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異世界インスタ  作者: 五寸
第4章 狂宴のモンテローエ
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17話

「交換・・・だと?」

「そ。物分かりの良い騎士さんなら、言わなくても分かるよね?」


 この場にいる騎士や兵士全員に武器を突きつけられる中、アイシアは一切気にした素振りも見せずに移動し、氷漬けにされた一人の子供に手を伸ばした。

 血の気を感じない白く細い手が子供の頭に触れると、ビシッと良く通る音を伴って子供の体にヒビが走る。


「止めろ! 子供には手を出すな!!」

「わたしが聞きたいのはそんなセリフじゃないんだけどー」

「ぐっ・・・卑怯な真似を・・・!」

「えー、ひどーい。第一、人のもの盗ったのはそっちじゃん。わたしはそれを取り返しにきただけー」

「取り返しにって事は、やっぱアンタたちが火の精霊を!?」

「えーなにアカネちゃん、いまさらでしょそんなの」


 火の精霊を無理矢理結晶に変えておいて、一切悪びれるどころかあまつさえ人を小バカにするようなその態度に、一気に頭に血が昇っていくあーし。しかし今は人質を取られてしまっている以上、滅多なことは出来ない。

 そしてそれはこの場に居る全員が同じで、誰もがアイシアの言葉に耳を傾けるほかなかった。


「わたし体質的に熱い所ダメだからさー、代わりに手下に作ってもらってたんだよねー。まぁやられちゃったみたいだけど」

「おっと、悪いことしちまったか?」

「んーん、こうして君たちが持ってきてくれたから結果オーライかな」


 ゼルの皮肉にすら笑って返したアイシアは、氷漬けになった段差に腰かけてもう一度催促してくる。


「で、どうするの? 時間はそれなりにあげたつもりだけど。分かりやすくかかった時間だけ砕いてこうか?」

「止めろ! ・・・分かった、魔力大結晶を渡す」

「そうこなくちゃ!」


 騎士さんの言葉を聞いてアイシアはぴょんと立ち上がると、鼻歌を歌いながら騎士さんの前へと歩み寄る。対する騎士さんは魔王軍幹部を前にしても決して臆することなく、その冷たすぎるまでの瞳をしっかりと見据えて向かい合う。


「そういう人間たちの素直な所、わたし好きだよ」

「・・・私は、お前たちのそういう所が嫌いだ」

「えー冷たーい。・・・アッハ、だから好きなんだけど」


 騎士さんの言葉にワザとらしくショックを受けた表情を浮かべたアイシアは、ゆっくりとその口角を歪めていき、やがては凍てつくような微笑を湛えて騎士さんにそう呟いた。

 お気に入りのおもちゃを見つめるような、寒気がするほどの無邪気なその笑顔に、さすがの騎士さんも思わず体をのけ反らせてしまう。


 かと思えばパッと明るい笑顔に切り替わったアイシアは、朗らかなトーンで取引の続きを促した。


「それじゃーまずはわたしからね。ほら、道空けて?」

「・・・全員、道を空けろ」


 アイシアの言葉に続いて騎士さんからの命令が飛び、構えていた騎士や兵士たちは歯噛みしながらゆっくりと左右に開いて道を空ける。

 その様子を眺めていたアイシアはあえてその場からしばらく動かず、自分の為に作られた道を満足そうな表情で見つめていた。


 そうした状況で騎士さんたちが屈辱に身を焦がす中、アイシアとの距離が空いた氷漬けの人たちの下に、元魔王軍の白い糸がゆっくり静かに這い寄っていた。 


「いつでもいいわよぉ」

「よーし、反撃開始だ。『キュア』!!」


 大きく遠回りして人質の下へと伸ばされたネクの糸を伝って、ゼルの魔法が水色の光を放ちながら地面を走る。

 瞬く間に魔法の光は人質全員を包み込むと、止められていた時間から解き放つように、体を覆う分厚い氷を砕き割った。


「今だお前ら! やっちまえ!!」


 間髪入れずに悪党みたいなセリフを叫んだゼルは、珍しく攻撃を味方に託し、自分は壁の魔法を張って助けた人たちが逃げるまでの時間を稼ぐ。セリフさえ完璧だったら・・・!


