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きみとぼくの逆転性理論  作者: 咲稚涼
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〔side 美華(みか)


すぅー・・・・と深く息を吸い込むと微かに雨のにおいがした。そういえば昨晩は雨が降ったんだったっけ。柔らかい陽を浴びながらぼんやりとそんなことを考えていた。

楽しそうに(さえず)る小鳥たちの声とオレンジ色の朝日。 そして静かで澄み渡った空気。昼間に比べて少しひんやりとするが、それもまた気持ちいい。

朝は好きだ。

深く呼吸を繰り返すほど、冷たい朝の空気が体中に満たされ、思考が澄んでいくのを感じる。こういう日はいつもより気合が入る。


「うん、今日もいい天気だ。さて、はじめようか。」


ザッと軽快に足を踏み出した。 毎朝のジョギングは私の日課だ。申し遅れた、私は城ノ内美華だ。響星(きょうせい)学園に通う高校二年生。もともと武道を幼いころからやっていたこともあり、その時からの習慣ともいえるだろう。今も続ける理由は特にないのだが、ジョギングをしないと、なんだか気合が入らないのだ。あの子が何かあった時に守れないと困る。さぁ、今日も一日頑張ろうじゃない か。




〔side 尋杜(ひろと)


だんだんと日も短くなってきた11月の朝。 吹き付ける冷たい風にぶるっと体を震わせた。


「うぅ寒いよぉ・・・・」


僕は響星学園に通う二年生、瀬戸尋杜(せとひろと)。学校は服装自由だから好きな服を着てきているんだけど・・・・本 当に寒い!もうそろそろマフラーを出さなくちゃ。 ぼんやりとそんなことを思いながら歩いていると、 前から歩いてきた人にぶつかってしまった。


「ごっごめんなさい! あ、あの、大丈夫ですか・・・・?」


相手の男は少しよろけただけだとは思うが、心配になって聞いてみる。


「あーはい、平気っすよ。君こそだいじょう・・・・っ て君、可愛いね? 名前なんていうの?」


ふっと顔を上げたとほぼ同時にぐっと顔を近づけられた。あまりに突然なことに動揺する。


「え、えっと、僕はその・・・・」

「ねぇいいじゃん。オレ君と仲良くしたいなー。LINE交換しない?」


初対面の人と連絡先を交換するのも嫌だし、強引な感じが怖いし、金髪で不良のような見た目も怖いし、どうすることもできずにいると、ぐっと後ろから手をひかれた。


「嫌がっている のだからやめてあげてくれませんか?」


驚きと困惑に声の主に顔を向けるとそこにいたの は・・・・


「な、なんで・・・・?」


腕をひいていたのは幼馴染みの美華だったのだ。この状況を尋杜は未だ上手く呑み込めていないのだが、助けてくれたことはわかった。


「なに、君のツレなの? オレそこの可愛い子と仲良くなりたいんだけどさ。邪魔すんな。」


ぎろりときつく睨みつけてくる男の人があまりに怖くて尋杜は震えあがってしまう。もとも と気の強い方ではない故にこういった人と話すこともないから尚更だ。


「私の大切な幼馴染みはそんなこと望んでない。これ以上近づこうものなら容赦はしないが・・・・それでもいいか?」


美華は相手の男に怯むことなくむしろ凛として反抗した。これには男も少し恐れをなしたようで、


「次 はお前がいないときに誘うから」


とだけ言って解放してくれた。


「あ、あの、美華ちゃん、ありがとう・・・・!」


おずおずと告げれば、柔らかな笑顔と共に頭を撫でられた。


「別にいいよ。私が尋杜を助けたかっただけだから。ほら、学校行こう?」


そんなかっこいいセリフを言う美華に、心臓がうるさく主張してきたがそっと気づかないふりをした。 一方そのころ、その二人を遠目に見ていた先程尋杜をナンパした男は、


「可愛い子なのにひろとって呼ばれてる? ひろとちゃん? というよりさっきのイケメンは美華ちゃんって・・・・女の子か!?」


と頭を悩ませているのだが・・・・これはまたいつかの機会に語ることとしよう。

そんなこんなで二人で学校への道を歩いているのだが・・・・


「さ、寒いね・・・・」


あまりの寒さに体を震わせた。先程は恐怖で忘れかけていたのだが、今更になって寒さが主張してきた。


「尋杜はマフラーしてこなかったの? もうだいぶ寒いのに。」

「うん・・・・さすがに明日はつけてくるよ。こんなに寒いんじゃ風邪ひいちゃいそうだし・・・・」


自分の準備のなさに少し落胆しているとふわっと首元に温かいものを巻かれた。


「私のマフラーを貸してあげるよ。寒いのは慣れているし、尋杜に風邪をひいてほしくないからね。」


にこりと笑いながらさらっとかっこいい事をしてしまう美華に思わずときめいてしまった。いつもこんな感じだから本当に美華はモテる。それも主に女子からだ。まぁこんなにかっこいい人がいたら惚れないわけもないだろう。

美華に借りたマフラーを巻きながら歩いてやっと学校についた。色んな意味であったまったおかげで風邪はひかなさそうだ。そして教室に入るなり早速とばかりにたくさんの人が美華のもとに集まってきた。


「美華おはよー。今日超さむくなぁい?」

「うんそうだね、風邪ひかないように気をつけなよ?」

「美華ちゃん、寒いなら私のお茶飲む? さっき買ってきたからあったかいよ~」

「ありがとう。じゃあ一口貰おうかな」


話しかけられること一つ一つに丁寧に返事をしているのもモテる理由だろう。優しくてかっこいい美華は、なんて素敵なんだ。


「あれ、美華さん今日はマフラーをしていないのかしら。」

「ん? いや違うよ。尋杜に貸していただけだよ。」


女の子がぶつけた質問にさらりとそう答えると、そこにいた女の子たち全員の目線が自分の方に向いたのを感じた。

その眼は一様に「美華のマフラーをしているなんて羨ましい」と言っているようだ。


「さすが美華さん、やさしいのね。わたくし、美華さんのそういうところ好きよ」


先程質問を投げかけた女の子がさらりと好きと言って見せた。これには周りも一瞬ざわついた。が、美華はそれに動じることもなくにこりと笑顔を返して答えた。


「ありがとう、私も好きだよ。私はよき友達に恵まれているな。」


その笑顔があまりにも幸せそうで、しかも本心から言っているということが伝わるからそれ以上何も言えなくなってしまう。こういう所も美華がモテる理由の一つなのだろう。


「美華ちゃん、マフラーありがとう。あったかかったよ」


そっとマフラーを返すと


「それはよかった、明日はつけておいで」


と微笑まれた。その柔らかな表情にまた心臓をドキドキさせて自分の席に着く。少し嫌な事はあったけど今日もいい一日になりそうだ、といつもより上機嫌で授業に取り組む尋杜だった。

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