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34. マナポーターと勇者リリアン、それぞれが願いし報酬は――?

「イシュア殿。我が国には、そなたに返しきれぬ恩義があるようだな……」


 アランが連れていかれて、謁見の間には静寂が返ってくる。

 国王は頭を深々と頭を下げて、しみじみとそんなことを言った。



「国王陛下。僕がエルフの里に行ったのは偶然ですし、冒険者として当然のことをしたまでです。どうか頭を上げて下さい」


 エルフの王女様に、今度は国王陛下。

 偉い人に頭を下げられると、どうにも落ち着かない。

 


「イシュア殿には、アランのことでも迷惑をかけてしまった。望みがあれば、何なりと口にしてくれ!」

「そう言われても……。既にギルドから報酬も受け取っていますし」


 頭の中で、チャリーンと金貨が30枚きらめいた。

 さらには特別恩賞を渡したい、なんてことを受付嬢が言っていたのだ――これ以上、何を望めと言うのか。



「イシュア殿。そなたは貴族になる気はないだろうか?」

「き、貴族ですか!?」


 国王からの提案は予想外のもの。



「望むのなら領地も与えよう。金銀財宝を望むなら、それも良い。イシュア殿、そなたの活躍は、爵位を与えるに十分すぎるほどの偉業なのだよ」


 きっと誰もが喜ぶ提案なのだろう。

 冒険者として名を上げて、いずれは貴族の爵位を授かること。



(もちろん貴族には貴族なりの苦労があるだろうけど……)

(安定した生活が夢だ! って口にする冒険者は大勢いるもんね)


 僕は、そんな未来を想像して――



「お気持ちだけ受け取らせて下さい。僕とアリアには、まだまだ夢があります。これからも冒険者として、上を目指したいんです」


 気づけばそう答えていた。


 貴族としての地位も、金貨の山も興味がないと言えば嘘になる。

 でも、それだけでは面白くないのだ。

 冒険者として心躍る体験がしたい。


 何より、アリアが夢を叶えるための手伝いをしたい――そう思ったのだ。



(国王陛下からの提案を断るなんて、失礼な奴と思われるかもしれない)


「ごめんなさい。こんなワガママを言って……」

「気にするでない。私は別にイシュア殿を困らせたい訳ではないのだ。――そなたは、生粋の冒険者なのだな」


 国王は感服したようにうなずくのだった。



「わ、私も国王陛下にお願いがあるの!」

「リ、リリアン!?」


 突然、口を開いたリリアン。

 慌てても止めようとするディアナだったが、リリアンはやけに真剣な表情で国王に視線を送っていた。



「良い。四天王を退けておきながら、何も望まなかったリリアン嬢からのお願いか。私に叶えられることなら、何でも協力しよう」


 国王がリリアンを見る目は、まるで孫でも見るように優しいものだった。



「い、イシュアさんには聞かせたくないの……」

「そ、そうですか……」


 小声で、ちらちらっと僕を見るリリアン。

 

(人前では話しづらい情報をやり取りするのかな?)

(勇者だもん。僕みたいな一般人には聞かせられない秘密も知ってるよね)

 

 ちょっぴり寂しくなりながら、僕とアリアは謁見の間を後にした。




◆◇◆◇◆


 王宮の用意した馬車の中。

 国の英雄に見送りも無しなんて、とんでもない! と、丁寧に送ってもらえることになったのだ。



「良かったんですか?」

「ん、何が?」


 馬車にゆったりと揺られながら、アリアはこちらを覗き込み尋ねる。


「報酬ですよ、報酬! 貴族の爵位なんて、願っても手に入らない方も多いじゃないですか?」

「……そうは言うけどさ。僕が貴族って、なんか似合わなくない?」


 貴族になれば、社交界に参加することを余儀なくされるのだろう。

 小うるさいマナーを、今さら習得するのも面倒だった。

 貴族として振る舞う自分の姿が、まるで想像出来なかったのだ。



「そうですか。私に気を遣ってのことなら――」

「それこそ余計な心配だよ。アリアとの旅ほど楽しいことなんて、他にないもん!」


 本心からの言葉だ。

 その言葉を聞いて、アリアはホッとしたように微笑んだ。



(アリアは優しいな)

(自分のせいで、僕が冒険者を続けることになったのか――なんて気にしてるのかもしれないね)


 気持ちは良く分かる。

 僕だって、勇者に追放された時にアリアが追いかけてきて、巻き込んでしまったかと申し訳なく思ったものだ。



「改めて! これからもよろしくお願いしますね、先輩!」

「うん、こちらこそよろしくね!」


 何度目かのやり取り。

 それでもアリアは、ニコニコと上機嫌な笑みを浮かべていた。



 そう――僕たちは、まだまだ新米の冒険者だ。

 これからも旅は続いていく。




◆◇◆◇◆



「国王陛下――! どうかイシュアさんを私に下さい!」


 一方、そのころ。

 謁見の間では、リリアンがソワソワとそんなことを言い出した。



「そ、それはどういうことだね……?」

「イシュアさんが欲しいんです!!」


 新進気鋭の勇者・リリアンの望んだ物――それは1人の少年だった。

 さっきまで一緒に居たのに、何を言っているのだろう? と国王は首を傾げる。



「ええっと……? リリアン嬢とイシュア殿は、パーティを組んでいる訳ではないのかい?」

「イシュアさんとは、たまたま同じ地域のクエストを受けただけ。その場だけのパーティだったの。次こそは正式なパーティを組みたいの!」


 グッと手を握って力説するリリアン。


 あれだけのチャンスがあったのに、リリアンはついぞ「パーティを組みたい!」と口にすることは出来なかったのだ。

 リリアンは深~く後悔して――思い立ったのだ!


 国王陛下に"お願い"をすれば良いと!




「リリアン?」


 しかしディアナは、それを良しとはしなかった。


 たしかに国王の命令があれば、リリアンの願いは叶えられるだろう。

 しかし、イシュアからどう思われることか――あまり良くない未来を招く気がした。



「国王陛下じゃなくて、本人にお願いしよう。な?」


 ディアナが(さと)すように言う。


「う……でも~」

「たしかに国王陛下から命じられたら、イシュアさんは勇者パーティに入ってくれるだろうさ。でも――本当にそれで良いのか?」


「な、何が言いたいの?」

「パーティなんて、強制的に組まされるもんじゃないだろう? アリアとイシュアさんの信頼関係――傍から見てても分かっただろう?」


 リリアンはこくこくと頷く。

 アリアの魔法陣を使って魔法を発動する際、イシュアはアイコンタクトだけで発動させたりしていた。

 まるで長年連れ添ったパートナーのような、独特の空気を(かも)し出していたのだ。



「国王陛下の言葉で強制的にパーティを組まされたとして。アランと同じように思われてしまうかもな?」

「それは……嫌なの」


 アランが初めて役に立った瞬間である。

 強烈な反面教師として。



 別にイシュアは嫌な顔もせず、力を貸してくれるだろう。

 それでもディアナは、そっとリリアンの背中を押した。


「せっかく同じクエストを通じて、仲良くなったんだ」

「ほんとうに? 私、イシュアさんと仲良くなれてる!?」


「うん。だからどうするべきか――分かるよな?」

「……うん。ちゃんと自分で、イシュアさんを誘うの!」


 そうして、リリアンは決意した。

 国王陛下に頼るまでもなく、その願いはようやく叶えられようとしていた。



「あの、リリアン嬢さんや? ほかに、私にお願いしたい事は無いのかい――?」

「うん。何もないの!」


 ……国王は泣いて良い。

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