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異世界インスタ  作者: 五寸
第5章 光の果て
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プロローグ

 魔王。

 絵本とかアニメとかゲームとか、媒体を問わずして一度は聞いたことがあるだろうその単語。

 大体は世界征服が目的だったりして、それを主人公である勇者あたりが倒すまでがセット。いわゆるお約束ってやつ。


 当然ファンタジー全開のこの世界にも魔王は存在し、今はその息子によって王女様が攫われてしまっている。

 そんな王女様を勇者よろしく助け出すべく、あーしたちは馬車に揺られて王都へと馳せ参じていた。

 

「いよいよだね」

「あァ、腕がなるぜ」


 遠目に見える王都の景色が近づいてくるごとに、鼓動の音が大きくなっているように感じる。


 今日はいよいよエイミス様の奪還作戦が始まる日。前にエイミス様からお呼ばれしたときやルークさんから話を聞きに来たのとは違う、正真正銘「冒険者」として王都にやって来た。

 いつかのシチュエーションと同じながら、事情も実力も変わったあーしたちのパーティに時の流れを感じる。

 そんな風にちょっと感傷に浸りながら窓の外を眺めていると、少し違和感に気づいた。


「なんか、妙に馬車とすれ違うね。商人の人?」

「いえ、あの方々は王都の住民です。予測される戦闘や万が一の事態に備え、他方の街に疎開してもらっています」

「おぉ・・・疎開なんて聞いたの学校以来かも」

「魔王軍からすれば、残りの狙いは地神の社ただ一つ。この前のように王都が戦場になる可能性は十分あり得る」

「その為の王都防衛緊急クエストってとこか。疎開先の街はどうしてんだ?」

「そちらにもある程度兵を送り、現地の冒険者にも協力してもらえるよう手配済みです」

「準備万端ねぇ。あとはスムーズに進めばいいけどぉ」

「ちょっ、止めてよネク。そんなフラグみたいな」


 正直あーしたちのパターンだとありえなくも無いからシャレになってない。まぁ魔王軍だって何もしてこない訳がないだろうし、全部が全部作戦通りって訳にはいかないだろうけど。


 いきなり先行きが不安になってきたあーしを他所に、馬車はいつの間にか王都の道を歩き抜け、いよいよ王城の前へとやって来ていた。

 しばらく御者さんと門番の兵士が言葉を交わすと、ギギギと重々しい音を立てて入り口のデカイ柵が開き、王城へと続く中庭の道を進み始める。

 緑豊かな中庭を抜けてついに王城の目の前までやって来ると、ようやくそこで馬車の旅も終わり、あーしたちは御者さんに開けてもらった扉から順に降りていった。


「お疲れさまでした皆さま。どうぞこちらへ」


 馬車から降りるなりセシリーさんがあーしたちを先導し、ヒールをカツカツと鳴らしながら王城の中へと歩み進んで行く。いやちょっと待って、あーし何気にお城に入るの初めてなんですけど。


 また別の緊張感に足取りが固まる中、ルビーちゃんやネクに支えてもらいながらようやくあーしも歩き出し、少し遅れて入り口の大扉をくぐった。


「うわぁ・・・!!! すっご・・・!!?」


 大扉をくぐった先であーしたちを出迎えたのは、デカい絵画や石造に壺、高そうなじゅうたんや高級そうなシャンデリアと、様々なセレブアイテムに彩られた超広い玄関。すぐ目の前にはゆるやかにカーブした階段が左右対称に備えられていて、いかにも王様のお城感が出ている。うわヤバイ超撮りたい。


「後にしてアカネさん。今は急がないと」

「ちょっ!? あーし何も言ってないし!?」

「顔に出てるわよぉ」


 心を読んだかのような二人に引っ張られながら、すでに先を進んでいたセシリーさんの後を慌てて追いかける。もしかして魔王城に居たからあんまり新鮮味がないんだろうか。セレブネタ的な。


