85. ☆「真・反逆の刃VSレーヴァテイン」
《死超星はどこに行ったんだ!? ベリィ!?》
《があっ!! オレは何も、知りませんっ!!》
《じゃあこの長い抜け毛は、一体何なのよ!?》
《げふっ!! 銀髪なんて、探せばどこにでも》
《3度目の反抗かい? ならば覚悟するんだね!》
《ぐおっ!! ぐっぐあっ、ああああああ!!》
扉を背に聞き耳を立てる。逃げるべきなのに、病み上がりの現状で見つかれば勝てる自信はないのに。脚が、身体が少しも動かない。
《やれやれだよ、ゼフォンまで逆らうとはねえ》
《わたしだって、知らないものは知りませんよ》
《茶番に付き合う気はないわよ。ニッテル、ゼフォンをよ〜く可愛がってあげなさいな》
《なっ、待って下さい! 何のつもりスか!?》
《フフ、そんなこと言うだけ野暮ってものよ?》
《ひっ、卑怯な、ッ!!》
《ハッ、どの口が言うのかしら。さあさあ、早くおやりなさい。これが情報料代わりよ》
《へへ、ありがてえ!!》
《いっ、いやあああ!!》
《よせ、やめろォォ!!》
《私の妹もそう言ったはずよね。泣いて喚いて叫んで、許しを乞い願ったはずよね!?》
《ぐう、ううッ――!!》
《これが因果応報なのよベリィ。思い知れ!!》
いや違う。脚はちゃんと動いたンだ。
逆方向へ。
「捜してンのは俺かい?」
扉を蹴破り、小屋の中へと戻ってく。
「最近よォ。こういう場面に割って入るとロクな目に遭わないンだが、今回はどうかな」
敵はふたり、一応情報屋というオマケもひとり。間一髪踏み込んだトコに全員が一斉にこっちを見る。
「死超星よ。やはりここにいたのかね」
「ふふ、会いたかったわ。3,300万よ」
「ルーシー、おめえってやつは……!」
「どうして、逃げなかったのっ……!」
どうしてって? この愚直な身体のせいさ。あの時とは違う。ベリィとゼフォン、お前らにアンジュたちほどの義理はないしちゃんと見捨てるつもりだった。三太の意思なら放って逃げる気マンマンだった。
でもこいつはそうしなかった。すっかりやさぐれてみせちゃいるがそれでも正義で在ろうとしてるンだな。今じゃ俺の方が悪い意味で大人になっちまったか。
「表に出な」
外に出れば森の中は辺り一面すっかり暗くなっていた。月に照らされる中敵ふたりが名乗りを上げる。
「我が名はファルバウト。こちらは妻だ。ちなみに新婚ホヤホヤでね」
「ナール・ラウフェイよ。はじめまして。そして早くもサヨウナラね」
それに対し俺の意思じゃなくルーシーが淡々と応える。オートイベントは今もなお続いているようだ。
「その言葉、今からそっくりお返ししてやるぜ」
「お前の力の源にして、信条は“報復の意志”だそうね? それなのに“自ら仕掛ける”理由はなぜなの?」
「そうだな、そこのふたりに惚れたってトコか」
「ふふふっ、ゼフォンみたいなのが好みなの?」
「おうとも、俺は小便臭いのもいけるクチでね」
「わかるよ、肌の綺麗さは若い子が一番だしね」
「そうかい、お前さんとはいい酒が飲めそうだ」
「チッどいつもこいつも。我が旦那も所詮男か」
それって、もしかしてデオッチェのことか? まあルーシーと感覚を共有してる以上、確かにあの時は俺も気持ちよかっ――って今そンなのはどうでもいい。
「そこのベリィにも思い入れがある。殺させはしないぜ」
「ほほう“両刀使い”かね!? 女色を極めるとそうなるとは言うが、愛妻一筋の僕には理解できないな」
「なあベリィよ、その節は世話になったなァ?」
「ううっ、その節はマジで悪かった。ルーシー」
クソッ、まぁた嫌な記憶を蒸し返しやがって。だが俺にはわかる。こいつはかつての敵を今まさに許し仲間と認めた。そして借りを返すという“報恩”――あくまでその信念を貫く気なンだ。命を賭けてまで。
「いつまでもウダウダうるさいわよ。死ね!!」
刹那、ナールって女がドラゴンボールのごとし勢いの気弾を放つ。まるで太陽をミニチュアにしたような超パワーだ。その軌道上に生い茂る草花が一瞬で燃えカスとなっていく。
まずいコイツ“炎使い”だったか! だめだ一瞬すぎる、回避なンて間に合うはずもないしこんなの氷では防げない! クソッ【反逆の刃】対策の“即死”狙いか!? これじゃ――
“バシャッ!”
しかしその炎はこっちへ届くこともなく突然消失した。
“シュウウウ”
あとに残ったのは宙に漂う白煙と地面の水たまりのみ。こ、これは? 何かが激しく蒸発したような。
「お前、まさかその“剣”は。ばかな――なぜ?」
俺と同様に驚愕を浮かべるナールの顔を見て、ふと右手に“冷たさ”を覚える。そう、握られてたのは思った通り【反逆の刃】だった。
まさかこれで今のを防いだのか。だがとにかく確かに「ばかな」だ。この力は俺が被害を受けてからじゃないと使えないはずなのに。
(前にも言っただろう。“精神の成長”だよ三太)
その時、この行動を見守る“俺”の他にもうひとり“誰か”の声が響く。
(【反逆の刃】の弱点はお前や、昔の俺の青臭さだった。報復すると決めた敵は必ず倒れる代わりに、どこまでも甘いその性格のせいですぐ相手を許しちまう)
(闘争心、すなわち怒りが持続しないのさ。強力でもすぐ消えちまう、歪で矛盾にあふれた力なンだよ)
何だこの声、まさかまたお前か? ルーシー。
(最初に言ったな。今回は俺が身体を動かすと。悪いが甘ちゃんのお前に任せてたらコイツに負ける可能性大なンでな。そうなりゃこの追想はここで終わりだ)
(そしてお前、俺のことを正義を忘れてないと評したな。だがそいつは間違いだ。そう、道を外れゆく俺の姿を黙って眺め、せいぜい自分自身を省みるンだな)
――戦闘に戻る。“こっちのこいつ”も依然として勝手に話している。
「もう“受け身”は仕舞いだ。なンで俺の邪魔をするなら容赦なく殺すぜ。誰だろうとな」
「正体を現したわね。“死を呼ぶ星”よ」
「ここまで堕ちたのは今までの甘さゆえだ。自分への怒りが湧いて仕方のない限りだよ」
「……」
「俺は己に反逆する。その決意がこの力の“常時発現”さ。なワケでお前らは終わりだ。さあくたばりな」
そうか、ならばそういうことにしとくよ。この過酷な異世界、そうでないと優しすぎるお前に未来はない。そうなンだよな、きっと。
「さあ来いよ炎使い。狂喜なる氷結に、乱れ舞う火炎の共演――いや凶宴の幕開けだ!」
「いいわ、せいぜい吐いた唾は飲み込まないことね!!」
そうしてナールは掌を掲げて、力強く叫んだ。
「来たれ魔杖! 顕現しなさい【レーヴァテイン】!!」




