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4.マナポーター、追いかけて来た聖女と一緒に旅することになる

「ふう。パーティメンバーの魔力残量を気にしないで済むって素晴らしいね」


 勇者パーティのメンバーの魔力量は、消費魔力の多さを考えると絶望的なまでに少なかった。

 派手な高威魔法を好んで使うため、たしかにモンスターの殲滅効率は高かった。

 とても華々しく活躍していたが――裏方のマナポーターとしては、なかなかに過酷な現場であったとも言える。



(魔力切れで魔法が使えないメンバーを出すとか、マナポーターとして末代までの恥だもんね)


 常にメンバーの魔力を満タン近くで保つため。

 細心の注意を払う必要があった。



「待ってください! イシュア先輩!」


(はて……。なんだか幻聴が…………?)


 聞こえてきた声は、元・パーティメンバーの聖女・アリアの声。

 ここに居るはずがないのだが――



「先輩!! 無視しないで下さい!」


 声はすごく至近距離から聞こえた。

 そして警戒する間もなく、いきなり後ろからしがみ付かれた。



「な、な、な、な、アリアさん……!?」

「先輩、私のことは呼び捨てにしてくださいって、ず~っとお願いしてたじゃないですか?」


「ど、どうしてここに!?」

「慣れない探索魔法を使いました。先輩の体の一部……髪の毛を偶然にも(・・・・)持っていたので」


(えええ? それって呪術の類じゃないの?)

(何で髪の毛を……?)


 何してるんだ、聖女様。


 ……まあ良いか。

 気にしても、誰も幸せにならないような気がするし。



「す、少しだけ離れてもらえませんか?」

「い・や・で・す! 先輩が出ていったと聞いて。ついに見捨てられてしまったのかと――私、どれだけ後悔したか」


(んん、見捨てられた……?)


 追いつけて良かったと、ひどく安堵した涙声。

 何やら誤解がありそうだ。


「僕は追放された身です。勇者から聞きましたよ? 追放には満場一致だったって」

「え? 誰が、誰を、追放ですって……?」


「いや、勇者が僕を……」

「はあああ? あのお坊ちゃま勇者、言うに事を欠いて先輩を追放ですって……!?」


 後ろからドス黒いオーラが流れてきた。

 ちょっぴり怖い。



「勇者パーティはどう考えても、先輩のおかげで辛うじて保っていたようなもんじゃないですか。それなのに追放なんて! あのおバカ勇者は、いったい何を考えているんですか!?」

「僕も説得したんだけど、勇者様がまったく聞く耳を持たなくて……」


「だいたい私たちが、先輩の追放に賛成するはずありません! 常識的に考えて下さい!」


 アリアは王立・冒険者育成機関での後輩である。

 実習で何度かパーティを組んだこともある仲だった。

 彼女だけでもマナポーターの働きを理解していたことに、少しだけ救われた気がした。


「決めました。私、先輩に付いていきます!」

「ええええ!? そんな急に。勇者パーティはアリアの夢だったんでしょう?」


 彼女は勇者パーティに入るのが夢だと言っていた。

 魔王により苦しめられた世界に、希望を与えた初代の大聖女への憧れ。

 アリアは並々ならぬ努力の果てに「聖女」というジョブの取得に成功し、そのまま勇者パーティにも選ばれたのだ。



「それはそうですけど……」

「追放されたのは僕だけです。君のことを巻き込むのは不本意です」


「先輩、そんな水臭い言い方しないでください。私がここまで来られたのは、ぜ~んぶ先輩のお陰なんですから!」

「アリア、それは大げさすぎるよ。全部、君の努力の成果です」


 僕の言葉に、アリアは嬉しそうに目を細めた。



「えへへ、先輩とのふたり旅。とっても楽しみです!」


 アリアは僕の正面に回り込む。

 くるりと身を翻して、輝かんばかりの笑みを浮かべる。


「これからもお願いします、先輩!」

「こちらこそ。よろしく、アリア」


 そんな笑顔を見せられて、返せる言葉は1つしかない。

 ――そうして僕とアリアは、ふたりで旅をすることになった。

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