 そうして豪華な玄関から続くこれまた豪華な長い廊下を進んで行くと、またまた豪華な大広間らしき部屋へと通される。語彙力が貧相すぎる。

 中には立派な長テーブルと、それを取り囲む十数組もの冒険者パーティがすでに集まっていて、その全員がたった今到着したあーしたちに視線を向けてきた。うわー懐かしいなぁ。これアレじゃん、遅刻して教室に入った時とおんなじじゃん。・・・状況が違いすぎるけど。


「あっ・・・えっと、お邪魔しまーす・・・」

「やぁ、よく来てくれたねアカネ君。みんな」


 ピリピリした空気の中で不意にかけられた優しい声音に振り向けば、上座に立っているルークさんを見つけた。

 顔見知りがいることに少しだけ緊張感がほぐれ、そのまま適当に空いてるスペースに入り込むと、そこまでを見届けていたルークさんが口を開く。


「これで全員かな。皆さん、招集に応じて頂きありがとうございます。かねてより計画していたエイミス王女の奪還作戦を、本日決行します」


 改めてルークさんの口から宣言され、自然と気持ちが引き締まる。他の冒険者も同じ気持ちなのか、誰一人として喋ることなくルークさんの顔を見つめている。

 それらを見渡し満足そうに頷いたルークさんは、目の前の長テーブルに広げられた地図を指し示しながら、現在の状況とそれを踏まえた作戦の説明を始めた。


「まず現在の人類側の状況として、水、火、風の大精霊が眠りに落ち、残るはこの王城の地下にて祀られている地神様のみとなった。魔王の息子 エギルの目的が、エイミス様を利用して光の魔法を手中に収める事ならば、この王城を落とすことが敵の目的と考えられる。つまり」

「この城が最終防衛ライン、って事だな」


 ルークさんの言葉の続きを奪ったのは、いつの間にか長テーブルの上に座り込んでいたゼル。ちょっ、何してんの!?

 慌てて引っ込めようとしたもののギリギリ手が届かず、しかも周りの冒険者やルークさんは気にした素振りも見せずに話を続ける。えっ、続けちゃっていいの?


「ゼル君の言う通り、この王城こそが我々人類の最終防衛ラインとなっている。前線の砦から魔王軍の動きが活発になっているとの報告もあり、恐らく向こうも一気に勝負を仕掛けてくるだろう。我々はそれに先んじて仕掛けると同時に、その混乱に乗じて魔王城へと潜入、エイミス王女を奪還するのが作戦の流れだ」


 地図上で駒を動かしながらのルークさんの説明に、冒険者たちは一様に頷いた仕草を取る。

 要するに味方が派手に暴れている間に、あーしたちが潜入してエイミス様を取り戻すって作戦だろう。これだけだと簡単そうに感じるけど、実際は魔王軍の本拠地への潜入。油断できる要素は一切ない。


「決行は本日深夜。それまでに各々作戦を固め、準備をしていてもらいたい。何か質問は?」


 ある程度の説明を終わらせてルークさんがそう問いかけると、ウチのルビーちゃんを始め色々な所から手が挙がる。ちなみにウチはルビーちゃん以外手を挙げていない。これでいいのか。

 

「済まない、とりあえず一人ずつ対応させてもらうよ。まずは・・・っ!? 今の揺れは?」


 教卓に立つ先生のようにルークさんが指を迷わせていると、不意に小さな揺れがあーしたちの足下を揺さぶった。地震・・・? いや、この状況でそれは・・・。

 そういう結論に至ったのはあーし以外も同じらしく、誰もが周囲に向けて神経を尖らせていると。


「てっ、敵襲!!! うわぁあああああああああ!!?」


 部屋の外から聞こえてきた誰かの叫び声に、その場の全員が体ごと視線を向ける。

 するとカーテン越しに謎のシルエットが浮かび上がり、それが何者なのかを考えるまでも無く、窓や壁をブチ抜いてそいつは自ら正体を現した。


「っ!? 黒い魔物!?」

「混沌の魔物、エギルの尖兵か!!」

「何でコイツがここに居やがる・・・まさかッ!?」


 いつか王都でエギルが呼び出した黒い魔物が、どういう訳か今あーしたちの目の前に姿を現していた。

 汽笛のように黒い鼻息を吐き出す姿から、ミノタウロスをベースにしているらしい目の前の黒い魔物は、オリジナル同様一も二も無くあーしたちに向けてタックルをかましてくる。


