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10.マナポーター、アクシスの村で勇者として物凄く歓迎される

 歩くこと4時間。

 僕とアリアは、行商人に案内されるままにアクシスの村に到着した。

 荷台に載せてもらい楽な旅だ。


「ささ、勇者さま。アクシスの村へようこそいらっしゃいました!」

「だから僕は勇者じゃ――」


「先輩? 過ぎた謙遜は、ときに嫌味になりますよ」

「勇者様っていうのは謙虚で向上心を忘れないお方なんだな。正直『俺は聖剣に選ばれたんだ!』みたいな、もっと嫌みな奴かと思ってたよ」


 行商人のおじさんがしみじみと言う。

 ……うん、本物はそんな感じです。



「おかえり、おじさん! そっちの人たちは誰ですか?」

「ふっふっふ。聞いて驚け! なんと聖女様と勇者様だ!」


 こちらに気が付き、ひょこひょこと少女が話しかけてくる。


「だから僕は勇者じゃなくて――」


「街道沿いでモンスターに襲われているところを、凄まじい神聖魔法で助けて貰ってなあ……」

「こんにちは、聖女・アリアです! おじさんにはお世話になってます」


 ひょこっとアリアが顔を出した。



「こんな寂れた村まで、ようこそおいで下さいました。何もないところではありますが、どうぞゆっくりして行ってくださいませ!」

「小さいのにしっかりしてるね。偉い!」


 アリアは屈みこみ、少女の頭を優しく撫でた。

 小さい子が相手なら、アリアの人見知りは発動しないのだ。



「おやまあ、聖女様と勇者様がこんな場所まで! こんな所に立たせておくなんてとんでもない。すぐに宿屋に案内しなければ!!」

「この聖女様可愛い! お持ち帰りしたい!」

「勇者様が――!? 握手してくれ、隣町の奴にうんと自慢してやるんだ!」


(え、ちょっ。なにごと、なにごと!?)


 わらわらと人が集まって来た。

 その誰もが人の()さそうな笑顔を浮かべている。

 


「ううっ……先輩、助けて下さい!」

「アリア……。聖女だなんて大声で言ったら、こうなるに決まってるよ」


 村人に囲まれ、アリアは涙目になった。

 アリアは努力家だ。完璧な聖女となるために、人付き合いの苦手さも乗り越え完璧な笑顔を作り出す。

 しかしキャパシティーを超えてしまうと、取り繕う余裕が無くなってくるのだ。



「ちょうど村の特産品のヒューガ・ナッツが取れたところなんですよ! 是非とも勇者様に食べて欲しいです!」

「うう……」


 ――今のように。



 仕方ないな。


「歓迎ありがとうございます。このような素敵な村に来られて幸せです」


 僕はアリアを庇うように前に出て、丁寧に頭を下げた。

 彼女はぴゅーんと僕の後ろに隠れる。

 


(う~ん、アリアは変わらないな。最近はだいぶ良くなったと思ってたんだけど……)


 幸いにしてアリアの様子に疑問を持った者は居ない。

 代わりとばかりに、僕の方にも木の実の山を差した。


「バカ! ハムスターじゃないんだよ。勇者様にヒューガ・ナッツをそのまま出す馬鹿がどこにいるんだよ!?」

「その……。最近はマナ不足が酷くて、精製器の機械のメンテナンスが追いついてなくて。畑を耕すのも人力だと限界があるし――これからの作業を思うと気が重くなるな」


「マナ不足なら、僕の方でどうにか出来ると思いますよ?」

「そんな! 勇者様に雑用みたいなことをさせる訳には――!」


「気にしないで下さい。そういう裏方作業は、僕がもっとも得意とするところです」


 まごうことなき本心である。

 そうして僕は、村の一角に案内された。

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