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カメラマン

作者: 鰤金団

「この無能が〜!!!」


オレは今日も編集長に怒られた。

怒られた理由はどこよりも先に張付いて狙っていたマジシャンと女優の熱愛を他の出版社にス

クープされたからだ。


「亀田、お前やっぱりこの仕事向いてないよ」


オレにそう言うのは俺と同期でエースの宇佐田だ。


「俺、人の裏って好きなんだよ。だからカメラで沢山の有名人の裏を撮りたいんだ」

「そんな事言っても誰も信じないぞ、今回だって仕事道具のカメラ忘れてコンビニに買いに言ってる間に他の記者が写真撮っちまったんだろ」


当っているだけに何も言い返せない。

オレが記者になったのは人の裏を知る事が大好きだったからだ。

天職だと思ったのに実際には出版社のお荷物だ。



「今夜は気失うまで飲んでやる」


オレは退社後ムシャクシャを晴らす為にコンビニで大量に酒を買った。

腹が立った時には気を失うまで酒を飲むのが一番だ。

気を失うまで飲んだ次の日は決まって寝坊するのだが、それを咎める者は誰もいない。

オレはあの出版社のお荷物であり居ても居なくてもどうでもいい存在なのだ。

帰り道でオレはまだ飲んでもいないのにブツブツと独り言を言っていた。


「オレは人の噂話や隠し事は絶対に忘れないんだ。カメラなんか無くったってオレが見ていればそれが証拠なんだ」


いきなりオレの視界が白くなった。

ドンッと凄い勢いでオレに何かがぶつかった。

多分車に轢かれたんだと思う。

オレの意識はそこで途切れた。



オレは家の近くの公園のベンチで目を覚ました。

酒を枕にしていたらしく首が痛い。


「なんでこんな所で寝てるんだオレ?」


オレは寝る前の事を思い出した。

すぐに自身の体を触り怪我をしていないか確認する。


「気を失うほどの衝撃だったのに擦傷一つ無い?」


不審思ったが俺はとりあえず家に帰る事にした。

時計を見ると12時をすぎていた。

この公園は夜になると怪しい集団が集まってくるから変な事に巻き込まれる前に公園を離れたかったのだ。



翌日、出版社に向う途中で大物政治家の姿を見つけた。


「もしかしたら大スクープか?」


大物政治家が不正に金を受け取る所を写真に収める事ができればオレは出版社で宇佐田より上の存在になる事ができる。

オレはすぐに政治家を追った。

追いかけてみると人気の無い所に着いた。

政治家はそこにいた人物となにやら密談をしている。


「これは大スクープ確実だな」


カメラの準備をしようと鞄を探る。


「しまった!昨日出版社にカメラ置いて帰ったんだった」


ついてない、カメラを買おうにもこの近くにカメラの売っている店が無かった。

とりあえず、オレは政治家の行動を最後まで見る事にした。


「分厚い茶封筒を受け取ったぞ。中身はやっぱり金か」


人の裏を見た瞬間だ、この瞬間の為にオレはこの仕事に就いたんだ。



一部始終を見た俺は意気揚々と出版社へ向った。

最初にする事は決まっている、編集長に大物政治家が不正金を受け取った現場を見たと伝えるのだ。


「編集長、大スクープですよ。大物政治家が不正金を受け取ってました!!」

「ああそう、それで証拠は?」


まるで信じていない。


「オレがこの目で現場を見ました!!」


自慢げに編集長に言う。

オレの話を聞いた周りがクスクスと笑っている。

笑いたければ笑うがいいさ、この大スクープはオレのもんだ。


編集長が立ち上がりオレの肩を叩く。


「亀田、お前は今日でクビだ!!」


いままで一番大きな怒鳴り声だった。


「どうしてです?他の奴ならすぐに他の証拠を集めて来いって言うのに」

「お前の言っている事が本当だと言う証拠がどこにある?お前の今までの仕事ぶりを見て本当だとお前を信じる奴がこの編集部にいると思うのか?」


そうだった、オレはこの出版社で信用0だった。

誰も信じる筈がない。


「じゃ、じゃあすぐに証拠を持ってきますよ。そうすれば編集長も信じますって」


オレはそう言って証拠を探しに行った、カメラを忘れて。



かれこれ5時間外を走り回っている。


「大口叩いてきたのにこれじゃあ意味が無いじゃないか」


自分の浅はかさに嫌気が指して思わず手に持っていたメモ帳を握り締める。



「どうにかして証拠を見つけないと」


どうすればあの時みたいな決定的な証拠を手に入れる事が出来るだろう?