「『スラッシュ』!」


 ルークさんの一閃により、黒いミノタウロスは薄墨のような霧となって消えていく。

 しかし黒い魔物は今の一体だけではなかったらしく、空いた穴から外へと出てみれば、王城の至る所で黒い魔物が暴れている光景が飛び込んできた。


「どうなってんのコレ!? 最終防衛ライン突破されちゃってるんですけど!?」

「警備に穴は無かったはず、一体どこから・・・?」

「考えんのは後だろ団長サンよぉ。今一番気にかけなきゃいけねえのは何だ?」

「っ! そうだね」


 ゼルの一言でルークさんは素早く切り替えると、集まっていた冒険者たちに短く指示を飛ばす。


「ソーサラーを除く冒険者はここで混沌の魔物の討伐を。ソーサラーたちは僕と一緒に地神の社までついて来て欲しい。それと、ゼル君たちもついて来てくれるかな」

「当然だ。断られてもついてくぜ俺は」

「いやそこは言う事聞こうよ」


 なんてゆるいやり取りを交わしながらも、あーしたちはそれぞれ指示に従って行動を始める。

 黒い魔物は攻撃魔法を無効化する力があり、その関係で物理攻撃が得意なクラスに任せるほかない。それ故か戦場と化した王城の中でも魔法の光や音が聞こえてくる事は無く、ただひたすらに鋭い金属音が鳴り響く。


 そんなBGMに鼓膜を無理矢理揺さぶられながら地神の社へと移動する最中、先頭を走るルークさんにゼルが問いかけた。


「なぁオイ、物理クラスを置いてきていいのかよ。あの黒い魔物がいるってこたぁ恐らく・・・」

「問題ない。僕が片づける」

「ハッ! 頼もしいねぇオイ」


 セリフではそう言いつつも、どこか対抗心を声音に滲ませているゼルに対し、ルークさんは短い言葉ながらもどこか焦ったような雰囲気を感じられる。会話の内容から察するに、もしかして・・・。


「着いた。あの転移の魔法陣が社に繋がっている」 


 ルークさんに案内されたのは、教会を思わせる造りをした大広間。その中央では巨大な魔法陣が光り輝いていて、恐らくアレがルークさんの言う転移の魔法陣だろう。

 あーしたちはその魔法陣に向かって走り込むと、スクロールと同じように周囲を光の粒子が取り囲み始める。

 思わず走るのを止めようとした頃には転移も終わり、視界を覆う光が晴れた先には、目を疑うような光景が広がっていた。

 

「ここは・・・なっ!?」


 あーしたちが送られてきたのは、転移前に入った教会のような大広間と全く同じ作りの場所。しかし装飾やインテリアなんかは全て石で出来ていて、足元も砂漠のように砂で満たされている。

 まるで長い時間を一気に飛び越えたかのような感覚を覚えるこの場所は、いつもならすぐにカメラを構えて写真を撮り始めていたと思う。


 それをさせなかったのは、血で黒ずんだ砂の上で動かなくなっている騎士や兵士の死体の山と、その中で膝をつきながら肩で息をしているシルヴァさんを捉えたから。


「シルヴァさん!?」

「っ! アカネちゃん・・・?」

「おっと、どうやら応援が来てしまったようだね」

「っ! この声・・・!」


 頭に焼き付いていた耳障りな声の方へと視線を向ければ、積み重ねられた死体の山の先で、黄金に輝く瞳と目が合った。


「久しぶりだね、風神の社以来かな?」

「エギル!!」


 魔王の息子 エギルはあーしたちを見るなり笑顔で語りかけてきた。その体にはもう傷跡は見当たらず、ゼルが開けた風穴は完全に塞がったらしい。

 いきなりのボス登場に全員が戦闘態勢を整えながら様子を伺っていると、一番先頭に立っていたルークさんが静かに問いかける。


「貴様がやったのか」

「・・・いいや?」


 社の惨状を前に静かに怒気を膨らませるルークさんに対し、エギルはどこか含みのある笑みと言葉でもって返す。

 するとその背後からぬるりと人影が現れ、あーしたちの前に姿を現した。


「っ!? エイミス様!?」

「やったのは彼女だ。私は一切手を出していないよ」

「・・・・・・貴様ァアアアアアアアアアア!!!」

「待って! ルーくん!!」


 エギルの背後から現れたのは、おびただしいまでの返り血に濡れたエイミス様だった。

 その姿を見た途端に激昂したルークさんは、シルヴァさんの制止も聞かずに一瞬でエギルとの距離を詰める。

 

