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56.マナポーター、災厄の竜を討伐する③ ~僕たちはパーティで戦いを挑んでいるんだから~

「イシュアさんに手出しはさせないの!」

「おまえの相手は私たちだ!」


 リリアンとディアナが、必死に災厄の竜に攻撃を加える。

 しかし災厄の竜はまるで気にした様子もなく、まとわりつく虫を振り払うように尻尾を振るった。

 防御態勢を取っても、成すすべもなく吹き飛ばされるリリアンたち。

 同じような光景が何度も繰り広げられた。



「くっ! 剣聖などと呼ばれていても私は肝心なところで――」

「勇者として、ここで引くわけには行かないの!」


 リリアンとディアナの戦いは鬼気迫るようだった。

 こちらを警戒する災厄の竜ですら、思わず足を止めてしまうような――捨て身で時間を稼ぐような戦法。

 自分たちが本命だとは決して悟られないオトリとしての役割を必死で果たそうとするような戦い方だ。



「イシュアさん、もうこっちは限界! まだですか!?」

「リーダーがこんなので――情けないの」


 ついにディアナが、悔しそうに膝をつく。

 勝ち誇ったように咆哮を上げる災厄の竜。



(ナイス演技だよ! 2人とも!)


 ついに力尽きた2人。

 最初から脅威ともみなされて居なかったのだ。

 これで彼女たちは、完全に災厄の竜の意識から外れることになる。



(今だけは勝ち誇ってるが良いさ!)

(最後に笑うのは僕たちだ!)


 3人分の威力を合わせたホーリーノヴァを見せつけるように。

 僕は、マナポーターとしての天性を――無限の魔力を解き放つ。


 爆発的に高まったマナを警戒した災厄の竜は、こちらと距離を取ることを選択。

 選んだ戦法は単純明快な力比べ。

 体中を覆いつくす闇のマナが、獰猛(どうもう)な口元に集まっていく。



「せ、先輩? あれは――!」

「みー。災厄の竜のブレス! あんなの人の身で受けたら跡形も残らない――!」


 移動中を狙い打たれるよりも魔法の撃ち合いの方が確実に倒せると判断したのだろう。

 そして、その判断は恐らく間違ってはいない。

 まともに魔法を撃ち合って倒せるような相手ではないのだ。



「あのブレスは抑えられない。みんなは僕から離れていて!」

「そんな! 先輩は!?」


「僕だけなら、どうとでもなるから」

「先輩! 捨て身でなんて――そんなの絶対に嫌ですからね!?」


「安心して。僕は死ぬつもりなんて無いから!」


 アリアの何とも言えない口惜しそうな顔が、頭から離れなかった。

 不安そうな顔をしながらも、メンバーは次々と散開していく。


 ――これで良い。



 ついに場は整った。

 僕は災厄の竜とにらみ合う。

 他のメンバーなど眼中にない、とばかりの災厄の竜。



(それが君の敗因だよ!)


 僕自身が必殺の一撃を放つ必要はないのだ。

 だって僕はマナポーターだ。

 結局のところ支援が本来の役割なのだから。


 僕たちはパーティで戦いを挑んでいるのだ。



「行くよ――『ホーリーノヴァ!』」


 僕は災厄の竜に向かって、魔法を解き放つ"フリ"をする。

 それに呼応するように、災厄の竜はブレスを解き放つ――!


 リリアンたちに背中を向けたまま。

 それは致命的な(すき)となり得る。



「エンチャント――『ホーリーノヴァ!』」


(今だ! リリアン、ディアナ!)


「待ってたの! ――『ライト・ヒーリング!』」

「え、え!?」


「細かい説明は後でする。今が最大のチャンスなの! ディアナ、後はお願い!」

「ど、どういうことだ。リリアン!?」


(ん。……ん?)

(まさかディアナに作戦が伝わってない……?)


 マナを通じて、不穏な声が聞こえてくる。

 しかし、そんな不安を吹き飛ばすようにディアナが吠えた。

 その目には、強い光が宿っていた。



「でりゃあああああああ!」


 リリアンの祈りが込められた幻想の剣。

 さらにはアリアたちが放った3人分の『ホーリーノヴァ』が上乗せされているのだ。

 ここで決めきれなければ、剣聖としての名が泣くと。


 ディアナの一撃は――果たして災厄の竜についに届く。

 まるで柔らかいバターでも切り裂くように、幻想の剣は災厄の竜の体を一刀両断した。


 グガァァァァッ――――!?



 災厄の竜が吠えた。

 何が起きたのか、まるで分からないというように。

 そしてそのまま地面に倒れ伏すと、光の粒子となり跡形もなく消えていった。


「ははっ、あっけないね」




(後はこれをどうするかだけど――)


 凄まじい勢いで迫ってくる災厄の竜のブレス。

 ブレスの途中で倒されたとは言え、無力な1人の人間を消し去るには十分すぎる威力を秘めていた。



『マナ・ディストーション・フィールド!』


(……無理だ)

(100倍の速さで動けるぐらいじゃ、とても間に合わない――!)


 こちらを押しつぶさんばかりに襲い掛かる災厄の竜のブレス。

 あまりにも絶望的な状況だった。


 それでも諦めるなんて選択肢は無かった。

 アリアの不安そうな笑顔が頭をよぎる。

 死ぬつもりなんて無いと、アリアと約束したのだ。



(弾き返すのは絶対に無理だ)

(あのブレスを避けるために僕が出来ることは――!)


 頭に浮かぶのはバカけた理論。

 原理上、不可能とされた魔法の1つ。



(「点」と「点」を無理やり繋ぐ)

(一瞬で良い。座標って概念を無視できれば――!)


 ――瞬間移動。

 他にあれを避ける術はないのだ。


 ありったけのマナを使う。

 パーティの魔力支援という目的では、決して使わない無限にも等しい魔力。

 引き出せば引き出すほど、体からマナが溢れ出してくる。



 2つの座標を強引に捻じ曲げる。

 そうして点が繋がった瞬間に、向こう側に移動できれば瞬間移動となる。


 今の僕が居るのは、世界の揺らぎの狭間とも言うべき場所。

 ここは世界の因果の外側だ。



(僕とアリアは同じ場所にいる!)

(僕はアリアの居る場所に帰る!)


 決して自分を見失わないように。

 何度も自分に暗示をかける。


 揺らぎの先にアリアの顔が見えた。

 泣きそうな顔で、こちらを見守っている。

 僕は絶対に、あそこにたどり着かなければならない――!


 賭けにもならないぶっつけ本番の行動だった。

 誰も居ない世界の狭間を横断する。

 一瞬出来た2つの地点の繋がりに飛び込み――僕は賭けに勝った。

 たどり着いたのだ。



 飛び出した先はアリアの目の前。

 当然だった――この大切な後輩を、移動先の目標にしたのだから。


 半泣きのアリアとばっちり目があった。

 なんだか気恥ずかしい。


「――よし、大成功!」

「先輩。先輩なんですね!」


 驚きに目を見開くアリア。

 徐々に現実を受け入れるように、ペタペタと僕の体に触る。

 そうしてようやく現実を認識し、その顔が歓喜の色に染まっていく。



「打つ手なんかないって! ――もうダメかと思いました!」

「ごめん。心配かけて」


「本当ですよ! 今日の先輩は、無茶してばっかりです!」


 僕の胸の中に飛び込んでくるアリア。

 そのまましゃくり上げながら、涙声で訴えかけてきた。



(心配かけたよね)

(ごめんね……)


 アリアを慰めるために。

 あるいは、自分はここにいるのだと安心させるために。

 僕はそっとアリアの背中に手を当てた。

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