「助かった! 感謝する!」

「全員攻撃!! 奴を取り抑えろ!!」

「「「了解!!」」」


 縛るものが無くなった騎士たちはもう一度武器を構え、魔力大結晶へ向けて歩き出していたアイシアを取り囲むように攻撃を仕掛ける。

 対するアイシアはその状況ですら何の構えを取ることもせず、ゆっくりと歩きながらぼそりと何かを呟いた。


「『クリスタルウォール』」

「っ!? ぐっ・・・!!」

「このっ!?」


 突如としてアイシアの進む道を飾り付けるように多数の魔法陣が浮かび上がり、そこから生み出された分厚い氷の壁が迫る攻撃の全てをはじき返してしまった。さらにお返しとばかりに壁から無数のつららが撃ち出され、アイシアを取り囲んでいた騎士や兵士たちを力づくで押し退ける。


「ぐあああああっ!?」

「あぐッ・・・クソッ・・・!!」

「だっ、大丈夫ですか!? ・・・って何これ!?」


 あーしの近くまで吹き飛ばされてきた兵士の一人に駆け寄ると、刺さった氷の針から侵食するように体が凍り付き始めていた。体の内側からも凍らされているのかみるみる内に顔色が白くなっていき、眼の焦点が虚ろなものへと変わっていく。


「ヤバいよゼル! 体が!?」

「分かってる!! 手伝えクモ女!!」

「アッハ! ほんと君たちって可愛いよねー。思ってた通りに動くんだもん」


 一瞬で追い込まれた全滅寸前の状況に右往左往していると、遠い氷の壁の中からくぐもった笑い声が聞こえてくる。

 苛立ち交じりに横目で声の方を確認すれば、ガラスが割れたような音を響かせながら氷の壁が砕け散り、中から冷たい笑みを浮かべたアイシアが顔を出した。


 その傍らでは赤い魔力大結晶が輝いていて、状況を理解した途端にあーしの心臓が強く跳ねる。


「糸の使い道はわたしもよく知ってるからねー。妖精クンが居るならこう来るだろうなーとは思ってたよ」

「テメェ・・・!」


 アイシアはまるでペットでも眺めているかのような視線をあーしたちに向けながら、傍らの魔力大結晶に向けて手を伸ばす。


「人質を助けて、逃げるまで守って、ケガ人を治して。そういう一生懸命なところも好きなんだけど、わたしが人間の一番好きなところ、何か分かる?」

「っ!? まずい・・・奴を止めッ・・・!!!」

「こうやって、優先順位を間違えちゃうところ」


 ボロボロの体で必死に手を伸ばした騎士さんをあざ笑うかのように、アイシアはその手で触れた魔力大結晶から夥しいまでの魔力を解き放った。

 強烈な風や光となって溢れ出た魔力はひとしきり周囲を蹴散らした後、結晶に触れているアイシアの体へと渦を描きながら収まっていく。


 内に入り込む膨大な魔力に口元を歪めたアイシアは、青い炎の魔法陣を呼び出しながら上機嫌に叫んだ。


「良いもの見せてくれたお礼に特等席で見せてあげる! 氷の魔女の魔法を!」


 そう叫ぶなりアイシアは天高く腕を突きあげると、大空の至る所から染み出すように黒い雲が現れ、早送りみたいなスピードでモンテローエの上空を埋め尽くした。

 天変地異みたいな光景にあーしは呆然としたままそれを眺めていると、意識を引き戻すほどに冷たい雨が弾丸の如く降り注いでくる。


「ひゃっ!? ちょっ、なにこのすごい雨!? 冷たっ・・・ていうか痛っ!?」

「何だこりゃぁ、海神サマの真似事かァ!? 言っちゃあ何だがこの程度じゃ比べモンにもなんねえぞ!!」

「アッハ! 違う違う。さっきちゃんと言ったでしょ?」


 降りしきる大雨の中、ほとんど叫びながらゼルと会話するアイシアの姿は、大雨それ自体と跳ね返った水しぶきが生み出す白い霧に阻まれ、朧気なシルエットしか確認する事ができない。

