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異世界インスタ  作者: 五寸
第5章 光の果て
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2話

「ハッ・・・ハァ・・・やっと着いた・・・」


 岩を削り出して作られた長い長い階段を上り、ようやく目的地である砂漠の入り口へとたどり着いたあーしたち。

 ちらりと視線を横に滑らせれば、カラカラと力無く回る滑車と、運行停止中との看板が立てられたゴンドラのゲートが目に入る。


「まぁ、風神サマが眠りゃこうもなるわな」

「砂漠の前で消耗するのは想定外だった。二人とも大丈夫?」

「あーしはなんとか・・・でもネクの方が」

「ゼェッ・・・ハァーッ・・・もう日も傾いてきたし、ここで泊っていかなぁい?」

「まだ余裕そうだな。よっしゃ行くぞ」

「何でそうなるのよぉ!!」


 そうは言いつつも素直についてくるネク。もしかして体力ついてきた?

 

 さっきの看板とゼルのセリフから分かる通り、風の谷は今すべての風力からくりが止まってしまっている。理由は当然、風神様が眠りについてしまったから。

 一応風自体は社の方からちょくちょく吹いてくるけど、それでもからくりを動かすには全然足りない。


 という事は当然ゴンドラも動いていない訳でして、やむを得ずあーしたちは長い階段を上る事になった。風の谷自体が谷間の集落という関係上、元の高さまで上るのは本当に骨が折れた。


 といっても、ここからが本番なんだけど。


「うっわぁ~・・・!!」


 感動と絶望が入り混じった、複雑な声がため息と共に漏れ出る。

 目の前に広がるのは、どこまでも続く荒涼な砂の大海原。地平線まで砂で覆いつくすその景色は、自然の雄大さを感じると共に、終わりの見えない絶望が具現化したようにも思える。


 ここを突破するのかぁ・・・。いや。


「怖気づいててもしゃーないし、早いとこ出発しよっか」

「その意気だアカネ。つってまぁどうせ砂漠で一泊するんだ、ちょっとでも進んどいた方が得だしな」

「アカネさん、忘れ物は無い?」

「大丈夫だよルビーちゃん。スクロールも水筒もちゃんとあるから」


 あーしはポーチから見えるようにアイテムを取り出すと、ルビーちゃんが力強く頷いて返してくる。

 ゼルの言った通り、あーしたちは今晩砂漠で一泊する予定だ。アルフィノエに到着した時点でそこそこ日が傾いてたから、恐らくは砂漠の途中で夜になるだろうと踏んで転移のスクロールにキャンプセットを仕込んである。


 まぁぶっちゃけ、砂漠での寝泊りにちょっと興味があるってのも大きいんだけど。


「よし、んじゃ今度こそ行くぞ」

「うん」

「了解」

「ハァ・・・分かったわぁ」


 心底憂鬱そうなネクの言葉を背中に一歩踏み出すと、雪とはまた違った感触と共に足が沈みこむ。おぉ、けっこうサラサラしてる。

 あーしは早速ドローンを道しるべ兼撮影用として呼び出し、俯瞰した景色から見える砂漠の果てに向けてのしのしと歩き出した。・・・思ってた以上に遠いかもこれ。






「もう限界よぉ~! アタシもう歩きたくないわぁ~!」


 あーしから三歩ほど離れた後ろから、駄々っ子のような間延びした声が届く。歩けないじゃない辺りまだいけそうな気がするんだけど。


「何だらしねえ事言ってやがんだクモ女。だらしねえのは体だけにしとけ」

「誰がだらしないボディですってェ!? アタシは美容だけは一日たりとも欠かした事ないわよォ!!」

「んだよ、全然体力あんじゃねえか」


 目にも止まらぬスピードで詰め寄ってきたネクに、ゼルが淡々とした様子で返す。いやまぁネクの気持ちも分からなくは無いんだけどね。


 風の谷から出発して幾許か。ひたすらに同じような景色の中を歩き続けるというのは想像以上にキツかった。砂の山を登るのはもちろんの事、砂漠を歩くだけでもかなり体力を持ってかれるし、そこに精神攻撃まで来たら溜まったもんじゃない。そりゃオアシスの幻覚も見るわ。


「ていうかアナタ飛んでるから疲れとは無縁じゃ無いのぉ!」

「バカ言ってんじゃねぇ。誰のおかげでこの砂漠を快適に歩けてると思ってやがる」

「うぐっ・・・!」


 ゼルの一言にネクが思わず口ごもる。今回もモンテローエ火山の時と同じ、ゼルの耐熱魔法に活躍してもらっていた。たぶんこれが無かったらあーしも早々にギブアップしてたと思う。魔法万能。


