27. 〇「再びの異変、新たなる謎」
もう元に戻れない、その一言でまるで両腕両脚の全部で献血したように一気に青ざめる。
ガラステーブルに映るこの顔を見ればよくわかる。そんな――じゃあ私一生このまま!?
けどたまちゃんは「そんな悲観的になること? 後ろ向きね」とバッサリ切ってみせる。
「ミカちゃん、女の生きる目的とは何か? 考えたことある?」
「えっ。いっ、いえ――」
「“自分と産んだ子供を男に何の不自由もなく養わせるため”よ」
「え?」
「行為で快楽を得、子孫を残したいのは男も女も同じだけどさ」
「……」
「で、特に男はどう転んでも色欲に狂うようにできてる。大悪魔ルシファーだかサタンだかが原初の人間を唆した時、そう決まったの」
は? 何なに、宗教の話? このヒト今度は一体どうしたの?
「昨今はクッソうるせェ連中がすぐ騒ぐんで大声じゃ言えないけどさ。究極、女は“性”と引き換えにそんな男から対価を得る生物なの」
「はあ」
「男にとっちゃ眺めてよし触れてよし揉んでよし、舐めてよし吸ってよし挿れてよしの芸術品にして必需品なワケだから当然だけどね」
そしてボトルのお酒を口に含んだのち「元風俗嬢の唯菜ちゃん見てればわかるでしょ」とあんまりなことまで言う始末。
まあ実際それで食べさせてもらってたし文句は言えないけど。
「普通のOLだってそうよ。所詮は今時とんと希少種となり果てた甲斐性ある男を巡って、見初められるため無理して社会に出てるだけ」
「ひい」
「考えりゃわかんじゃん。昔から旦那の狩りに行く間に家事やママ友付き合いしなきゃやらで、血脈レベルで家にいる方が向いてるの」
「ふう」
「それでもイイ男を捕まえなきゃ仕方ない。イイ学校、イイ会社に入って日夜コンパだの“まいっちんぐサイト”に入り浸るってわけよ」
「へえ」
「自分磨きこそ女のすべて。綺麗な髪プルプルの唇サワサワうなじムチムチおっぱいやツルツル腋とスベスベ太ももに弾力あるお尻!」
「ほお」
「それを武器に男を思うがままに、それこそが女の生き方!!」
なんか頭いたい。相談したはずなのになんで説教されてるの。
「じゃあその理屈で言や、逆に借金してまで男に貢いでたアンタは所詮半人前ってワケね」
「しょうがないでしょ夜っさん!! 総介は特別、今度ばかりはマジだったのォォん!!」
「知らねェよ、そンなの」
「一緒にトップ目指すって約束したのに、なのにあたしを裏切ってドロンだなんてぇ!!」
「いいから早く弁償しろ」
「とにかくたとえ他のボンクラどもから搾り取ってでも、ただひとりの運命のヒトに尽くす!! これもまた女の生き方歩む道ィ!!」
たまちゃんの力説のち大号泣のち熱弁。それを横に「結局何が言いたいの」とさよちゃんが至極どうでもよさ気に言う。
するとたまちゃん、立ち上がると私の全身至るところを指し、
「そのための武器、誰もが羨むマンモスうれピーOhモーレツグラマーボディをロハ(全部死語)で手にできた、それの何が不満なの!!」
と心底恨めしげに叫ぶ。
「この際ハッキリ言うけど前までの見てくれじゃ女として欠陥品もいいとこ! 男が欲しがらないんなら存在する価値もまたなし!!」
「そっ、そんなぁっ――」
「それが何よこの全取っ替えは!? バストなんてその身体でどんだけあるの!? まるでダッダーンボヨヨンボヨヨンじゃない!!」
「じ、Gです――たぶん」
「ウエストいくつよ!?」
「おそらく40cmは細くなったと思います……」
「VIOラインは!?!?」
「施術もなしで闇黒から聖白です! 何か文句ありますか!!」
「ならそれでチョベリグでしょ!? 何の努力もなしに結果だけ!! やりたい放題できる可能性がまさにそこにあんだもんよォ!!」
「でっ、ですが――!!」
「チートだっけ!? ナウなヤングにゃそ~ゆ~のがバカウケしてんでしょ!? つか要らねェならボインだけでもよこせコラァ!!」
ひいいいっっ!? そうしてあらぬ方向へヒートアップしたたまちゃんが、この胸をもぎ取るような勢いで襲い来る!!
「うわらばわべしっ!!」
でもすかさずその顎下にさよちゃんのハイキックが直撃! 蹴り上げられた妖怪おっぱい千切りは窓の外へ消えてゆく。
本当に本当に見事、いや美事で刹那と言う他ないその動きはまさに、特殊技法を駆使したアクション映画のようだった。
――ってエッ!? ちょっ、待っ、この部屋確か8階じゃあ!?
「無問題無問題。ホラ、しぶとくそこにいるし」
えっ。すると背後から、
「力を重荷に思うより前向きに楽しく生きなきゃ損よ。あたしのこの【転移能力】みたく」
聞こえるわけのない声に振り返ればいるはずのない人がいた。えっ待って、今落ちてったじゃん。意味がわかんないよ。
ってあれ、そういえば私今“見えた”の。獣のようなたまちゃんの瞬発力と達人ばりのさよちゃんの蹴り、その“速さ”を。
あの時と一緒だ。でも情報量が多すぎて頭が、痛い。まったくもってきれいにさっぱり皆目全然わけがわから――ない。
「ありゃっ、失神しちゃったかァ。しもしも~、大丈夫〜??」
「寝せときな。理解を超えることが起きすぎて疲れたンでしょ」
「ふむむう、どうします夜っさん。この子のことこれから――」
「それより、私もそのゲームにさ。少し興味湧いてきたのよね」
「オッなら一緒にやります? フフ、これ実は“押収品”でねぇ」
「ハアやっぱりね。ヨミさんか天岩課長にちゃんと報告したの」
「いやそれはまだ。やってると懐かしくて、つい時間も忘れて」
「VR技術の進歩により超々リアルな異世界体験ができるゲーム。その正体は、ってことか」
「さっすが夜っさんご明察! そう、得た“能力”を現実に持ってこれる、んな危険なモンが一般配信されてるワケがない」
「だからこそ重要なのは、この子がどこでこれを手に入れたか」
「ええ。あのクソアマと、まったくもって同じ顔のこの子がね」