 数歩先すらまともに見えない状況で何をしてくるのかと不安になっていると、次に聞こえてきたアイシアの声に心臓が凍りつくような感覚を覚えた。



「今から見せるのは、氷の魔女の魔法だよ」



 いやにはっきり聞こえたアイシアの声に、ボルケーノワームと戦った時の状況が脳裏に浮かぶ。


 あーしたちはあの時のワームと同じように、ずぶ濡れの状態で氷の魔女と向かい合っていた。


「壁を張りなさぁい!!」

「『アブソルート・ゼロ』」


 次の瞬間、あーしの視界全てが真っ白に染まり、鼓膜を激しく揺らしていた雨脚もピッタリと鳴りを潜める。

 時間すら止まってしまったかに思えるその状況にあーしはどんどん不安を募らせていると、突然目の前の空間にヒビが入り、そこを起点に周囲の白い背景が砕け散った。


「なに・・・これ・・・?」


 次にあーしの視界に映り込んだのは、しんしんと雪が降り積もる銀世界。

 周囲には雪化粧を施された建物がいくつも建ち並び、視線を落とせば真っ白な地面の中に足首まで沈んだあーしの足が目に入る。

 街の奥には雄大な雪山が堂々とそびえ立ち、ところどころで露出した黒い岩肌が美しいコントラストを生み出していた。


「うそ・・・ここって、モンテローエ・・・だよね?」


 寒さによるものなのか、震える首を必死に動かして周囲を見渡せば、そこは確かに自分がさっきまで立っていたモンテローエのギルド前にある広場だった。

 その証拠に、周囲にはあーしのパーティメンバー始め、ポツポツと残った騎士や兵士と、それ以外の完全に凍らされた人々。


 そして、今も魔力大結晶の傍に立つアイシアの姿があった。


「んー、いいね! わたし好みの街に変わったかも」


 一瞬で世界を作り変えられたかのような光景にあーしたちが呆然とする中、アイシアは一切変わらない調子で絡んでくる。


「それにしてもさすがだねー。わたしの魔法を防ぎきっちゃうなんて。これでも氷の魔法には結構自信あったんだけどなー」

「・・・」


 わざとらしいアイシアのセリフにゼルは眉を歪めたものの、何も言わずにただその顔を睨み返す。状況から察するに、さっきの割れた白い背景は、凍らされたゼルの壁の魔法だったんだろう。

 確かにアイシアの言う通り、ゼルの魔法はアイシアの魔法を防ぎきったけど、それはあくまであーしたちとたまたま近くにいた人だけ。それ以外の人たちは例外なく氷の銅像と変わり果て、今も振り続ける雪の中へと埋もれようとしていた。


「こんなことして、何が目的なの・・・?」


 あーしは震える喉から必死に声を絞り出し、ここまでの事をしでかしたアイシアにその目的を訪ねる。


「あれー、さっき言わなかったっけ? わたし熱いところダメなんだよねー」

「それはもう聞いたし!」

「だから冷やして、炎神の社まで行こうってわけ」

「・・・は?」


 ちょっと待って、言ってる意味分かんない。

 つまり、炎神の社に行くためだけに、モンテローエを雪国に変えたってこと?


「そんなことのために・・・!?」

「まぁこっちも仕事だから。それに、こういうのもインスタ映えするんじゃないの?」

「ふざけんな!!」


 気づけば寒さを忘れるほどに頭に血が上り、この状況を生み出したアイシアに向けて腹の底から叫んでいた。

 対するアイシアはオーバー気味に驚くリアクションをとった後、雪の中から氷で出来た蛇のような魔物を呼び出す。


「アッハ! なーんか怒ってて怖いし、わたしもう行くね。後はこの子たちと遊んでて」

「!? 待ちなさッ・・・!」


 アイシアはさらに追加で雪や氷の魔物を呼び出すと、自身は魔力大結晶を乗せた荷台に乗り込み、それを氷で出来た蛇の魔物に引かせて雪山と化したモンテローエ火山へと向かう。

 それを思わず走って追いかけようとしたあーしの前に、巨大な雪男のような魔物が立ちはだかった。


「ひっ!? ちょっ、待って・・・っ!?」


 あーしの命乞いも虚しく振り下ろされた巨大な腕が、赤い血を撒き散らしながら雪の上にドスンと落ちる。

 魔物と二人して何事かと慌てている間にも周りの雪はどんどん赤く染まっていき、気づいた頃には落ちた腕の隣に雪男の頭が追加されていた。これは・・・!


「ルビーちゃん!」

「アカネさん、あんまり一人でうろつかないで」

「ご、ごめん。あとありがと」

「ん」


 ルビーちゃんは小刀についた血を振り払いながら小さく頷き、再びハイドで姿を消して他の魔物の下へと向かう。

 見ればゼルやネクの他に、無事だった人たち全員がアイシアの残した魔物と戦い、順調にその数を減らしていた。


 その最中、同じように無事だった例の騎士さんが、魔物と戦いながらあーしたちに話しかけてくる。


「ここは我々が引き受ける! 君たちは奴を追ってくれ!」

「えっ!? でっ、でも・・・!」

「大丈夫! 私たちは騎士だ! その誇りにかけて、今度こそ魔物を打ち倒してみせる!」

「だってよ。行くぞアカネ」

「ちょっ、本当にいいの?」

「男の覚悟ってもんは、黙って受け取るのが礼儀ってもんだ」

「っ!」


 不意にゼルから飛び出したカッコいいセリフに、あーしはそれ以上何も言うことができなくなる。でもそっか。そうだよね。


「分かりました! 行こルビーちゃん! ネク!」

「了解」

「ちょっと、走るのは勘弁よぉ!?」


 この期に及んでゆるい空気を醸し出すあーしたちは、騎士や兵士たちが空けてくれた道を進み、アイシアの残した轍の後を追いかけていく。

 その先にそびえ立つのは、雪山と化したモンテローエ火山。間違いなくアイシアの妨害があるだろうけど、だからといって止まるわけにはいかない。

 

 これ以上、魔王軍に好き勝手されてたまるか!

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