3.【勇者SIDE】聖女は勇者を見限り、イシュアを追いかけてパーティーから飛び出す
「ええっと、勇者様? こんな朝早くからどうしたんですか?」
「我が勇者パーティが次に進む瞬間を、中心メンバーと分かち合いたくてな! 喜べアリア、ついにAランクダンジョンに挑むときが来たぞ?」
「はあ……。Aランクダンジョンですか?」
「勇者パーティの大いなる一歩だぞ? もっと喜んだらどうなのだ?」
アリアの反応は、俺の予測とは違った。
パーティの躍進を喜んでくれるかと思ったのに、実際は困惑したような表情で見つめ返してきたのだ。
「ええっと、Aランクはさすがに危険です。まず先輩に相談してみないと」
「はあ? 何故、あの落ちこぼれに相談しないといけないんだ?」
俺の言葉に、アリアは不快そうに形の良い眉をひそめた。
「まだそんなことを言っているんですか。埒が明きません、先輩はどこですか?」
その眼差しのあまりの強さに――俺は思わず気圧される。
「イシュアは……逃げ出した。Aランクダンジョンに挑むと伝えたら、荷物も持たずに一目散だったよ」
実際には俺が勝手に追放したのだが、出まかせを口にする。
あんな奴、うんと失望されれば良い。
この場に居ない以上、いくらでも印象操作は可能――
「そ、そんな……。まさか先輩が?」
アリアは口を抑えて息を吞む。
しかしアリアの口から飛び出してきたのは、俺の予想もしなかった言葉だった。
「わ、私たちは見捨てられてしまったのですか?」
「Aランクダンジョンを恐れた無能が1人、臆病風に吹かれて逃げ出しただけだ。そんなことより――」
「あなたがそんなんだから、先輩に見捨てられるんです!!」
アリアは涙目で、キッと俺を睨んできた。
あまりの迫力に俺は口を挟むことが出来ない。
「私、先輩を探してきます。先輩の魔力供給がないと、このパーティは成り立ちません。先輩を失ったらおしまいです!」
「こんな時に何の冗談を……ま、待て! そんなことよりA級ダンジョン攻略の作戦会議を――」
「寝言は寝て言ってください!」
ピシャリとアリアは言い放つ。
それから俺の制止も聞かず、彼女は森の中に1人で飛び出していった。
「朝っぱらから騒がしいッス。いったい何事ッスか?」
「うーまだ眠い。これはイシュア様から魔力を貰わないと動けない」
さらに間の悪いことに、大賢者と魔導剣士が起きて来た。
交わされる会話の中で、当たり前のようにイシュアが登場する。
――もうこのパーティに、イシュアは居ないのに
「あー、少しだけトラブルがあってな。貴様らが気にする必要は何もないぞ?」
「分かったッス。隠し事は無しッスよ?」
「あ、ああ。もちろんだ……」
(といっても、イシュアの追放を正直に話すのは無しだ)
(――隠そう!)
そうして俺は、アリアにもしたウソの説明を繰り返すのだった。
パーティメンバーの追放などという大事件、そう簡単に隠し通せるはずがないのに。
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