「うぅ~でもぉ・・・」

「・・・そろそろ日も沈み始める。この辺りでキャンプの準備をしても良いと思う」

「ルビー・・・!」

「ハァ・・・しゃーねぇな」


 何も言い返せず半泣きになっていたネクを見かねたのか、ルビーお母さんが助け舟を出し、ゼルもそれに渋々折れた。もう魔王軍幹部だったプライドとかはどっかいっちゃったんだろうか。


「アカネさん、近くにキャンプを張れそうな場所はある?」

「あー、ちょっと待って。今探してみるから」


 ネクに抱き着かれ撫で繰り回されながら、ルビーちゃんは無表情であーしに問いかけてくる。もうちょっと反応返してあげてもいいんじゃないの?


 そんな二人の様子を尻目にドローンで周囲を探ってみると、ここから少し左へ行った先に何か廃墟らしい場所を見つけた。

 いい感じに地面が平らなうえに、申し訳程度に壁とか天井も残ってるからそこそこ快適そうかも。


「こことかどうかな?」

「ん、悪くない」

「んじゃ今日はそこで泊りだな。さっさと行くぞ」

「ホラ、速く行くわよぉ二人とも」

「「・・・」」


 ゼルに続いて軽やかな足取りで進みだしたネクを、ルビーちゃんと二人して見つめる。もうちょっと歩かせても良かったかなって、たぶんルビーちゃんも同じこと考えてると思う。


 なんて過ぎた事を考えててもしょうがないので、あーしたちも揃って二人の後をついて行く。

 到着した廃墟らしき場所は、ここが建物だったという面影以外にルーツを感じさせるものはなく、風に運ばれてきたんだろう砂埃だけが寂しく隅の方に溜まっていた。


「一泊するだけなら上等だろ。暗くなる前にさっさと済ませようぜ」

「そーだね。じゃああーし晩ごはん作るから」

「私は手伝いを」

「アナタはアタシと寝床の準備よぉ」

「あぅ」

「俺様は何すればいい?」

「んー・・・小躍りとか?」

「無えなら無えって言えや」


 あーしのボケにジト目でもって返してくるゼル。普段なら撮影とか頼みたいところなんだけど、生憎今は隠密行動中。インスタなんてもっての他である。・・・いや撮るだけならいいか。

 しかし今ので気分を害してしまったらしく、ゼルはすねたように廃墟の奥の方へと飛んで行ってしまった。まぁご飯できたら帰って来るでしょ。

 

 それからしばらく経ってキャンプの設置が終わった頃、お腹を空かせたみんなの下に香ばしい匂いが届けられ、それに釣られてぞろぞろとあーしの下に集まって来る。呼ぶ必要もなかったか。

 今回は久しぶりのキャンプという事で、ルビーちゃんの強い要望もありビーフシチューを作った。一人ずつお皿の中によそっていくと、寒くなった夜の砂漠に白い湯気が立ち登る。我ながら美味しそう。


「「「「いただきまーす」」」」


 全員で手を合わせてから、それぞれのペースでビーフシチューを口に運んでいく。うん、今日もいい出来。

 見上げれば雲一つない満天の星空があーしたちを照らし出し、豪華な宿屋とはまた別の贅沢感があーしの心を満たしていった。


「こんな状況じゃ無かったら、もっと楽しめるのになぁ」

「なら早いとこ助け出して、今度は王女様も連れて来たらどうだ?」

「あー、それいいね」

「むしろこんな事があった後じゃ余計に出られないんじゃないのぉ?」

「連れ出せばいいじゃねえか」

「エギルと変わんないじゃんそれ」


 熱いビーフシチューを冷ます間に、暇つぶしがてら何でもない会話を交わすあーしたち。

 しかしそうやって穏やかな会話を重ねるごとに、今も戦っているだろうルークさんたちの事が気になり始めた。


「大丈夫かなルークさんたち・・・」

「中身はどうあれ騎士団のトップ二人だ。そう簡単にくたばりゃしねえよ」

「中身って」

「その二人はもちろん、街の防衛網も悪くなかった。きっと大丈夫。今は自分たちの事に集中すべき」

「風の谷なんて、それこそ要塞みたいになってたものねぇ」


 元魔王軍二人も感心する、アルフィノエと風の谷の防衛網。確かにあれならちょっとやそっとじゃ落とされないか。


 アルフィノエは元々の人口の多さもあって、人の壁の数がすごい事になっていた。ちなみにそこには王族始め王都からの避難民がたくさんいて、その分兵士たちの数も集中している。

