60. 〇「高原署にて…… ~2019.11.24 23:59」
「早速で済まんが調書を取るからよ、着いて来てくれや」
ヘリを降りた屋上にて、出迎えたこの佐能さんって人の案内で、かつシュテインさんと嶽さんに両脇をがっちり挟まれ歩き出す。
依然として続く要人警護級の厚遇、被害者にも話を聞く決まりはわかるけど、果たしてここまでしてもらうほどのことなのかな。
「処で腹ァ減ってねェかい、迷惑の詫びに出前でも取るからよ。おれ等と言やカツ丼だが低脂質、高蛋白の鶏丼の方がお薦めだぜ」
そしてエレベーターの下ってる間もいくつか会話する。改めて見てもすんごいガタイだなこの人、まるでオールマイトみたいだ。
加えてアッシュグレーの短髪に、鋭い眼の下を隠すマフラーという風貌は威圧感パなく、べらんめえ口調も相まって正直怖い――
「もう直ぐ地下の取調室だ。あとちょいと待ってくれや」
「えっ、地下、って。なぜ、どうしてそんな所で――?」
「特別に教えるがよ、此処は普通の組織じゃねェんでな」
「普通じゃないって。どっ、どういうことなんですか?」
「危険因子を秘密裏に処理する暗部ってやつだ。芝居の話じゃあねえぜ。この国にもちゃんと在るんだよ」
「ちょっ、ちょっと。暗部、ってそんな、一体全体――」
「皇居から鬼門の地となる此処、松戸を中心に関東数ヶ所に置かれた精鋭集団。それが通称【高原署】だ」
やだ、さっきからナニ不穏なことばかり言ってるの? やがて扉が開き長い廊下に出ると、歩きながら他のふたりも続いて言う。
「Genau。警察の分類は交通、刑事、公安と様々だが我らは最も異質な存在。テロ組織等と直接対峙し、撲滅にあたるのが仕事サ」
「……そしてそれは、あなたにも無関係なことではない」
次の瞬間。この人たち3人は一斉に立ち止まってこっちを見るととりわけ静かに、かつ力強く話し直す。
「特別な力を持つ存在、一般に言う超能力者。例えば彼らがもし徒党を組み世界に牙むけばどうなるかナ」
「……我々の立ち向かう敵にはそういった輩もいます。よって国防のためあなたのことも知る必要がある」
「応よ。此処じゃねえ何処かから人智を超えた力を持ち帰ェり顔形まで変えちまう――そんな得体の知れ無ェ遊具の事も含めてな」
そう聞いた瞬間脚が固まる。それは前方30mほどの突き当たりにある扉を認識しても、鉛のように微動だにできなくなるくらい。
本能が告げるのを感じる。全身に戦慄をもたらす旋律をこの心臓が狂ったように奏でてる。ここから先に、行ってはいけないと。
「Ist das ok? 顔色がずいぶん悪いよ」
「……先ほどから脅かせて申し訳ありません。しかし今は型通り話を聞くだけですので、どうかご安心を」
――ウグ!? まただ――視界が乱れ、さっきと同じだ!! 私を心配そうに見るこのふたりが“別の誰か”に、重なって見――っ
* * *
『“日ノ本四怪”に名を連ねしあなた方双鬼とて、我が力の前には路傍の石同然。ここまでです』
『調子に乗るなよ白豚め……! まだ終わらんぞ……!』
『あなたの方こそ“その血”でなぜこの国に与するのです。ヒトの子らと同じ、盟のためですか』
『Wie bitte……盟など関係ない。貴様の言う“それ”だ。この身に流るる蛇の血……大和の魂よ』
『……』
『我らは執念に生きる者。そのほくそ笑みを消すためならば如何なる時もそれに殉ずる覚悟よ』
『……』
『特に“月”とその懐に潜む“刀”には警戒することだ。永く陰にいたその闇は深いぞ……ククッ』
* * *
「くっ! 蛙田さん、気をしっかり!!」
「Scheiße! オイッまさかここで!?」
「おめぇ等落ち着け! ――応ッ三果サンよ、歩けっか」
脚が、腰が背中が腕がお腹が胸が肩が首が頭がすべてが、何もかもが鋼のようにすごく重い。
一歩一歩、床に沈みそうになりながらも扉へと向かう。決して入ってはならないはずなのに、いよいよ開け放たれてしまって――
「待たせたな兄貴様。連れて来ましたぜ」
そして、その中は言うなれば体育館の中央に机と椅子だけ置いたようなひたすら広い空間で、ひとりたたずむ男性の姿も見える。
「ああ建。ゲドにマルも、ご苦労だった」
右目を隠したサラサラの銀髪、190cm超の長身を包む素人目にも高そうな生地のブルーグレーのスーツ。
佐能さんがワイルド&ルーズならこちらはダンディ&セクシー。なんというか国際的で、シュテインさんと同系統のイケメンだ。
そのシルエット全体から漂う爽やかなメンズコロンに混じって、覚えのある香りが鼻をつく。これは――
「失礼、ちょうど一服中でしてね。このブラックデビル、喫煙者にさえも臭いと大不評で、こんな場所でもないと吸えないもので」
こっ、この人、この人はこの人は――!
「聴取を担当する読山月世と申します。どうぞよろしく」
次の瞬間私は爆発した。肉体のパーツひとつひとつが、細胞まで余さずすべてがことごとく。
例えるなら激しいエフェクトのもと雲散霧消、粒子となる感覚。ちょうど明かりを反射してくる腕時計のガラスのせいじゃない。
その眼が、私の注ぐ視線を光を何倍何乗にもはね返し刺し貫くような鋭い輝きが、この心に無言の慟哭をあげさせたからだった。
『互いに満身創痍という言葉がよく似合うものだな。しかし死化粧までもが美しいとは流石だ』
『馬鹿な……馬鹿な。この……私が……』
『そして聞きたかったのはそれだ。なんと美しき調べよ。先に倒れた臣下へのこの上なき褒美となろうぞ』
『私は負けない……決して。正しきを証明するためにも』
『正義か、ならばそれは至極単純なことだ。すなわち貴殿とわたし――最後に立っていた方よ』
『いいでしょう……永らく敵のいなかった我が力。今こそ真に滾らせ、振るわせて頂きますわ』
『だが宣言しよう。その光を返すは月だ』




