10. ☆「Justice? ……No,wrong!」
「はあ、せっかく金町まで来たのに――今日は時間を無駄にしただけだったな」
いつもの店の馴染みの【カエラさん】がもう辞めていた、という残酷過ぎる知らせに胸を深く抉られる。
くそっ、そもそもなんで事前確認しなかったんだ俺は! 今日はいろいろあったから忘れてたってのか!?
「うぐっ……ギギギ……!?」
帰り道の途中不意に胃腸がざわめく。ゆうべは寝つくためとはいえやっぱ飲みすぎたな、泣きっ面に蜂だ。
しかも、何とか駅前トイレに着くも世の中とは不思議なもので、こんな時に限ってなぜか必ず先客がいる。
プラス、扉の前でもうかれこれ5分は待ってるが一向に出てこないときた。クソッ早く出ろよ、糞だけに!
「はぁ、はぁ」
そんな時、背後に立つ誰かの気配を感じる。それもまさに半死半生、息も絶え絶えって表現ピッタリのを。
「ひぃ、ひぃ」
この感じ、こいつも下痢腹抱えてここまでたどり着いたクチ、ってとこかな。
袖振り合うも他生の縁、過酷な運命に共闘する名も知らない同志の顔を、どれ一目見ておくかと振り向く。
「ふぅ、ふぅ」
その瞬間開いた口がふさがらなくなった。これはゴスロリ服――ってのか!?
そう、金色の姫カットに、それはそれは目を引くハデなドレスをハデッハデに決めた女がそこにいたのだ。
「へぇ、へぇ。ほぉ……ほぉ」
カラコンでもしてるのか、パッチリ綺麗な碧眼も特徴的だ。この格好、イベント帰りのレイヤーとかかな。
いや、待て。それよりも、マスクはしてるがこの顔確か、確かにどこかで――
「あの、何か――?」
やべ、ガン見し過ぎたな。でもここでようやっとドアが開く。チッ、ずいぶんと待たせてくれやがってよ。
こんな野郎、誰も見てなかったら魔法で――ってのは勘弁してやるか、まあ。
そう、俺もMYTHやるのに個室を何時間も占拠したりって結構あるし――な。
「ハァ、ハァ。ウッ……ッ!」
とにかく入ろうとしたその時、背後からの悲痛なうめきがこの耳をつんざく。
「ヒィ、ヒィ。痛っ……ぃ!」
悪く思うな……俺だってずっと我慢してたんだ。
それに今時下手に他人に、しかも若い女にむやみに声かけなんかして、逆に妙な因縁でもつけられちゃ……
……。
* * *
『まりちゃん……大丈夫ですか。昨日からお腹の具合悪いんですから無理せずに、もうお家に帰りましょう』
『ふん……今さら無理だってば。クラスの子にこの可愛い浴衣、見せるって約束しちゃったんだから……!』
『ですが……』
『ああもう、うるさいな!! “三男坊”のあんたは、ただ黙ってわたしの言うこと聞いてればいいのよ!!』
* * *
『おいお前ら……! この子が苦しんでるのがそんなに面白いか!? あ!?』
『やめてよ三太……!! 明日から学校行けないじゃない……このバカぁ!!』
* * *
……。
「フゥ、フゥ」
「――あのっ」
「――えっ?」
「お先どうぞ」
……何をしてんだ、俺は……
「いえ、結構ですからっ……」
「でも、だいぶつらそうだし」
「きっ、気にしないで下さい」
「いいから。入って、どうぞ」
何言ってんだ俺は。やめろ、赤の他人だろうが。
「だっ、大丈夫だって言……」
「僕はいいので! さあ先に」
見てるとこっちもつらいんだと言い結局俺は順番を譲った。――いや違う、我慢は体に毒だと言ったんだ。
「なっ、なんであなたがつらいんですか。それに、見られても困るんですけど」
「……」
「でも、お気遣いありがとうございます。フフッ」
「……」
「じゃ、お言葉に甘」
『ちょっと邪魔! 入んないならそこどいて!?』
その時不意に何とも甲高い声が響いた。いつの間にやらゴスロリの後ろに他にも人が並んでたようだった。
「時間ないのよ! こっちは子供がいんだから!」
その女はファビョりながらゴスロリを突き飛ばし、ベビーカーを荒々しく引きつつ入って行ってしまった。
クソッ何だあのクソは! 突然で面食らっちまったがふざけやがって、テメエのためじゃねーぞクソがっ!
とにかく女だろうがあんなふざけた野郎には思い知らさなければ気がすまない。出てきたら魔法で懲らしめ
「……ううう」
いや、それよりもゴスロリ女は大丈夫だろうか。けっこうド派手に押されてたしな、と彼女の方を見やる。
「うう、ヒック……」
地面に手を突き震える、小さな背中が余計に縮こまんでる。そんなに痛かったか。いっ、いやまさか漏――
「うあ、ああっ……」
違う。転んだ拍子に見えた下着の赤は――元々そういう色ってわけじゃない。
「何だあれ、ハハハ」
「やだぁっ、生理?」
通りがかったカップルがその様子をせせら笑う。そのせいかゴスロリの泣き声もより一層大きく渇いてく。
「汚ったね、アハハ」
その時俺の中の何かが切れ、気づけば叫んでた。それはもう腹の底から大声で、人差し指まで突きつけて。
「何が可笑しい!!」




