表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/87

イシュア、隣国の勇者パーティに絡まれる(1)

 ある日の冒険者ギルドでのこと。




「ヒャッハッハッハッハー! インチキ勇者パーティがいるってギルドはここかぁぁあああ!?」


 僕は、そんな言葉を聞く。



 酒場が併設されている冒険者ギルド。

 見れば、顔を真っ赤にしてお酒を飲んでいた荒くれ者の集団が、下品な笑い声をあげながら声をあげていた。



「インチキ勇者パーティ?」

「それってもしかしてイシュアさんたちのことか!?」

「イシュアさんにリリアンちゃんに、あの人たちは我が国のほこりなんだ!

 悪く言おうってなんなら許さねえぞ!」


 突然の言葉に、その場にいた冒険者たちがそう言い返す。


 もともと冒険者という生き物は、血の気の多い生き物なのだ。

 そこにお酒が入れば、より好戦的というもの。



「あぁん? 俺たちは、デュランダル王国の勇者パーティだぞ!」

「知らねえなあ! さっさと出ていけよ!」


 売り言葉に買い言葉。

 瞬く間に冒険者ギルドの中は、騒然とする。




(はあ。いきなり、どうしてこうなったんだろう・・・)


「先輩、先輩。止めますか?」


 ちなみに今日は、休息日。

 僕はアリアと一緒に、冒険者ギルドでクエストを漁っていた。



 休日であっても、クエストを見ているのが落ち着く。

 そんな悲しい事実に気が付いてしまったのが、僕とアリアである。



「うん、このままだと乱闘騒ぎだしね」


 僕は、そう言いながら立ち上がり、




「僕たちが、その勇者パーティだよ。

 何のよう?」

「あぁん?

 おまえみたいなひょろっこいガキが、勇者パーティだっていうのか?」


 筋骨隆々マッチョの男が、僕に蔑むような目線を向けてきた。

 勇者パーティの斧戦士といったところだろうか。



「だとしたら、どうだというんですか?」


 ちなみにいうと今の僕は、一応、国王から認められた勇者だったりもするのだが


 ――ややこしくなりそうなので黙っておく。

 面倒事はできれば避けたいのだ。

 もっとも、向こうから絡まれてしまった場合は、その限りではないのだけど。



「ぎゃっはっははっはっはっは! 冗談きちいぜ。

 こんなひょろっこいガキが、勇者パーティに所属できるなんて、この国はどれだけ人材不足なんだ?」

「ああ、まったくだ!

 はっはっはー、俺たちが代わりにこの国で勇者として活動してやろうか??」

「このぶんじゃ、どーせ勇者もたいしたことねーな!」


 そんなことを言いながら笑っている隣国の勇者パーティたち。



(む、さすがに勇者――リリアンのことまで馬鹿にされたら、

黙っているわけにはいかないか)


 マナポーターという役職柄、馬鹿にされることには慣れている。

 別に今更どうとは思わないが、それでも勇者として頑張っているリリアンまで馬鹿にされたとなれば話は別。




「いい加減に――」

「なっ! イシュアさんは、勇者なの!」


 そんなとき、ひょこっと顔をのぞかせる者がいた。


 今日もぴょこっとアホ毛が跳ねているリリアン。

 我らが勇者パーティーのリーダー、リリアンの登場である。




「その言葉、取り消すの! イシュアさんは、勇者で、世界最強なの!」

「まあまあ、リリアン。ここは穏便に――」


 僕がそう声をかけたところで、



「ぎゃっはっは! 誰だおまえ」

「この、ちんちくりん。

 なんでこんなちっこいのが冒険者ギルドに?」

「迷子かな?」


「いいや、これが勇者らしいぞ」

「ぎゃっはっは、そんな馬鹿なことあるわけが!」

「腕掴んだら折れちまいそうじゃないか!」

「ぎゃはははははははは! これは、傑作だな!

 この国のレベルが知れるってもの――やっぱり俺たちが、この国の勇者として活動してやるよ!」


 不快な笑い声をあげる隣国の勇者たち。



(やれやれ、勇者ってのは実力があればなれるとはいえ……)

(選ばれると、どうしても自分がどう他人から見えるかって意識がなくなっちゃうのかなあ)


 思い出すのは、今は亡きアランのことだ。

 あの人も、勇者の称号を得てからどんどんおかしくなっていったっけ。



「嬢ちゃんは、もうおうちかえってままのおっぱいでも吸って眠ってな?」

「痛い目見たくはないだろう?」


「うん。ちょっと我慢ならないね。

 決闘――特に咎められないよね」

「先輩、どうどう。

 さすがに私たちは勇者です。あまり私闘を繰り返すと――」



「なあなあ、そこの嬢ちゃん。

 そんな冴えない男なんておいておいて、こっちきて良いことしないか?」

「良いテク見せてやるぜ」

「ふっへっへっへ。この勇者パーティ、可愛い女の子がいっぱいいるな。

 もしかして王様に枕して、称号を得たのか?」

「はっはっは、そうだろうな。

 魔王軍と戦うよりも、俺たちの愛玩動物になるほうが似合ってるぜ!」


「取り消してもらうよ、その言葉。

 リリアンも、アリアも――みんな、すごいんだ。

 君たちなんて比べ物にならないぐらいね」


 やっちゃって良い? と僕は、アリアに視線を向ける。


(こわっ、アリアこわっ!)

(久々に見たよ、アリアの絶対零度の微笑み)


 一切の感情、慈悲を投げ捨てたようなアリアの笑み。

 果たしてアリアは、僕の問いにこくりとうなずくと、



「やっちゃいましょう。

 勇者の風上にもおけません――この礼儀知らずたちに思い知らせてやりましょう!」


 なんて良い笑みで応えるのだった。


「イシュアの良さが分からないなんて、人生損してるの」

「みー、全く持ってその通り。

 この魔力を味わったことがないなんて、可哀そうな人たち」

「全くやな。この空気を読めないなんて、ある意味大者かもしれへんけどな」


 さらにひょこっと現れたのは、リディルとミーティア。



(みんなして、なんでここに居るの!?)

(今日、休みだよね!?)


 僕は、そんなことを思う。




「あー、まあ大怪我させないように気をつけてね?」

「大丈夫です! 死んでなければ、私が治せるので!」


 にっこり微笑むアリア。


(大丈夫かなあ)



 そんなやり取りをしながら。

 僕たちは、隣国の勇者パーティを連れて、闘技場に向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