13話
「あぁ~・・・足がぁ・・・アカネちゃん足揉んでぇ・・・」
「我慢だよネク。もうすぐモンテローエに着くから」
「んんぁ~・・・」
王都からモンテローエへの帰り道。日が傾きかけた街道を進む馬車の中で、筋肉痛を訴えるネクがしきりにマッサージをせがんでくる。セリフといいポージングといい、妙にエロいのはワザとやってんの?
ルークさんとの話の後、あーしたちはそのまま地図を頼りに王都の中を巡り歩き、こうしてネクの足がギブアップするまで観光を楽しんだ。
王都の街並みはまさに観光向けといった作りになっていて、飲食店に始まりアパレル系や小物系のお店、そこから道具屋にたまに鍛冶屋と、なんとなくアウトレットを思い出した。ウィンドウショッピング向けって意味ではあながち間違ってないのかも。
「それにしても王都のお店ほんと高いよね。桁一個多いのとか当たり前だし」
「金持ちの街だからな。装備だけ整えて実力が伴ってねぇ冒険者なんかが泣きを見て、そのままモンテローエに引き返すヤツも多いらしい」
「そういう世知辛いとこだけは徹底してるよね・・・」
ゼルの話を聞いて、王都のギルドに張り出されていたクエストを思い出す。確かにアレは装備だけでどうこうできるようなものじゃない。その分報酬はすごいことになってるけど。
「むぅ、おかげであんまり食べられなかった」
「いや十分食べてたでしょ。何件食べ歩いたの今日だけで」
「十二軒しか回れてない」
「しか!?」
「それにスイーツ系が中心だったから、あまりお腹も満たせなかった」
「いや十二軒も回りゃ普通張るだろ。どうなってんだお前の胃袋」
ゼルのツッコミにあーしも強く頷く。なんならその半分でギブアップする自信がある。
前回のエイミス様にお呼ばれした時とは違って、あーしたちもそれなりにお財布の余裕があったんだけど、なんだかんだ庶民感覚を発揮して、結果ほとんどがウィンドウショッピングになっていた。まぁちょくちょくスイーツとかは食べてたんだけど。美味しかったなー。
「まぁあーしたちもきちんと王都で稼げるようになったら、思いっきり買い物するのも悪くないね」
「冒険者らしくていいじゃねえか。足りねえならクエストで稼ぐ。基本中の基本だな」
「まぁ、筋肉痛で動けなくなってる内は無理だと思う」
「うるさいわねぇ・・・」
ろくに言い返せずに寝返りを打つだけのネクを見て、あーしたちは揃って吹き出す。そろそろマッサージの一つでもしてあげようかな。
「ていうかルビー、まだなのぉ・・・?」
「今見えてきたところ。あと少しだけ我慢・・・っ!?」
「どしたんルビーちゃん?」
さっきまで御者席から軽快に届いていたルビーちゃんの声が突然詰まり、不思議に思って荷台から前を覗き見る。すると。
「ちょっ!? 何アレ!?」
あーしの視界に飛び込んできたのは、街中から異常なまでに白い煙が湧き上がるモンテローエの姿。背後にそびえるモンテローエ火山すら白く霞ませるほどの煙の量は、爆撃にでも遭ったのかと思わせるほどだった。
「何なのあの煙・・・もしかして温泉から出てんの・・・?」
「行って確かめるしかねえな。ルビー、ちょっとスピード上げろ」
「もうやってる」
ゼルから指示を受けるよりも早く、ルビーちゃんが馬をさらに速く走らせる。
ボルケーノワームを倒してようやく平和が訪れたはずのモンテローエは、あーしの視界の中でガタガタと激しく揺れていた。
風情あふれる温泉街の街並みは、案の定パニックに陥っていた。
あっちこっちに入り乱れる人の波にあーしは一人困惑する中、ゼルとルビーちゃんは冷静に状況を分析し始める。
「見た感じ、アカネの予想通り温泉が原因っぽいな」
「煙から察するに、温泉が沸騰するくらい熱くなったんだと思う。それも街全体の規模で」
「それってボルケーノワームが原因だったんじゃないの? あーしたちこの前倒したじゃん」
「つまりアイツが原因じゃなかったってことだろ。詳しい話はギルドだ、行くぞ」
あーしたちはゼルを先頭に、人の波を掻き分けながら坂道の先にあるギルドへと進んでいく。未だ筋肉痛のネクが時々諦めようとしなかったらもうちょっと楽に進めるんだけどな。ほら早く立って。
道中ですれ違う人の話を聞くに、どうもルビーちゃんの言った通り、温泉が沸き立つくらいに熱くなっているらしい。
その証拠に、ギルド前にある足湯がボコボコと音が鳴るくらいに沸き立っていた。
「えらいことになってんなオイ」
「これじゃ中にも入れそうにないね・・・」
ちなみに今のは足湯じゃなくて、ギルドの中に対して言ったセリフ。
