3. 〇「チートな仲間たち ~神速剣士アンジュ~」
『ギイイイッ!!』『キュウウッ!!』
採掘の安全確保の依頼を受け、洞窟に踏み入った私たちの前に早くも数体の魔物の群れが現れた。二足歩行のモグラ型で体長130cmほど、丸々とした体躯は一見ポケモンみたいで可愛らしい。
『ギュウウウ――』
けどそんな外見とは裏腹に両腕のツメはまるで屈強な軍人の持つ大型ナイフみたいな鋭さだ。ノコノコやって来たお前らを餌食としてやると言わんばかりに燭台の光を冷たく反射してみせる。
やば、こんなのに切られたら間違いなく、コーラを飲んだらゲップが出るってくらい確実に死んじゃう。考えただけでもゾッとする。
そういえばそうだよ、もしこの異世界で死んだらどうなるの。強制ログアウトとかで済めばまだ安心だけど、想像だけで手に汗握る。
あるいは二度とログインできなくなったり、現実世界の自分まで死ぬとか。妄想のみで鳥肌が立つ。
『キュウウッ!!』
刹那、そいつらは自慢の爪でプリンをほじくるみたいに地中に潜り瞬く間に姿をくらました。もしかして地中から襲う気?
『キシャアッ!!』『グウウウッ!!』
案の定それはものすごいスピードだった。地面がボコッと隆起したと思うと2匹の位置はすでにアンジュの目と鼻の先まで飛び出していて、それぞれの爪が勢いよく彼女の首に振りかぶられた。
こっ、これはやばい。アンジュの頭がスパンと切り落とされる! バッサリと、ちょん切れ
「フン」
るッ、なんてことはなかった。あれっ、何ともない??
「冬のナマズより遅いな」
彼女は不敵な笑みのまま微動だにしてない。でもモグラたちはその背後5mくらいに着地してるから、攻撃は確かに行われたはずだ。
なのに彼女がそれを回避する瞬間なんかとんと見えなかった。まるで“攻撃が当たる瞬間”を消し飛ばしたみたいな超スピードだった。
『キュキュッ!?』『ギギィィッ!!』
その速さに面食らったのは向こうも同じのようでだいぶ困惑してる。しかしすぐまた攻撃態勢に入り今度は4体すべてが潜水いや潜地すると、アンジュの前後左右の地面がモコモコ蠢き始める。
コイツら頭もいい、連携して多方向からやる気か。今度のはかわせるだろうか?
「ア」
しかしそんな心配は杞憂だった。すべては一瞬だったから。
左からのなぎ払いを上体反らし。回避ついでに鞘で喉元を突く。そして瞬時に持ちかえ右より来るツメをへし折りつつ脳天への一撃。
「ン」
お次は振り向きつつ抜刀、後方からのを吹き飛ばし岩壁に叩きつけ最後はバク転しつつ振り上げ。前方への回避と迎撃を同時に行う。
「ジュ」
今のやつが天井に頭から突き刺さり、最後にアンジュが“キン”と刃を鞘に収めたその瞬間。残った3体は八つ裂きどころかサイコロステーキみたいに細切れ、原形を留めない姿へ変わり果てた。
「さんッ!!」
って、え?
「アレ? えっ??」
そう、すべては私が名前を呼ぶよりも速く片づいていた。目では追えたけど、まるで感覚がついて行かなかった。何をしたのかはかろうじてわかったけど、私なんかの及ぶレベルじゃなかった。
「風魔法を極めたこの私の到達せし真髄。それは時間をも吹き飛ばす神速。ゆえにこの身への攻撃は無効、我が剣の回避も不可だ」
おまけに勝利宣言までも様になってる。私はというと仲間がこんなに強くて改めて安心した、なんてこともなく完璧に石と化してた。
そんな固く強ばった肩を背後からそっと叩いて、ルーシーが優しく言う。
「ごめん。動きを参考にとは言ったけど、これじゃ次元が違いすぎるよね」
「いえ、そんな。でも確かにすごいです。まるで踊っているようでしたね」
私は見たままの率直な感想を口にした。するとどうしてか彼の顔が曇る。
「えっ、どういうことだい」
んっ、私何かおかしいこと言ったかな。さっきまで朗らかだった表情が急に消えたのが不安で逆に聞き返すと、
「君――あれが見えたの?」
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