 風の谷は妖精たちが総出で防衛に当たっていて、何重にも張り巡らされた壁の魔法が、まさに要塞のような鉄壁の守りを生み出していた。妖精すごいなマジで。 


 そしてラクティスやモンテローエにもちゃんと防衛戦力は送られているし、ここまでやっていれば少なくとも一方的に落とされる事は無いはず。


 ただ。


「どんだけ守りを固めようが、光の魔法相手じゃ無意味だがな」

「言わなくていいじゃんそれ」


 あえて言わないでおこうと思った言葉をゼルがすんなりと口にした。何でわざわざテンション下がること言うの。


「要するに俺たちにゃ時間がねえってこった。これ食ったらさっさと寝て、明日朝一で出発するぞ」

「じゃあ残りは私が受け持つ。アカネさんおかわり」

「はいはーい」

「オアシスがあったら体も洗えるんだけどねぇ。ねぇ、この廃墟にお風呂とかなかったのぉ?」

「ある訳ねえだろ。まぁ気になるもんは・・・どうしたルビー?」

「ルビーちゃん? おかわりいらないの?」


 ルビーちゃんを呼ぶあーしとゼルの声が重なる。

 いつもならすぐにおかわりを受け取るルビーちゃんが、一切手を付けない事を不審に思って振り返ると、暗闇に包まれた夜の砂漠を凝視している姿が目に入った。ちょっ、何か怖いんですけどそれ。


「どしたんルビーちゃん・・・って何その目!?」

「夜目がきくタイプに変身した」

「器用だね・・・」


 じーっとしたまま動かないルビーちゃんの顔を覗き込むと、猫のように細い瞳孔と目が合って思わず腰を抜かす。あっぶな、シチューこぼすとこだった。

 

「で、何が見えるんだ?」

「・・・すごい数の魔物。ざっと数えて百体以上」

「ひゃっ!?」

「ほう、こっちに向かってんのか」

「いや、風の谷方面に進行してる。それを指揮しているのは・・・バルバディア様」

「「「!?」」」


 ルビーちゃんから飛び出した単語に全員が目を見開く。シチュー置いといてよかった・・・絶対こぼしてた今の。


「バルバディアって、魔王軍幹部の!?」

「あの脳筋が指揮? 見間違いじゃないのぉ?」

「間違いない。ものすごい欠伸しながら暇そうに歩いてる」

「あぁ・・・間違いなく本人ねぇ」

「どういう判断基準なのそれ!?」


 元同僚たちからのえらい言われように思わずツッコむ。確か戦闘狂の危ない奴って話じゃなかった?


「状況から考えて、風の谷から入り込んで内側から叩くってところか」

「あの脳筋がそこまで頭回るかしらぁ? てっきり砦付近で大暴れしてると思ってたけどぉ」

「恐らくエギル様辺りが入れ知恵をしたんだと思う。でないと考えられない」

「ねぇ、二人はあの幹部に恨みでもあるの?」

「いや、別に」

「特にないわよぉ」

「えぇ・・・?」


 ボロックソにディスってるのにこの反応である。どういうことなの。いやそれどころじゃないんだけど。


「で、どうするの?」

「褒めるわけじゃないけど、彼の攻撃はうちのプリーストくらいじゃないと防げないわよぉ。多分風の谷の壁もすぐに突破するでしょうねぇ」

「ええっ!? ヤバイじゃんそれ!?」

「ほう、中々に燃えるじゃねえか。いっちょやりあうか」

「バカ言ってるんじゃないわよぉ。アタシたちの目的を忘れたのぉ?」

「なるべく数を減らして、敵襲を風の谷側に知らせるのがベスト。それで撤退してくれればなお良い」

「その為の絶好の状況は整ってるわけだしねぇ」


 そう言って二人は闇に包まれた夜の砂漠を見渡す。それってつまり・・・。


「暗闇に紛れて奇襲するってこと?」

「その通り」

「ここはルビーの独壇場ねぇ。作戦も任せていいかしらぁ?」

「了解」

「おい、俺様抜きで話進めるんじゃねぇ」

「どうせ真正面から突っ込むしか考えてないんでしょう? 脳筋は大人しくしてなさいな」

「俺は魔法使いだ。脳筋じゃねぇ」

「考えは否定しないんだ」


 グダグダとしつつも方針を決めると、ルビーちゃんは残っていたビーフシチューをかっこんでから作戦を話し始める。おかわりは欲しかったのね。


 それから短く作戦会議をすませ、あーしたちは闇夜に包まれた砂漠の中に散らばっていく。

 ここにきて魔王軍幹部との接触は想定外すぎるけど、ここで見逃せばそれこそ大惨事になる。幸いにも状況はあーしたちに有利、気を引き締めていこう。

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