 しかし。


「っ!?」

「おっと、さすがは騎士団長。お優しいね」


 目にも留まらぬ速さで振り下ろされたルークさんの剣は、エギルを庇うように割って入ったエイミス様の目の前でピタリと止まった。

 その一瞬の隙を突き、エイミス様は虚ろな目で反撃の魔法を唱える。


「『プロミネンス』」

「なっ!?」


 ルークさんの目の前に赤い魔法陣が広がったかと思えば、間髪入れずにそこから大爆発が起こり、煙をまといながらルークさんが大きく吹き飛ばされてくる。 


「ルークさん!?」

「ルーくん、大丈夫?」

「問題ない。それより今のは・・・」

「ハッハ、気づいたかな?」


 返事もそこそこに絶えず睨みつけているルークさんの視線の先で、エギルは得意げになりながらあーしたちに語りかけて来た。


「感謝するよアカネ君。君たちのおかげで、王女様に炎神と風神の力が解放された」

「っ!」

「そして今、残った地神の力をこの手に」

「オォラアアアアアア!!!」


 悦に入ったように喋り出したエギルの言葉を、猛スピードで繰り出されたゼルの突撃がエギルの体ごと吹き飛ばす。キィーンという音が聞こえてくる位の勢いで吹っ飛ばされたエギルは、そのまま社の壁へとめり込むほどに叩きつけられた。


「ハッ! ゴタゴタうるせえんだよ! どっから入り込んだのか知んねえが好都合だ、ここでテメェをぶっ殺して王女サマも取り戻す!!」


 もくもくと煙を吐き出すエギルが叩きつけられた場所に向かって、盛大に啖呵を切ってみせたゼル。こういう時はほんと頼もしいな。


 しかしそんなあーしの希望を打ち砕かんとばかりに、突如ゼルの隣に黒い霧が湧き出し、そこから飛び出した風の弾丸に今度はゼルが吹き飛ばされてしまった。

 さらに追い打ちとしてエイミス様が魔法を唱え、火、水、風とバリエーションの増えた強烈な魔法がゼルに向かって襲いかかる。


「ゼルーーーーー!!?」

「・・・ガッハ・・・クソ・・・!」

「っ!? そんな・・・!?」


 嵐のような魔法の応酬に曝されたゼルは、なんと十八番の壁の魔法すら打ち破られ、全身傷だらけになりながら肩で息をしていた。

 レベル9のプリーストの力が破られた事にあーしたちが絶句する中、風の弾丸が打ち出された黒い霧から無傷のエギルが姿を現し、そのまま淡々と説明を始める。


「どこから入ってきたのかという疑問については、この『混沌の道』を通ってきたんだ。目に見えている場所ならどこへでも、そうでない場所へは、加護を与えた者を座標に移動できる」

「座標・・・?」

「っ! まさか、アイシア様を!?」

「ご明察だルビー君」


 ルビーちゃんとエギルのやり取りを聞き、数秒遅れてハッと思い至る。そうだ! この城にはアイシアが投獄されて・・・!


「まさか、それも計算に入れて!?」

「いやいやそこまでは。ただ幸運が重なっただけさ。私にとってのね」


 あーしの問いかけにエギルは謙遜した風に返しながら、悪意をにじませた皮肉をぶつけてきた。コイツ・・・!!