朝の出来事を思い出す。


(やたらメモ帳が熱いな)


メモ帳に目をやる。


「こ、これは・・・」


今朝の決定的瞬間がカメラで撮ったかのように鮮明に映し出されていた。


「一体どうなってるんだ」


驚きを隠せなかったがこの鮮明さなら十分証拠と言っても通用する。

オレは急いで出版社に戻って編集長に見せた。


「こ、これどうやって見つけた?これに映っているのは確かに大物政治家じゃないか!!」


編集長の息が興奮して荒くなっている。


「皆、すぐに大物政治家について調べ上げろ。大スクープだ!!」


編集長の言葉を聞いた編集部の皆は信じられないという風にしばらく動きが止まっていた。


「何ボケッとしてるんだ、さっさと動かんか」


そう言われて皆は動き出した。

とても気分がいい、宇佐田はいつもこんな気分を味わっていたのか。

この二週間後に大物政治家は逮捕された。

これを機にオレは皆から一目置かれる存在になった。



(あの時何でメモ帳にあの瞬間が映し出されたんだろう?)


幾ら考えても答えが出なかった。

不正金事件の後同じ事が起こる事が無かった為、原因が未だに解らない。

不正金事件の話が世間に飽きられた頃、オレは編集長に言われある芸能人の不倫について調べていた。


「ようやく真実を知る事ができるな」


その日、慎重で中々現場を見せなかったその芸能人がようやくボロを出してくれた。

すばやくカメラを準備し、フィルムのチェックをする。

そこで致命的なミスに気づいた。


「フィルムが無い!」


やっと証拠写真が撮れるチャンスだったのにカメラの中にフィルムが入ってない。

予備のフィルムも鞄の中に入っていない、これじゃせっかく一目置かれる存在になったのにお荷物に逆戻りだ。

フィルムを買いに行く時間は無い。

オレはとりあえず決定的瞬間の一部始終を見る事にした。

出版社に戻ってからオレはどうやって編集長に言うべきか悩んでいた。

この前みたく証拠が無いんじゃ誰も信じてくれない。

悩んだ俺は以前の再現をしてみようと思いついた。

今回はメモ帳ではなく印画紙を手に持ち、さっき見た不倫現場を思い出す。

メモ帳の時と同じように印画紙が熱くなっていくのが解る。


「やった、成功だ」


印画紙にはオレが見た映像がしっかりと映っていた。

翌日それを編集長に提出する。


「よくやった亀田、お前ならやってくれると思っていたぞ」


この前はクビ宣言していたのに豪い変わり様だ。

それでも認められたという事に悪い気はしない。

これからの事を考えるととてもワクワクしてきた。

なんてったってオレには目で見たものを他の物に映し出す能力がある事が解ったのだから。

もうカメラやフィルムを忘れるなんて致命的なミスに悩まされる事は無いんだ、怖いものなんて何も無い。

オレだけのオレだけによるカメラを手に入れたんだ。



能力に気づいてから3年が経っていた。

オレが次々とスクープを撮ってくるもんだから皆は俺をスクープの神様なんて言ってはやしたてる始末だ。

オレに向いていないと言っていた同期でエースだった宇佐田はすっかり自信を無くして2年前に出版社を辞めていった。

オレの人生は約束されたも同然だった。

しかしそれがある日突然終わる事になるなんて思っても見なかった。



仕事が終わりオレはコンビニで酒を大量に買って家へと向っていた。

明日は休みだからどれだけ酒を飲もうと関係ない。

明日が仕事でも今のオレはスクープの神様だから大抵の事は許されている。


「世界のスクープはオレの物だー!!」


そう言ってはしゃいでいると視界が白くなった。

3年前と同じように凄い勢いで何かがオレにぶつかり意識を失った。

次に目を覚ましたのは家の近くの公園では無く見た事も無い場所だった。


「何だここは?」


光で何も見えない。

起き上がろうにも体が固定されていて動く事が出来ない。


「サンプルナンバー40の試験期間終了に伴いデータの回収をする」


オレの頭辺りで声が聞こえる。


「サンプルって何だ?試験期間ってなんだ?そもそもお前こんな事して何考えてるんだ!!」


怒鳴るが相手は反応を見せない。


キィィィィィン


機械が回る音が聞こえる。

この音は多分チェンソーだと思う。


「ま、待て何をする気・・・」


激痛が走る。

気を失ってもおかしくないほどの激痛なのにはっきりと意識がある。

光で何も見えないのにやっている事がはっきりと解る。


「お前止めろ、頼む、金なら幾らでも払うから元に戻して・・・」


ブチッと切れる音が聞こえるとオレは何も反応する事ができなくなった。

それでも不思議な事に相手の声を認識する事が出来た。


「後はこのカメラのデータを調べるだけだ。体も念のため保存して置こう」


もう自由が無い事を知った。

それでもオレは一つだけ願う。


オレのカメラを返してくれ、と。

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