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15.マナポーター、冒険者ギルドに登録する。魔力量が高すぎて驚かれる

 僕たちが向かったのは『新人の街』と呼ばれるノービッシュ。

 ここで冒険者として心機一転、スタートを切ろうと思ったのだ。



「アリア、本当に良いの? 今なら勇者パーティに戻ることも出来ると――」

「くどいですよ、先輩?」


 アリアは言葉を止めるように、僕の口に人差し指をそっと当てた。



「先輩と一緒だから、私は勇者パーティにも入ったんです。先輩と一緒なら、あっという間にSランク冒険者の仲間入りです!」


 ただ当たり前の事実を口にするように、アリアは言った。


(僕を信じてくれたアリアのためにも。情けないところは見せられないな)


 僕は密かに気合いを入れ直す。

 そうして僕たちは、冒険者ギルドを訪問するのだった。




◆◇◆◇◆


 冒険者ギルドは酒場と繋がっていた。

 入るなり大勢の視線を集めてしまい、アリアはぴゅーんと僕の後ろに隠れる。



「いらっしゃいませ。何の御用ですか?」


 受付に向かうと、愛想の良さそうな受付嬢が僕たちを迎え入れた。

 同い年ぐらいに見える少女。



「新たに冒険者登録をさせて下さい。旧ライセンスはこれです」


 僕は勇者パーティのライセンスを渡す。

 僕とアリアの2人分――あらかじめ話し合っていた通りだ。



「それは……お役目、ご苦労様でした」


 受付嬢は慣れた手つきで、勇者パーティのライセンスを受け取った。


 勇者パーティのライセンスは、通常の冒険者とは異なる特殊なもの。

 様々な特権を得られる代わりに、勇者パーティに在籍している間しか有効ではなく、脱退したらギルドに返却する必要があるのだ。



「マナポーターですね。それと……聖女。聖女!? 勇者様は、聖女様も追放したのですか!?」

「私は追放者ではありません。先輩に付いてきたんです!」


 ひょこっと背中から顔を見せて、アリアが答えた。



「聖女様が勇者パーティを飛び出してマナポーターの後を?」

「はい! 何かおかしいですか?」


「……おほん。ギルドは常に人手不足。実力さえあれば喜んで迎え入れます!」


 受付嬢は首をかしげたが、そのままステータス測定用の水晶を差し出す。


「こちらに手をかざして下さい」

「先輩、見てて下さいね!」


 アリアがそう言いながら、水晶に手をかざした。


「体力C、攻撃力B、防御力B、知力S、魔力量S! さすがは聖女様です。すごい魔力量と知力です!」

「聖女失格と言われないで良かったです。次は先輩の番ですね!」


 アリアのキラキラした眼差しを受けて、僕も水晶に手を伸ばす。

 前にステータスを測定したのは、冒険者育成機関にいた時だろうか。

 久々のことで、僕としても結果が気になった。



「体力A、攻撃力B、防御力B、知力A、魔力量がSSS(トリプルエス)!? そ、そんな馬鹿な……。測定器の故障のようなので少々お待ちください」

「測定結果は、それで合ってると思いますよ? 私、先輩の魔力が尽きたところを見たことがありませんから!」


 アリアは自慢げにそう言った。

 その後、受付嬢が新たに水晶玉を持ってきたが結果が変わることはなかった。


「魔力SSSのマナポーター!? こんなステータスが存在してるんですね。生まれて初めて見ました」

「ありがとうございます。魔力の多さには、少しだけ自信があるんです」


「少しなんてレベルじゃないですよ……」


 受付嬢は、しげしげと水晶を見直していた。



「先輩は、パーティ全員の魔力を供給してました。まさしくパーティーの(かなめ)だったんです」

「パーティーの魔力をひとりで!? ……そんなこと不可能でしょう。あまり魔力を使わないパーティーだったんですか?」


「いいえ。勇者と聖女、賢者と魔導戦士。みんなバンバン魔力を使ってました」

「最高位の魔法ジョブばっかりじゃないですか。どういうことなんですか!?」


 受付嬢は驚愕に目を見開いた。

 オーバーリアクションは、彼女なりの歓迎なのかもしれない。



「マナポーターの役割に忠実だっただけです。メンバーが気持ちよく魔法を使える環境を作り出すことが、僕の役割です」

「う〜ん。あまりにも規格外過ぎて、ちょっと初期ランクに迷いますね」


 冒険者にはF〜Sのランクが存在する。

 登録時点で受付嬢の判断でFかEかを言い渡されるのが大半らしい。



「私たちはパーティ結成以来、一度も魔力切れになったことがありません。先輩は世界で一番のマナポーターです!」


 アリアが身を乗り出して僕のことをプッシュ。

 なるほど、冒険者ランクを少しでも上げてもらおうとしているのか。

 なら僕も――


「アリアは、独自のアレンジを加えた術式を使うし――最上位魔法にデュアルスペルだって付与できます。まさしく世界一の聖女です」

「せ、先輩……持ち上げすぎですよ」


 そう力説すると、アリアはすごく照れた様子で僕から目をそらしてしまった。



「ふふっ、お互いを信頼し合ってるのがよく分かります。お似合いですね?」

「私と先輩がお似合い。えへへ」


 あ、だめだ。

 アリアがポンコツになってる。


「いや、僕とアリアはそういうんじゃ……」

「はいはい、ごちそうさま」


 ジト目でこちらを見る受付嬢。

 それからテキパキと手を動かし、申込用紙に何かを記入していく。



「Cランクからで、どうですか?」

「え、初期ランクですよね? FかEスタートじゃないんですか?」


「無限の魔力を持つイシュアさんと、天才聖女のアリアさん。おふたりをEランクとしておくのは、ギルド全体の損失です!」


 受付嬢はテンション高く言い切った。


(マナポーターというのは、決して表立って活躍するジョブではない)

(それでも正当に評価してくれる場所なんだな)


 じんわりと胸が暖かくなる。


 前パーティでは、勇者からの理不尽な言いがかりに悩まされた。

 ギルドの公平さはありがたい限りだ。



「おふたりの活躍を期待しています!」


 受付嬢は楽しそうに笑った。

 こうして僕とアリアは、ギルドでの冒険者登録を終えたのだった。

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