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19.マナポーター、無限の魔力で"ハズレ依頼"を処理していたら凄すぎると街中でウワサになってしまう

「アリア、今日が僕たちの冒険者生活のスタートです」

「はい、先輩。頑張ります!」


 宿で一泊した僕たちは、再び冒険者ギルドに向かう。

 目的はクエストの受注――ついに本格的な冒険者生活が始まるのだ。




◆◇◆◇◆


 冒険者ギルドの中は、人でごった返していた。

 割の良いクエストを奪い合って冒険者が火花を散らす――それもまた、ギルドでの日常風景だ。



「う〜ん、すごい混み具合だね」

「これじゃあ依頼に行く前にヘトヘトですよ……」


 うわぁと引き気味の僕に、アリアもうんざりした様子で同意する。



「先輩、先輩。あの辺の依頼はどうですか?」


 アリアが指差したのは、部屋の隅にある人の居ないスペースだった。

 そこにも依頼は貼られているのだが、何故か誰も見向きもしないのだ。



「あ、イシュアさん。そこにある依頼たちは……」


 いつの間にか隣に来ていた受付嬢が何かを言いかけたが、残念ながら僕の耳には入らなかった。

 目に付いた依頼をいくつか手に取る。


「なになに……? 3軒目のカリーナさんの猫探しに、錆びついて動かなくなった動力炉のろ過。墓に住み着いたプチアンデッド大群の討伐依頼?」



 僕は目を輝かせた。

 動力炉のろ過となれば、魔力の扱いをメインに学んできた僕の得意分野である。

 プチアンデッド大群の討伐依頼となれば、聖女の専売特許だ。



「この辺の依頼、受けます!」

「イシュアさん、良いんですか……? 腕が確かなCランクの冒険者さんになら、私の方からもっと良い依頼を斡旋することも出来ますよ?」


「そこまでして貰うのは申し訳ないです。それにここにあるのは――実に僕好みの依頼です」


(アリアも喜んでるし!)


 アリアは猫探しの依頼を見て、ニコニコと上機嫌な笑みを浮かべていた。


「さすがはイシュアさんです。誰も見向きもしなかったハズレ依頼を積極的に引き受けようという姿勢――私、感動しました!」

「……ハズレ依頼?」


「はい! 報酬や難易度が割に合わないと、誰からも受注されずに放置されたクエストです。依頼者もダメ元でお願いしてくることも多いんです。引き受けて下さる方がいて、本当に嬉しいです!」


(え、ここにある依頼って条件悪いの……?)

(プチアンデッドたちを消し飛ばすだけで銀貨1枚。美味しすぎると思うんだけどな?)


 アンデッドは魔法を使わないと倒せない。

 魔力回復薬は高価で、その群れを倒すなどコストがかかりすぎて銀貨1枚では赤字になりかねない。

 ――それが世間一般の感覚なのだが……イシュアはそのことを知らない。



「気にしないで下さい。あそこに並ぶのが嫌だっただけです」


 僕の言葉はすべて本心なのだが……受付嬢は、何故か恐縮した様子でペコペコと頭を下げるのだった。



◆◇◆◇◆


 一方、そのころ。


「危険なクエストを受けてしまったイシュアさんをお助けして、信頼を勝ち取ろう大作戦。スタートなの~!」


 えいえいおー! とリリアンが気合を入れていた。

 勇者の彼女は決して暇な訳ではないのだが、新たなメンバー探しという名目で街にとどまっているのだ。

 いつになく一生懸命な少女を見て、ディアナは、微笑ましいものを見るような眼差しになった。



「あれ? イシュアさん、ハズレ依頼をいっぱい受けてるみたいだよ?」

「あれだけの実力があれば、美味しい賞金首モンスターの討伐に向かうことも出来るだろうに……さすがだな。街の人の役に立ちたい、そういった(こころざし)を持っているからこその選択だろう」


 彼らが引き受けたのは、誰もやりたがらない割に合わない雑用クエストだ。

 きっと人手が必要になるだろう。

 たまたま通りがかったと、少しだけ手助けするのも良いだろう。


* * *


 最初のクエストは猫探し。

 街全体をしらみつぶしに探す他ない、冒険者の腕も関係ない依頼だった。


(最悪、今日中には終わらないかもしれないね)


 そんな覚悟をしていたディアナであったが――


「猫が好む魔力の波長ってのがあるんだよな。初クエストは楽勝だったね。僕みたいなマナポーターにも、達成できる依頼で助かるよ」

「そんな芸当、先輩以外は出来ないですからね!?」


(な、なんじゃそりゃ!?)

(猫が好む魔力って……なに!?)


 アリアの言葉に、リリアンがこくこくと頷いた。

 わずか30分の間の早業だった。


 そんな人間離れした芸当をしておきながら、彼らは猫に囲まれながら、ほのぼのと会話を続ける。

 実に平和な光景だった。


* * *


 続いてのクエストは、動力炉のろ過。

 町中央の機体を全部、というとんでもない無茶ぶりだ。

 おおよそ達成されることも期待されていない、いたずら半分の依頼。


 それなのに――


「町中央の魔力の動力炉32基のろ過、終わりました。良いんですか? 魔力を注いだだけなのに、これほどの報酬をいただいてしまって」


(はああああ!?)


 イシュア、これまたあっさりと依頼を達成。

 目の前の光景が信じられない、とクエストの終了報告を受けた整備士の表情が引きつっていた。

 魔力量SSSは伊達ではない、ということだろう。


* * *


 最後の依頼はプチアンデッドの大群の討伐依頼。


(こんなもの。そもそも個人で受けるべき依頼じゃ――)


「『ホーリーナイト・ジャッジメント!』」

「ア・リ・ア! やりすぎ!」


「えへっ。やっぱり先輩との共同詠唱は楽しいですね!」


(……)

(ウソ、でしょ? 100体はいたアンデッドを1発で浄化する大魔法の魔力を補ったって言うの!?)



 言葉を失うディアナたち。



「これで受けた依頼も終わりだね。簡単な依頼ばっかりで良かったね、もう少しだけ受けて来ようか?」

「はい、どこまでもお供します。先輩!」


(ええ…………)

(まだクエストを受ける余裕があるの? ウッソでしょ……)


 結局、後を付けていたディアナとリリアンの出番は一度もなく、イシュアの規格外っぷりを見せつけられる結果となった。


 イシュアという魔力SSSをたたき出した期待の新人が、冒険者ギルドが(さじ)を投げた厄介な依頼を息をするようにクリアしているらしい――瞬く間にそんなウワサが街中に広がっていくのだった。

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