18. ☆「God's arts」
それはあまりに突然の通告だった。拘束の痛みで未だ床に伏せる俺にエブリンが目の色を変えて語る。
アンジュの腕を凍らせたのが俺の仕業で、しかもそれが300万人にひとりの――伝説の才能だって??
「とりあえず待って。――ねえ君、大丈夫? あんなことはもうしないでね。ビックリしちゃうからさ」
だがそれをパフィが制し、俺を支え起こすとこの両肩に手を置き優しく言う。
「とにかく座ってよ。お茶もまだ一杯あるからさ」
「……」
「ちょっと、そこは突っ込んでよ。『いっぱいなのに一杯だけかよ!』とかさ」
「すっ、すみません」
「ふふふ!」
「あっ、あはは――」
「そう、笑顔笑顔! もう大丈夫だよ。ここに君を苦しめるやつはいないから」
――何だろう、思わず目が熱くなる。俺、彼女たちとはここまで感動的な出会いをしたんだったかな。
「では、皆様よくお聞き下さい。これよりこのわたくしの魔学講義を始めます」
その後はしばしの間のティータイムがてら、エブリンの声に一同耳を傾ける。
「そもそも魔法とは体内の気を操作、放出し自然界に作用させ、火炎や電気などを起こす術のことです」
「ああ、並の精神力と頭脳で体得できる代物じゃない。私たちは余裕だったが」
「属性の多様さ同様に個々人にも“適性”があるゆえに、合わぬものは逆立ちをしても覚えられませんわ」
「うん、そんな私たちでも完璧に習得できたのはひとつずつが限度だったしね」
「むしろ剣を手に武芸を極める道の方がはるかに簡単なのですわ。どんなに高度な魔法を学んでも肝心の肉体が耐えられず、命を落とす者もいるほどゆえに」
「……( `ー´)つ8:2」
「その通りですわ。このようにあまりの習得の難しさから、素養ある者の比率は2割とされていますの」
はぁ。余裕だの完璧だの8:2だの、やっぱ俺なんか遠く及ばぬ天才の言葉は違うな。まぶしすぎるよ。
「しかしたとえ選ばれし“2”でも前述のように、各属性で完全に自らに適合するは、ひとりひとつのみ」
「私ならば“風”だな」
「そう、風の使い手はアンジュのように一見常識的だけれども、やや間の抜けている方に多いですわね」
ふん、という当人のジト目を尻目に講義は続く。
「雷であればパフィのように、周囲のことに目ざとく面倒見よくとも自分は大雑把、という傾向かしら」
「まあ概ねその通り? なのかな」
「次に土、転じて鋼属性は浮世離れしているものの、実直に粛々と務めをこなす方ね。ステラのように」
「……(-ω- )」
「そして、火であればこのわたくしのように何事も積極的情熱的にして頭の回転も速く強い統率力で人をまとめ目標へ一直線! 成功者に多い性格の持ち主で清廉潔白かつ品行方正、公明正大が特徴とされ」
「おいっ、彼の“氷”の話はまだか」
コホン、では改めて本題をと力説が再開される。
「氷が300万にひとりの才能、習得最難関と呼ばれる所以はなぜか。それは水魔法からの派生であるのにまるで異なる、相反する2つの資質を要すからです」
相反する2つの? 心中の疑問をよそに彼女はまさに自分の得意属性のごとくヒートアップ、誰の口も挟まる余地なく続ける。
「“水”はその名の通り、流れる河のように穏やかで懐深く女性的な方に多い傾向であるもの。ですが“氷”はまるでそれとは反対」
「敵対者には徹底して応報、時に冷血と呼べるほど凍てついた心の持ち主。それでいてお優しいだなんて矛盾しているでしょう」
「さらに、氷が一線を画すのは“神の御技”ゆえです。遥かな昔に我らが祖先とヘビ、魔族どもの覇権を賭けた闘いがありました」
「そして、その終止符を打った力こそが時間をも凍らせし“絶対零度の大魔術”と伝わっているのですわ」
何だそりゃ、んな大仰な。だけど古代の生物の覇者だった恐竜を滅ぼした大氷河期、その後進化し台頭してった人類と、地球の歴史にそっくりではあるな。
「水と氷、明と暗、盾と剣。相反する人格をその身に宿す、それはまさしく神のごとき資質。ゆえに氷魔法は超稀少なのですわ」
そして、フフッと笑って締める。
「様々な性質を持つということは、すなわち全属性をも自由に操れる! それがアナタに眠る天賦の才にして、無限の可能性!」




