60.元勇者の末路③ 〜激怒する国王、指名手配犯になった元・勇者〜
「くそっ。なんて奴だ」
残された自警団のリーダーは、去っていった元・勇者をにらみつけた。
まさか、あのような暴挙に出るとは。
「急げ、迎え撃つぞ!」
勇者が予想以上のクズだったからと言って、自分たちがやることは変わらない。
隊長は部下に回復薬を飲ませて回り、襲ってくるであろうモンスターの群れをにらみつけた。
「勝てる見込みの少ない戦いだ。こんなことになって……悪いな」
「隊長は何も悪くありません。あれで元・勇者ですか――ああはなりたくないものです」
アランの行動は、深々と人々の胸に刻まれた。
決して真似してはいけない反面教師として。
そうしてモンスターを迎え撃つ覚悟を決めたのだが――
「な!? モンスターが去って行く……だと!?」
「いったい何がどうなっているんだ!?」
まるで目的は果たしたとばかりに、モンスターの群れが去って行くではないか。
「隊長? 助かったんですかね……?」
「ああ、どうやらそのようだが――」
口にするまでも無い違和感。
ある目的を果たすために現れ、それが成ったから速やかに立ち去ったのだろう。
無邪気に喜べない不気味さがあった。
「大失態ではあるが――これは国王陛下に報告しなければいけないことが、増えてしまったかもしれないな」
考えても仕方がない。
今できることをやるしかない、リーダーはそう首を振った。
◆◇◆◇◆
「元・勇者が犯罪者ギルドに手を貸していた?」
「アメディア領の状況につけ込んで、違法薬物を売ろうとしていただと?」
その日、謁見の間には戦慄が走った。
アメディア領の使者から、耳を疑う報告が飛び込んてきたのだ。
国王は怒りにわなわなと震えていた。
勇者を最終的に任命するのは国王だ。
スキルもさることながら、この人物なら人類を背負って立つ希望となるだろう――そんな期待を込めて任命していた。
犯罪者ギルドと共に行動をしているアランの行動は、そんな国王の顔に泥を塗るなんてものではない。
「それで勇者はどこに……?」
「申し訳ありません……! モンスターのスタンピードに襲われ、思わず勇者に頼ってしまい――拘束を解いたところを取り逃しました!」
「スタンピードだと!?」
ざわっとどよめきが広がった。
「幸いにしてモンスターの群れは、どこも襲わずに去っていきましたが――なんとも不気味な光景でした」
「そうか……」
重々しい沈黙。
モンスターが大量発生し、無作為に暴れるのではなく、何らかの目的を持っている動いている――その不気味さが分からぬ愚か者はここに居ないのだ。
「思わず勇者を頼ってしまった私の落ち度です。部下は何も悪くありません。罰ならばどうか私ひとりに―」
「罰などあろうはずがなかろう。こうして無事に生き残り、報告を上げてくれただけで大手柄だ!」
国王の言葉は暖かいものだった。
その言葉を聞いて、自警団の男はほっと胸を撫でおろす。
「それにしても――元・勇者でありながら、モンスターの群れを前に尻尾を巻いて逃げ出すとは。なんと情けないことだ……」
「逃げ出すどころか拘束を解いたら、モンスターでなく我々に襲いかかりましたからね。あいつは、最初から俺たちをオトリにするつもりだったんですよ」
国王が絶句した。
「あいつは、どこまでわしの顔に泥を塗れば気がすむんだ……」
名実ともに犯罪者にまで落ちぶれた元・勇者。
これを見過ごすことは、国王の威信にも関わる。
「勇者に任命されながら、世界樹を滅ぼしかけ、反省もせず違法薬物の売人となった。さらには保身のために、罪もない一般人に襲いかかったという。許しがたい行為だ……重大犯罪者として指名手配し、すぐに討伐部隊を組織せよ――!」
「と、討伐部隊ですか?」
国王は重々しくうなずいた。
ここまでのアランの悪名を聞き、反論する者も当然ながら誰も居なかった。
そうして元勇者アランは凶悪犯罪者として、国中で指名手配されることになった。
ギルドにも手配書が出回り、もはやアランが落ち着いて過ごせる場所は、この国には存在しない。
さらに国王が直々に結成した討伐部隊により、常にその命を狙われる事となる。
これまでのアランの行動を思えば、当然の末路であった。
これにて3章は完結です。
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