25. 〇「邂逅! 同じゲームのプレイヤー」
「テメェ!? 生きてやがっ――!!」
ひいっ!? ななな何なにナニ!? あの優しい小夜子さんがこんな顔でこんな勢いでこんなこと言うなんてっ!?
予想外の反応に脳がついてかない、壊れかけのラジオがついにイカれて完全にフリーズ、他のコードが出てこない。
まさにヘビを前にしたカエルという絵面がこれ以上なくふさわしい状況。ちょうど私の苗字蛙田だし。ゲコゲコッ。
「――チッ」
だけど、そんな見つめ合いの少しあとで小夜子さんは、
「――1,984年の映画『ボレロ/愛欲の日々』の主演女優、ボー・デレクの本名は?」
「メッメ、メアリー・キャスリーン・コリンズです!!」
「パロディ音楽家にして、コミックソング歌手アル・ヤンコビックの生年月日は?」
「せっせ、1959年10月23日です!!」
「ゴメン、驚かせて。私まだ酔ってるみたい。許してね」
と、ウチのダメ親父ばりのトリビアで私が本物と確かめると、いつもの穏やかな口調でこの頭を優しく撫でてきた。
「松戸からここまで遠かったよね。わざわざありがとう。――にしても電話で聞いた以上の変わりようね。驚いたよ」
「いっ、いえ。むしろ、それは時間とってもらったこちらこそ。そう、これには私もただただ戸惑うばっかりで――」
「とにかく上がンなよ。ユイナお姉ちゃんもいるからさ」
入って、どうぞと笑顔で薦めてくる小夜子さん。けどどうしてもさっきの反応が気になるので恐る恐る尋ねてみる。
「あの、五刀さん? 少しいいですか」
「さよちゃん、でいいよ。どうしたの」
「えと、さよちゃんさん。もしかして私の今の“顔”――他の誰かに似てたんですか」
「ああ、悪かったね本当。昔仲の悪かったやつに見えただけよ。何でもないからね」
うーん、何かはぐらかされてる? その程度であんな――そう、獲物を喰い殺すヘビみたいな眼ができるんだろか。
――まあ今はそれより、ここに来た目的の方が優先だ。
「ああ~来たんだぁ……。いよ~〜っす三果ァ~〜……」
テーブルに突っ伏して、髪色と同じチェリーレッドのお酒を麻薬中毒患者のように口から垂らす女がそこにひとり。
蛙田唯菜27歳。我が家の稼ぎ頭にして、一番上の姉だ。
「すう……すう。上こォ……もう一杯」
そして、こっちの女性は初めて会う人だな。だけど今の私に負けず劣らずのアニメキャラみたいにド派手な外見だ。
真っ白けっけスノーホワイトのミディアムボブ。室内なのにフッカフカのファーコートを着たまま寝息を立ててる。
「女狐よ、アンタのゲームの話聞きにわざわざ来てンのこの子は! 早く起きろ!」
「げ~むぅ?? そうMYTHじゃねェ……忘……頃を……れるのォ~♪ ウヘヘヘ」
MYTH! やっぱりこの人が――!!
「チッ。ならとくと見てやがれよ。ミカちゃん、そこのスピリタス取ってくれる?」
えっ。あっハイと言われた通りにボトルを手渡す。一体何をどうする気なんだろ。
「『たなァつものォ、百ォの木草も焼きィ尽くすゥ、蛇ィ神様の祟ァり下ればァ』」
ちょっまさかそれ! と嫌な予感するよりも速かった。
彼女は何か変な唄を歌うと案の定、口に含んだお酒をシュボッ! と点火したライターに勢いよく吐き出したのだ!
「ぐげぇぇぎぃぃにゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
天井まで届く火柱、これが煉獄か。生きとし生けるものすべてを灼き尽くすような大々絶叫がその場にこだまする。
現にその勢いで窓ガラスも全部が割れて、私とお姉ちゃんの身体は床と壁に天井をピンボールみたく何往復もした。
「ぎいぃやゃあああああああああ!!」
白から橙に染まった髪を振り乱し悶える。ちょっこんなの、昔のパンクロックじゃないんだから。けれども彼女は、
「てっ! “転移”っ!! 転移てんいテンイィィィ!!」
と何やら叫ぶと、火のついたロウソクみたいな頭をなんと自ら両手で抱え込んだ。
「ゼハーッ!! ゼハーッ……ッ!!」
するとどういうわけか煌々と燃え盛ってたはずの豪炎が影も形もなくなった。こっ、これは? 一体何をしたの??
「ちょっと夜っさんなんてことすんの!? ジーンシモンズかよアンタはよっ!!」
「目ェ覚めた? 地獄のロックファイアーに焼かれるハードラックウーマンさんよ」
「もォ、ドリフかよこの髪! まじチョベリバ(死語)!」
ぽか~ん……。本当マジ何だってのよ今日は。情報量が多すぎてついていけない。
やがてそのフワフワもふもふした女性が、凄惨な目に遭ったはずだっていうのに平然と笑顔で私に声をかけてくる。
「おはこんばんちは(死語)! あなたが唯菜ちゃんの妹? あたしは玉前化藻女ってのよ! どうぞよろピくねっ!」




