43. ☆「Awaken!! ~Repayment and Rebellion」
「さあ、早くあの女をブッた斬れ」
今回の連中の作戦、自作自演とはいえ確かにこれなら組合から仕事を受けずともエッグい稼ぎになるな。
とにかくよく考えたモンだ。そう、やつらの元鞘に収まれば命が助かるだけでなくメリットばっかりだ。
もう思考停止は許されない。マールムの声でいよいよ覚悟を決めて、喉から絞り出すようにして応える。
「やっぱ絶対、許せねえ――よな」
震える熱き拳に握られるは、静かなる意志をたたえる氷の剣だ。
その刀身を照らす燭台の赤とは対照的な、青く鋭い切っ先をマールムに向けて改めて言う。
「こんなこと、こんなこと絶対許せねえっつってンだよ――!!」
そう、現実の俺は明星三太20歳。小中高と落ちこぼれ、昔から家名に泥を塗り続けてきた出来損ないだ。
せめて少しでも一族に顔向けを、と創作の道に走るもそちらも振るわず、何をやらせても三流の三男坊。
もはや日々を無為に過ごしただ息をしてるだけ、兄たちはもちろんたぶん姪からも見限られてるだろう。
――でもそんな“弱者男性”人生まっしぐらの俺だって、何が悪で何が善かぐらいはわかってるつもりだ。
そうだ、悪とはこいつらみたいなクソ野郎の前に平伏すこと。正しさとはそれに決して屈しないことだ。
“楽して金儲けにヤリ放題、こんなに美味い話だというのにか?”
興味ないね。道から外れてまで欲望を叶えたいなんて思わない。
“無謀だ、やられたら現実世界の俺も死ぬかもしれないんだぞ?”
知らないね。それでもこいつらだけには絶対に尻尾は振らない。
“仮想世界での付き合い、それだけの女のために命を張るのか?”
関係ないね。短い間だったが世話になったんだ、借りは返すさ。
思えばこんな自分を認めてくれた彼女たちは、俺にとって大切な友達とも呼べるべき存在だったはずだ。
さらには身を挺して助けてくれたミカエルまで我が身可愛さに見捨てるのか。そんなの違う、違うよな。
『ああいうのはね、のさばらせちゃ駄目なんですよ三太。そうでないと決して“そこで終わらない”んです』
『父さんだって争うのは好きじゃない。でも結局こんな理不尽は、君が自分で強くならねばなくならない』
『“逃走”ではなく“闘争”。“英雄にはなれずとも近づく勇気”。男ならばいつかは求められることなんです』
子供の頃に憧れた親父の勇姿を、言葉を思い出せ。そして、大人になった今の俺はといえばどうなんだ。
あんな風になれてないなら間違ってる、格好悪いってことだろ。最初からシンプルな話だったんだよな。
仲間がやられたなら仇を取るし同じ目に遭わせる、それが皆への一番の報恩でやつらへの最大の報復だ。
「『道を、運命を切り拓くは背を見せる“逃走”ではない。思考を止めず立ち向かう“闘争”の選択である』」
「『丸裸、そこから変われぬことこそが唾棄すべき悪』。そうでしたよね、リリー・トゥーさん――!!」
不意にこの身体からも聞き慣れない名前が口をついた。――いや、そんな気がしただけかもしれないが。
とにかくあいつらも、そしてミカエルを傷つけちまった弱い俺も皆ブッつぶそう。さあ今こそその時だ。
「マールム、リリス、ベリィッ!! 絶対に許さねえええッ!!」
そしてまずはお前からだベリィ! これ以上その汚い手で仲間に触れさせてなるもんかよ!
ああ感じるぞ、全身に力が湧いてくる。目にも止まらぬ俊速で間合いを一気に詰めてゆく!
このすさまじい高揚感、今俺の中で何かが変わろうとしている! そしてまさにその瞬間!
『“正解”だ。それが君の本質にして、ここで下すべき決断だった』
強い光が突然視界を包む。しかしまぶしくはなかった。そうして一面純白の世界をそのまま駆け抜ける。
するとやがて地平の果てに黒い“円”が見えてきて、約10mほどまで近づく頃には何なのかよくわかった。
“牢獄”だ。そこだけ色の違うドーム状の空間に“男”が浮かんでおり、周囲を縛る“鎖”と“錠前”も見える。
『魔法とは心の力。その真なる開花に必要なのは才能でもなければ鍛錬でもない。自らの“精神の成長”だ』
『“反骨”と“報恩”。君は今この時確かに、自分自身の嘘偽りなき信念のもと行動する、強い意志を持った』
またこの声か。そうか、今わかったよ。“この中”にいるのは――
『今はその“憤怒”を望むまま振るうがいいだろう。無力なる者は虐げられる他ない、それがこの世の摂理』
『しかし忘れるな。過ぎたる怒りは“光明”を最も遠ざける感情だ。それはいつの世も変わることなき真理』
『ひいては要因を内ではなく外に向ける弱さ、すなわち“傲慢さ”とならないことを今はただ、願うのみだ』
蒼く輝く刃を振り下ろす。そこへ向け思いきり。そしてその錠は音もないままに、かつ粉々に砕け散り、
『“刻は来たれり”。さあ目覚めろ』