「さて、少し邪魔も入ったが今度こそ始めるとしようか」

「させると思うか? この僕を目の前にして」

「残念だが騎士団長殿、もう時間切れだ。君がここに着いた頃にはね」

「なにッ!?」

「うそっ!?」


 エギルから時間切れとの宣告をされたその瞬間、地神の社全体を覆うほどの巨大な三色の魔法陣が現れる。

 しばらくすると遅れて四色目の黄色い魔法陣 地属性を示す魔法陣も浮かび上がり、やがてそれらは一つに重なり合い、神々しい光を放つ白い魔法陣へと姿を変えた。


「う、うそでしょ・・・これ、もう・・・!?」

「どういうことだ!? 魔力大結晶なしにどうやって地神様を!?」

「簡単な話だよ。王女様は大精霊と繋がるエレメントロード。彼女そのものが大結晶の代わりとなるのさ」

「っ・・・!?」


 そんな会話を交わす間にも、白い魔法陣はどんどんと輝きを増していき、今にも爆発しそうな雰囲気を漂わせ始める。その圧倒的な力と死の恐怖を前に控えていた冒険者たちはパニックを起こし、我先にと王城へとつながる転移の魔法陣へと走り出した。

 それを尻目に傷ついたゼルやシルヴァさんを回収していたあーしたちは、ゼルをネクが、シルヴァさんをルビーちゃんが抱えていよいよ逃げ出そうとしたところで、エギルから死の宣告を投げかけられた。


「お別れだ。冥土の土産に見届けていくといい。光の魔法と呼ばれる、この力の真髄を!!」


 エギルがそう叫ぶなり、地神の社全体を覆う白い魔法陣が激しく輝き始める。

 ついに解き放たれてしまった光の魔法を前に誰もが覚悟を決めていると、しかしそれ以上何も起きることはなかった。


 なぜなら。


「速く・・・逃げてください・・・!」

「っ!? エイミス様!?」

「ほう・・・まだ抗えるとは」


 エギルに操られているはずのエイミス様が自我を取り戻し、光の魔法が解き放たれるのを食い止めてくれていた。


「エイミス様!? 意識を取り戻されて」

「いいから速く逃げて下さい!! これを通れば・・・王都の外に逃げられます・・・!!」


 思わず声をかけたルークさんを大声で遮ったエイミス様は、あーしたちのすぐ近くに新たな転移の魔法陣を呼び出す。


「っ・・・! 申し訳ありません、エイミス様」

「アタシたちも急ぐわよぉ」

「了解」


 エイミス様の意思を汲み取ったルークさんは、本当に悔しそうな表情を浮かべながら魔法陣へと入り込む。それに続いてネクとルビーちゃんも入り込み、そして最後にあーしが足を踏み入れる。


 はずだった。


「えっ・・・? 何これ・・・?」

「アカネさん?」

「何してるのぉアカネちゃん! 速くこっちに来なさいな!」

「違うんだって! なんか、壁の魔法が・・・!」


 どういうわけか転移の魔法陣の周りに壁の魔法が張り出され、あーしだけが弾き出されてしまっていた。

 一気に身体中に脂汗をかき、焦りながら壁の魔法を叩いたりしていると、その魔法の主から愉快そうに声をかけられる。


「ハッハッハ! つれないなぁ、君はインスタグラマーだろう? 最後の瞬間まで見届けてくれたまえよ」

「っ・・・うそでしょ・・・?」

「おいちょっと待てよ・・・ふざけんなよテメェ!!!」


 思わずエギルの方を振り返ったあーしの背後から、ボロボロだったはずのゼルの怒号が飛んでくる。


「アカネさん!! アカネさーーー」

「ちょっと待って!! アカネちゃーーー」

「アカネ!! アカネェエエエエエーーー」


 あーしの名前を必死に叫んでいたみんなの声は、光の粒子に変わって聞こえなくなった。

 たった一人地神の社に取り残されたあーしは、力なく膝をついて壁の中の魔法陣を見つめる。


「そん・・・な・・・」

「ハハハハハハハ!! 全員消してしまうより面白いものが観れたな。重ねて感謝するよ、アカネ君」


 後ろから何か聞こえた気がするけど、もうどうでもいい。


 あーしは、ここで。


「さぁ、始めようか」


 次の瞬間、あーしの背後から強烈な光が走ってきた。


 音も、色も、何もかもが感じられなくなり、最後には自分の意識すらも、無くなっていった。

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