57. 〇「デストロイ・ロック・シティ ~2019.11.24 22:36」
『あたしの存在が栃木のイメージダウン? ヘッよくゆーわ! 魅力度ランキング万年ビリのド田舎の分際でさぁ!』
『ハッ、そっちも似たようなモンでしょ? それにアンタこそ京都生まれのくせにいつから栃木推しになったのよ?』
『なワケないんだな、それが! あんなトコ大っ嫌いですよっつゥ~わけでよ、そこの那須ナンバーよォさっさと止まれやコラァ!?』
『栃木の皆さんゴメンね~、このオンナ那須にいい思い出ないモンで。とにかく国家権力の言うことだし従ってね~』
『止まんねェなら息の根ごとやったるぞ! 国営ヤクザぁなめんなよ!? ボテくりコカしてしばき倒して赤猫這わしてエンコ詰めさしてエキノコックス伝染したろかいオラァッ!!』
『そう、桜代紋は殉職まで有効、でもなめられたら無効なの。たとえ根の国底の国黄泉の国までだって追っかけンよ』
『キャア懐かしっ! あたしなめ猫グッズ今も大事に大事に持ってますよ!!』
スピーカーから大音量で響く軽妙かつ物騒な掛け合い。バイクに乗ったさよちゃんたちが、半グレに捕まった私を助けに来てくれた!
「何だありゃあ!? せっせせ先輩っ、警察って言ってるみたいッスけど!?」
「バカ野郎どこの世界にノーヘル2ケツでRR1000カッ飛ばす婦警がいんだ! 振り切れ!」
ここでどうやら高速に入ったみたい。だけど異世界で得た【慧眼の光】が発動中なのか、透視するようにクッキリ外の様子が見える。
デロリアンだったらとうの昔に未来へ飛んでるスピードだけどさよちゃんも負けてない。引き離されるどころか距離を縮めてきてる。
「ネェちゃん、イイの乗ってんじゃんよ!? このまま栃木まで一緒に行って、皆で仲良くキメセクしようぜェ!?」
すると外を走るバイクたちが速度を落として、さよちゃんの前後左右を取り囲むように並走をし始める。
「ふふ」
「あ? 何が可笑しいんだよ」
「歩く公然わいせつ罪みたいなツラして何言ってンのかなって。普段よく職質されない??」
「――こけやがれクソが!!」
隣を走る男がさよちゃんの車体にキックする。あぶないっ! と思った瞬間、
「ハイ、公務執行妨害成立ね」
ギュオンッ、ドゴズシャッ! と、なんと走りながらバイクを急旋回! 手に持った標識と後輪のぶん回し見事蹴散らしてしまった!
振り乱れる長い黒髪、その様はまるで大蛇が尾をしならせ一閃のうちにすべてなぎ払ったような豪快さ!
哀れそいつらは遥か後方に吹っ飛ぶと、木曜洋画劇場顔負けの爆発とともにマッハの彼方へ消えてった。
わあキレイ! まるで夏の夜の花火のよう――って待って、さすがにやり過ぎじゃない!?
『これでわかったでしょ? 早く観念しないと“不運”と“踊”っちまうだけじゃすまない。アスファルト血に染めて死ぬことになるわよ』
『おっ世界のYAZAWAですか』
『この前サノさんからCD借りたンだけど、まあ悪くなかったわ』
『よ~しじゃあ帰ったらウイスキーコークで飲み直しますか!』
『いいやまず一杯、一服してから真夜中のショーをおっ始めンの。順番が違う』
『チッ結局KISSかこの白豚の手先め! ちなみにおたく様の敬愛するジーンシモンズは、酒も煙草もバカのやることだっつってますよ』
『それまさにアンタのことじゃん。ガンマGTPいくつだっけ。400? 500?』
『えと、こないだの健診じゃ600でしたね』
『ハァ、そりゃ殺生石から毒ガスも出るわ』
あのヒトたちいくつなんだろ本当。実に20代女性に不似合いな軽口の叩き合いとは裏腹に、
「ちくしょう、何なんだよあの女らは!!」
「もしかして私服警官じゃないスか!? もう潔くした方が!」
「バカ野郎今は令和だぞレイワ! このご時世にあんなあぶない刑事がいるか! とにかく逃げきれ!!」
と、車内は怒号にまみれ皆大混乱してる。
『ハイそこまでよ、念のため言っとくわ。“止まらないと撃つ”』
『真夜中の追跡劇のスピード感、鈍く輝く拳銃のシルバーメタルの重厚さ! これぞ我々の本懐ですよね夜っさん!』
『そうね~今の刑事ドラマはアレだわね、推理なンて探偵に任しときゃいいのにとは思うわ』
『日本のハードボイルドの夜明けは未だ来てないんですねェ。とりあえずほいっ、BANGBANGっとォ!』
『――ちょっと何してンの? ンな距離で外すかっつの普通?』
『わっ、わざとですよ! ホラ、まずは威嚇に留めないとね!』
『まあ昔っから流鏑馬もヘタクソだったしねェ。しゃあねえか』
『ふんだ! あたくしったらやんごとなき生まれですからァ? そんな野蛮なことは嗜みませんのよォ!』
総介と呼ばれたリーダー格が「クソッ、マジで撃ちやがった! 幅寄せしてつぶせ!」と運転席に怒鳴る。わわっ大変、これじゃ壁に
「ぎゃふ!!」「ぐごげ!!」
そんな心配も完全に杞憂、再びトンデモないことが起きた! なんと壁を吸いつくように走って体当たりを神回避!
さらにジャンプののちすれ違いざま得物でフロントガラスに強烈な一撃をお見舞いし、風車みたいな回転とともに車道へと舞い戻る!
つまり左右を一瞬で大移動かつ反撃までやってのけたのだ! 【慧眼の光】なしじゃ完全見逃してた、そんな滑らかで鮮やかな動き!
「ぐへぇ……」
「須藤! おい大丈夫か――ってやべ!? ハンドルがっ!?」
今の一振りのせいか運転者は動かなくなった。そして自由の利かなくなった車は猛スピードを保ちつつ分離帯を飛び越え反対車線へ!
空中で一回転して――ってエッ!? ――きゃあああああああああ〜〜っ!!
「ちょっと夜っさん何やってんの!? ミカちゃんいんですよあん中にゃ!?」
「やっ、やり過ぎちゃった。減給、いや停職かなコレ。アハハ」
「マジそれで済みゃあいいけどね!? 本当信じらんないわこのヒト!! あのコ今やある意味アメリカ大統領より」
「だっ、大丈夫よぉホラッ。あのスッゲェ強運に護られてンだろうし無事よあれくらい! それより様子見に行こ!」
「これだから執念深い巳年生まれで粗暴な茨城モンは。どーせ確信犯でしょ!」




