24. マナポーター、オーガキングを討伐し、勇者リリアンからは「救世主」認定されてしまう!(1)
本日、五回目の更新です!
「な、なにここ……?」
時空の歪みを調べていたら、見知らぬ空間に転移していた。
混乱する僕が最初に見つけたのは、見覚えのある小さな少女だ。
(この子とディアナさんと――向こうにいるのは、オーガキングの変異種?)
(それなら……この空間は、何らかの戦闘スキルかな?)
時空のゆがみの原因が分かり、ひとまずホッとする。
そうと分かれば、すぐにでも彼女たちのサポートをしたいところだが……
ふえ~ん
泣き出してしまった少女を前に、僕は途方に暮れる。
慌ててアリアに助けを求めたら、ひどく呆れたような目で見られてしまった。
(な、なんで~!?)
結局、僕が選択したのは自分の役割を果たすことだった。
(異空間を生み出して転移させる術式か)
(悔しいな……。ちっとも読み取れないや)
術式が理解できない以上、魔力の肩代わりは不可能。
消費された魔力を、地道に補充していくほかなさそうだった。
『ハイ・チャージ!』
「ほえ? こ、こんなすぐ!?」
許可を取ってから彼女にマナを注ぐ。
「オーガキングの変異種か。たっぷりと瘴気を吸ってるみたいだね」
「イシュアさん、巻き込んでしまって悪いね。クエストを受けたんだけど、見ての通りちょっと苦戦してるんだ」
ディアナがモンスターを警戒しながら、僕にそう言った。
どうやら彼女たちも、偶然この地方のクエストを受注していたらしい。
――まさかイシュアを追いかけるために来た、とは夢にも思わない本人であった。
「ディアナさん、大丈夫ですか? だいぶ顔色が悪いです」
「情けないことに、だいぶ瘴気を吸い込んでしまってね。治癒手段もないから、リリアンの回復魔法で誤魔化してる状態だ。まだ動けないほどでは――」
「『ハイ・チャージ!』『クリーン!』……少しはマシになったと思うんだけど、どうかな?」
「し、信じられない。体がすごく軽くなったぞ!?」
瘴気に侵されたマナを追い出すように、僕は彼女にもマナを補充する。
瘴気とは、闇と呪詛の魔力の複合体だ。
あくまで打ち消し合う魔力を注いでやれば、専門的な知識はなくとも症状を和らげることは出来るのだ。
「イシュアさん、あなたは改めて規格外だな。そんな方法で、瘴気に侵された体を治癒するなんて……」
「えっへん! 先輩は本当に凄いんですよ!」
アリアが、えっへんと胸を張る。
マナポーターには、魔法を使えない底辺ジョブという偏見が付きまとう。
だからこそ少しでも役に立てるように、術式解析から魔力の属性配合など、様々なことを独学で勉強してきたのだ。
こうして認められる日が来て、素直に嬉しい。
僕はオーガキングに向き直った。
「イシュアさん、最期に会えて嬉しかったです」
一方、リリアンも悲壮な顔でモンスターに向き直る。
「あれは――私たちでは倒せない難敵です。でも……勇者のプライドにかけて、時間稼ぎぐらいはしてみせます」
「リリアン、さん……?」
(同じ「勇者」でも、ここまで違うのか……)
リリアンの覚悟を聞いて、僕は感動していた。
かつてリーダーだった勇者は「俺様は勇者だ!」と高笑いしていた。
敵わない敵と相対したなら、容赦なくメンバーを切り捨てることを選ぶだろう。
「確信しました。イシュアさんは、いずれ世界の救世主となるお方です。どうか無事に逃げて――」
「あの! リリアンさん!」
「ひゃ、ひゃい!?」
ぴゃっ、と大げさに飛び上がるリリアン。
(僕なんかが救世主だって? あり得ないよ)
(もしも本当にどうしようもない状態なら、どう考えても生き残るべきは勇者だよ)
それに――
「たしかに強敵だと思う。だけど倒せない相手ではないよ」
「なに! それは本当か!?」
「アリア、いつものを頼みます!」
「はい、先輩! 『エンハンスド・シャープネス!』『パーティ・リカバー』『プロテクション!』」
「な、このバフの効果量は何!?」
「あ、有り得ないの。全体回復魔法の消費魔力を補っているの!?」
アリアの魔法には、独自のアレンジも加わっている。
彼女の努力を知っているだけに、驚きの反応を見て僕まで嬉しくなった。
「ありがとう、魔力は全部僕が負担する。何かあったら、すぐに回復魔法を撃てる準備を――相手の様子次第では、常にかけ続けても良いよ」
「分かりました!」
パーティ全体に回復魔法とバフをばら撒き続ける。
即死しない限り、態勢はいくらでも立て直せるはずだ。
「リリアンさん」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
「高濃度のマナに耐性はありますか?」
「訓練したことがあります。大丈夫だと思います」
「分かった。苦しくなったら遠慮なく言ってね? 『マナリンク・フィールド!』」
この戦闘は、彼女の張る固有結界が要だろう。
魔力消費を肩代わりできないなら、せめて魔力の回復量を上げるべきだと僕は判断した。
範囲を狭めて、リリアンの周囲に集中的にフィールドを展開する。
(さ、さすがリリアンさん。この密度のマナも平気なんだ)
(アランは「気持ち悪くなるから使うな!」と怒ってたからなあ……)
「す、すごいです! 魔力の回復速度が考えられないぐらい上がってます。これなら『幻想世界』を30分はキープできます!」
「良かった。でも残量が不安になってきたら言ってね。すぐにチャージする」
「はいっ!」
リリアンはこくこくと何度も頷いた。




