運命共同体
高校2年生のサクラは同じクラスのハルと仲が良かった。特に仲良くなったのが、6月の中頃。サクラの祖父が亡くなり、心が弱っていたときに、ハルが支えてくれた。その時からハルはサクラにとって、かけがえのない存在になった。
二人は何をするにも一緒だった。おそろいの髪型にしたり、学校の授業選択も同じにしていた。長い間近くにいると性格がお互いに似てきたようで、まるで双子みたいだね、と言われたこともあった。
「大好きだよ、ハル」
「私もだよ、サクラ」
「私達は運命共同体だよ!」
「ずっと一緒にいようね!」
「「指切りげんまん、約束だよ!」」
そんな会話をよくしていた。
そんな中、ハルが入院をした。1月のことであった。夕食の後、急に倒れたらしい。命の危険はないが、ひどく衰弱しているらしかった。
サクラは急いで病院へ行った。ベッドに横たわっているハルは、いつもよりずっと弱々しく見えた。ハルはサクラを見ると困ったように笑った。
「サクラ、心配させてごめんね。でも大丈夫!すぐ良くなるよ!」
ハルはそう言って親指をグッと立ててみせた。
しかし、サクラは心配でたまらなかった。
ハルの体調はなかなか良くならなかった。
サクラはよく食事を作ってきたが、ハルは吐き出してしまうことが多かった。
それでも、一生懸命ハルは食べ物を食べようとした。しかし、食べる度に容態は悪化していくようにも見えた。
「大丈夫!もうすぐ治るよ!」
ハルはそう言って笑うが、サクラの不安は消えなかった。
ある日、サクラがいつものようにお見舞いに行くと、思い詰めた様子のハルがいた。
「ハル、大丈夫?何かあったの?」
「……」
「困り事があるなら、何でも話してよ!
私達、親友でしょ?」
「……」
ハルはためらっていた。だが、サクラの今にも泣き出しそうな顔を見ると、少しずつ話し始めた。
「入院費がもうないんだ……」
その言葉からハルの話は始まった。ハルの家には元々、長期間入院できるようなお金はなかった。親が必死の思いでお金を集めたが、大した金額にならず、ここまで入院出来たのは奇跡のようなものだったらしい。
「そしたら私がハルの入院費を集める!」
気がつくとサクラは叫んでいた。隣にいる患者が迷惑そうにサクラを見たが、サクラはかまわず続けた。
「私達は親友でしょ! どうしてもっと早く言ってくれなかったの……。言ったでしょ、私達は運命共同体だって! ハルの苦しみは私の苦しみなの!」
はっとして言葉を止めた。興奮してきつい口調になってしまった。
ハルの顔を見ると、ハルは泣きながら「ありがとう、ありがとう」と繰り返していた。
サクラは使命感がより強くなっていくのを感じた。
とは言っても、サクラに出来ることは限られていた。親の金に手をつける訳にもいかない。
サクラは自分のものを必要最低限残して、後は売ることにした。
また、僅かな望みにかけて、道端で募金を求めることにした。
お金はなかなか集まらなかった。だがサクラは諦めなかった。ひたすら声かけをし、暑い日も寒い日も必死にお金を集めた。
しかし、それでも入院費を十分に集められなかった。お金が完全に尽きるのも時間の問題だった。
「誰か、誰でもいい! 少しでいいからハルのためにお金を下さい。本当にハルは苦しんでいるんです! お願いします! どうか……」
お見舞いから帰ろうと、病院を出た時、上から何かが落っこちてきた。それはハルの病室に置いてあった植木鉢だった。植木鉢は窓際に置かれていた。風で落ちただけだろう、そう考えることもできた。しかし、もしかしたらハルの身に何か起こる前触れではないのか。サクラは強い焦りを覚えた。
11月の終わり、サクラが救急搬送された。体を酷使したのと、強いストレスが原因だった。ハルのために自分のものを売った後の、帰り道での出来事であった。
サクラが運ばれたのはハルの隣のベッドであった。
二人は顔を見合わせると、何も言わずに手を繋いだ。
二人の体調は比例するように悪化していった。
互いの運命を悟った時、
二人は微笑み、静かに涙を流した。
窓から心地よい風が吹く。
窓際のベッドには二人の少女が安らかに眠っていた。
後日分かったことであるが、サクラはずっと前からガンを患っていた。余命は春を迎えられれば良い方だったという。
『私達は運命共同体』
この言葉はどこまで真剣な言葉だったのだろう。
段々と衰弱し、自分の死を覚悟したハルの病室から、植木鉢がサクラの上に落ちてきたのは果たして偶然だったのだろうか?
サクラが作った食事を食べたハルの容態が悪化したように見えたのは、ただの気のせいだったのだろうか?
今となっては誰も分からない。
ただ、二人が息をひきとったのは、
桜が舞い散る春の日のことであった。