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59.元勇者の末路② 〜スタンピードの発生、勇者逃亡〜

 ハーベストの村の自警団の馬車に乗せられ、アランは王城に移動していた。

 領と領をつなぐ、それなりに整備された大通りだ。


「なあ、俺は死んだってことにして逃してくれないか。犯罪者ギルドに加担していた元勇者が居たなんて、表沙汰にならない方が良いだろう?」

「ふざけるな! そんなこと出来るはずがないだろう!!」


 自警団のリーダーが、アランを怒鳴りつけた。

 正義感の強い自警団の男にとって、アランの行動は、決して許せるものではない。

 何がなんでも、報いを受けさせてやろうと意気込んでいたのだ。



「逃げようなんて考えるんじゃねえぞ?」

「くそっ。分かってるさ」


 常に見張りが目を光らせており、とても逃げ出すのは不可能。

 それでも往生際悪く、アランは逃げ出す機会をうかがっていた。


 そして――



「おい、なんだあれは――?」

「冗談だろう……?」


 何十というモンスターの集団が、群れをなしアランたちに襲いかかってきたのだ。


 自警団の面々が困惑するのも無理はない。

 いったいどこから現れたのか。



「な、なんだあの数は?」

「ま、まさかモンスターの異常発生――スタンピードか?」

「まずいぞ! あんなものが街になだれ込んだら……。大きな被害が出る!」


 自警団の面々が、大混乱に陥った。

 ハーベストの村の周辺は平和であり、これほどのモンスターの集団を相手にすることなど無かったのだ。


「だ、誰か近くの街に走ってスタンピードだと伝えてくれ。俺たちはここで喰い止める!」

「そ、そんな……! ――隊長!」


 それでもひとり伝令を走らせ、隊長は迎え撃つことを覚悟。

 モンスターの集団を相手に、一歩も引かない覚悟を見せた。



 自警団の面々は、明らかにモンスターの集団に怯えている。

 アランは、千載一遇の好機にほくそ笑んだ。


「俺だって勇者の端くれだ! モンスターを相手にして、こうして縛られてるだけなんてあり得ない! それこそ勇者失格だ!」

「何を言っているんだ?」


「いいから俺の縄を解け! こんなところで死にたくはないだろう!?」


 絶望的な状況での甘いささやき。

 目の前の男が勇者だと、心のどこかで信じてしまったのだろう。

 自警団の男が、思わず信じてしまったのも無理はない。



「ふっ。ありがとよ、間抜けな自警団さん!」


 縄を解かれたアランが、真っ先に襲いかかったのは自警団の隊長だった。

 完全な不意打ち――腹部を深々と切り裂かれ、あっけなく隊長は倒れ伏す。


 あっけにとられる自警団の面々に、アランは次々と襲いかかる。

 アランの実力は大したことがない。

 それでも、いきなり解き放たれた凶刃を振るう勇者を前に、対応できる者は居なかった。



「このマナポーションは貰っていくぜ?」

「くっ、くそ……。おまえ、はじめからこのつもりで……」


「当たり前だろう」


 自警団の隊長は、切りつけられた腹部を抑えながら憎々しげにうめいた。

 

「あんなモンスターの群れ――とても相手にしていられない」

「その聖剣を振るえば、倒せるのではないか?」


「そうして魔力切れを起こしたところを、捕まえようってわけか? そんなのはごめんだね!」


 アランは手の中で、剣をくるくるっと遊ばせる。

 最初からモンスターを相手にするつもりなど、無かったのだ。



「あばよ! モンスターの足止めは頼んだぜ?」


 そうして勇者は逃げ出した。

 スタンピードの発生を知りながら、なんの対応策を取ることもなく。

 ただ己の自由だけを求めて――逃走したのだ。



 その男に勇者としてのプライドは、欠片も残っていなかった。

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