吐き気が止まらねえ………………」
「てめぇら、何しやがった!!!!」
「やるのは、これからなの。
幻想世界――第三式なの!」
すでに吐き気を催し、戦意を消失しつつあるザ・コウさん御一行様。
しかし怒れるリリアンは、固有魔法を展開。
(お、初めて見る魔法!)
(これは――雷属性の固有領域だね!)
以前の戦いで、イフリータを倒した際には、水属性の固有領域を展開していた。
今は、ウンディーネとの戦闘をシミュレーションしているのだろうか。
どうやら有利を取れる雷属性のフィールドを、展開できるようになっているらしい。
アリアがやれやれと言いながら、僕たちとついでにザ・コウさんご一行を空に浮き上がらせている。
バリアを張っていた。
(リリアン!? そんな即死級魔法、いきなりぶっぱなさいで!?)
(アリアがいなかったら、今ので終わってたよ!?)
リリアンの生み出した空間を、ひとことで形容するなら"地獄"といったところだろうか。
僕たちは、雲の上にいた。
雲の下には、激しい雷雨が鳴り響いており、1つでも直撃すれば被害は免れない。
空は真っ暗。おまけにあたりには激しい突風が吹き荒れており、この世の終わりの光景はこんな感じなのかなと想像させた。
「な、な、な、なんじゃこりぁぁぁぁああ!?」
「魔法、なの!」
「ええ。あなたたちが馬鹿にした勇者の魔法――あ、このバリアは要りませんよね?」
(こ、怖いことするね!?)
どうやらザ・コウたちは、リリアンたちの怒りを買ってしまったらしい。
リリアンたちは、あくまでにっこりとした微笑みを崩さない――それがいっそ恐ろしかった。
「ヒィィィィイイ! おろしてくれえぇぇえええ!」
「ご自慢の拳でどうにかしたらどうですか?」
「馬鹿いえ! 人間が災害に勝てるわけないだろ!!!」
そんなやり取りを経て、
「「「ま、ま、ま、参った~!
どうか、どうか命だけは助けてくれ~~~!!!」」」
なんて空のうえで華麗な土下座を決められる。
「こんな手合いが増えたら面倒なの。
いっそのこと、徹底的に見せしめに――」
「はい、先輩を馬鹿にするなんて――万死に値します!」
ザ・コウからは、リリアンとアリアの姿が悪魔のように見えていることだろう。
ガクガクと震えている。
「万死に値しないからね!?
リリアンは、固有領域を解除して――アリアもそんなに怒るなんて、らしくないよ――」
「「む~~~~」」
不服そうな2人を説得し。
僕は、リリアンたちに魔法を解除してもらい、
「勝者、リリアンチーム!」
審判が僕たちの勝利を声高に叫ぶ。
そうして、土下座していたザ・コウさんたちは、何を思ったのか、
「そ、その魔法すげぇぇぇえええ!」
「俺たち、今まで魔法アンチだったんだが、魔法ってすげえんだな!」
「えっへん、これほどの魔法が使えるのは、先輩のおかげなんですよ?」
「イシュアが、私たちのパーティの大黒柱なの!」
「「「馬鹿にしたこと言って申し訳なかった!!!
おまえ、凄いやつだったんだな!!」」」
そんなことを言い出すザ・コウさんたち。
その瞳は、かつてないほどの興奮に彩られていた。
「どうか、俺たちを弟子にしてくれ!!」
「ああ。魔法の神秘――すっかり虜にされちまったよ!」
「魔法の前では、鍛え上げた拳なんて児戯に等しい」
「それは大げさですって」
さらには何故か信仰心に満ちた眼差しで、懇願されてしまい……、
なぜかリリアン主導で、魔法を教えることになっていた。
数週間後。
「イシュア様!!
貴方様は、世界一の魔術師だ!!!」
(リリアン~!?
いったい、何を教えたの!?)
なぜか信仰心を持ってしまったザ・コウさんたちが僕の元を訪れ。
筋肉魔法なんて、謎の新魔法を見せてくれることになるのだが……。
それはまた、別の話である。
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病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて旅に出ましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです。私が育ったのが魔界!? またまたご冗談を~
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