25. マナポーター、オーガキングを討伐し、勇者リリアンからは「救世主」認定されてしまう!(2)
そうして反撃の態勢は整った。
(それにしても昇格した変異種は別格だね)
僕は改めてオーガキングを観察する。
瘴気を取り込む前から、考えられないほどの進化を遂げていたのだろう。
(この状況で僕が出来ることは――これだね!)
僕は意識を集中してマナをコントロールする。
オーガキングを見据えて、ありったけの聖属性のマナを流し込んだ。
瘴気を吸い込んで「昇格」したモンスターを倒すためには、どうすればよいか?
答えはシンプルだ。
――取り込んだ瘴気を中和すれば良い。
オーガキングは、苦しそうにうめき声を上げた。
初めてこちらを警戒した目で見てくるが、
(今さら気が付いても、もう遅いんだけどね)
(アリアの回復魔法に、リリアンの固有結界。どこにも逃げられないよ?)
「あいつの瘴気は、僕が中和していきます。アリアの回復魔法があれば、絶対に負けない戦いです。焦らず――」
「いいえ。ここまでお膳立てしてもらったんだ。耐久戦なんて必要ない」
「ええ、勇者の名にかけて。今度こそ一撃で終わらせる!」
リリアンとディアナが頷き合った。
勇者は剣聖に剣を贈る。
幻想の剣に込めるのは、魔王を討伐して平和な世界を作りたいという願い。
それとイシュアに巡り会えたことへの感謝の祈り。
目の前で見た奇跡のような光景――イシュアの前で情けないところなんて見せられない。
リリアンの祈りが生み出すのは、神の祝福を浴びた七色の幻想の剣。
(これが勇者の力か……!)
幻想的な輝きは、見ているものに勇気を与えてくれた。
「ドリャア!!」
アリアのありったけのバフの効果もある。
ディアナは瞬く間にオーガキングに肉薄し――今度こそ一撃のもとに切り伏せるのだった。
◆◇◆◇◆
オーガキングとの激戦を終えて。
リリアンが『幻想世界』を解除し、僕たちは改めて自己紹介をしていた。
「さすが勇者様と剣聖ですね。あれほどの敵を一撃で倒せるなんて――すごく格好良かったです!」
「い、い、イシュアさん。イシュアさんも! すっごく格好良かったです!!」
「ありがとうございます、リリアンさん」
「ひゃ。ひゃ~!?」
どうしたのだろう?
顔を真っ赤にして、彼女はディアナさんの後ろに隠れてしまった。
「ごめんな、イシュアさん。この子、憧れのイシュアさんに会えたのが嬉しくて。照れて――」
「う~! ディアナ~!?」
まさか勇者様が、僕のような新人に憧れてるなんてことはないだろう。
ディアナも面白い冗談を言う人だ。
「イシュアさん! あなたこそが、人類の救世主だと思います! ほんとうに尊敬してますっ!」
「ありがとうございます。勇者様にそう言ってもらえると自信になるよ」
リリアンは、空気も読めるとても良い子だった。
「うう……本気で言ってるのに――」
う~、と頬をふくらませるリリアン。
そんな様子を見て、ディアナはよしよしとリリアンの髪を撫でる。
「先輩、先輩! 私の魔法はどうでしたか!?」
「アリア、完璧だったよ!」
そうこうしていると、アリアも会話に飛び込んできた。
「やっぱり『パーティヒール』は安心感があったね! いつでも展開できる『プロテクション』が4つも浮いてると――」
「はいはい、振り返りは後にしよう!」
パンパン、とディアナさんが手を叩く。
「あのあの! イシュアさん。もう一度だけエルフの里に戻りませんか? 世界樹があれば、ここまでの瘴気は有り得ない。調査が必要だと思うの」
「でも――普通に拒否されたし……」
世界樹に何らかの異常があることは、ほぼ確実だろう。
そう思っていても、強引にエルフの里に押し入る訳には行かないのだ。
「勇者のライセンスを使うの。昇格したモンスターが辺りを跋扈している。否とは言わせないの」
リリアンは、自信満々にそう言い切った。
そうして僕たちは、再びエルフの里に向かうことになる。