考えることはみんな同じなのか、ギルドの中は詰めかけた一般人や冒険者、さらには鉱夫さんたちで溢れかえっていて、むしろここが一番のパニックに陥ってしまっていた。
「どうなってんだよオイ!」
「うちの子が火傷しちゃったわ! どうなってるの!?」
「どこまで行っても鉱石が見つからん! ワームは倒したんじゃなかったのか!?」
「落ち着いて! 落ち着いてください皆さん!」
どう見ても捌き切れていない。この前のグラビア販売と違って統制が取れてないぶん最悪の光景が広がっている。
「鉱夫さんもいるってことは、やっぱ坑道ダンジョンが関わってんのかな?」
「だろうな。聞いた感じ、鉱床がどうのマグマがどうの言ってるみたいだしよ」
「どうする? とりあえず誰かに話聞いてみる?」
「やめとけ、俺たちもアレに巻き込まれんのがオチだ」
「それは・・・やめといたほうがいいね」
わずかにあったギルド職員さんを手伝うという選択肢が、ゼルの一言で消え失せる。申し訳ないけど、確かにあーしたちが入ったところでどうにかできるとも思えない。最悪ただただ巻き込まれて時間を無駄にする可能性もある。
「! アカネさん、あそこ」
「なにルビーちゃん・・・ってコボルトくん!?」
服の裾を引っ張ってきたルビーちゃんが指し示す方へと視線を向ければ、道の隅っこで人ごみに少し怯えているたれ耳のコボルトくんを見つけた。コボルトくんがここに居るってことはやっぱ・・・。
あーしはうっすらと嫌な予感を覚えつつ、コボルトくんの方へと近づいていく。
「あの、久しぶりコボルトくん。どうしたの?」
あーしに声をかけられたコボルトくんは一瞬体をビクつかせ、その後ゆっくりとこっちに振り向いたかと思えば、少し表情を柔らかくしてぴょんと飛び跳ねた。かわいいなもう。
それからコボルトくんは必死にジェスチャーで意思疎通を持ちかけてきて、それを通訳のルビーちゃんに翻訳してもらう。
「えっと、何て言ってるの?」
「私たちのパーティを訪ねてきたみたい。今まさに起きている、モンテローエ火山の異変調査のために」
「っ!」
「ほう」
どうやら既にある程度の情報を掴んでいるらしいコボルトくんから、今のモンテローエ火山の状況について聞かされる。
「火山活動が異常に活発化して、坑道ダンジョンのいたるところからマグマが吹き出しているらしい」
「ヤバイじゃんそれ!?」
「それと、鉱石が新たに作られなくなっているとも言っている」
「鉱石が復活しない・・・か。なるほど、読めてきたぜ」
何一つピンとこないあーしに対し、ゼルは納得のいったように笑みを浮かべる。あの、説明してもらってもいい?
「つまりだな、食いモンの鉱石が復活しなくなったから、ワームの野郎は住処を出て上層まで出張ってきたってことだ。あいつも被害者だったってことだな」
「それって・・・」
「何も問題は解決していなかった、ということになる」
ルビーちゃんの淡々とした事実確認に、心臓が一際強く跳ねる。
何も解決してないって、それじゃ本当の原因はなんなの・・・?
「復活しない鉱石、異常な火山活動、こうなると原因はもう一つしか考えらんねえ訳だが、その辺コボルトはどう考えてんだ?」
「えっ、原因分かってんの?」
「お前・・・この街に何があるのかもう忘れたのか」
「何があるって・・・あっ!」
そっか、火の大精霊! 火山には炎神様の社があったんだった! でもそれって・・・!
「魔王軍の仕業・・・ってこと?」
「可能性の段階だがな。少なくとも火の精霊に異変が起きてんのは間違いねぇだろ」
「となると、炎神の社に行けばいいのかな」
「その辺りは騎士か祈祷師の連中がなんとかしてんだろ。わざわざコボルトが来たってことは、そいつらじゃカバーしきれん場所に用があるってことだ。そうだろ?」
ゼルがドヤ顔で問いかけたセリフに、コボルトくんは静かに頷く。言っちゃ悪いけど、コボルトくんの方がカッコよく見えるよあーし。
そのままコボルトくんは身振り手振りで何かを伝え、それをルビーちゃんが翻訳してあーしたちに教えてくれる。
「ワームの開けた穴の一つが、坑道ダンジョンの新しいエリアに繋がっているらしい。そこが一番異常の影響が出てるらしいから、その先で原因が見つかるかもしれない、と」
「準備が良くて助かるぜ。よし行くぞお前ら」
「今から行くの!?」
「んじゃいつ行くんだよ。最悪こいつらの住処がマグマん中に沈むかもしんねーんだぞ」
「それはっ・・・そうだね」
ゼルの言う通りだ。だからコボルトくんはわざわざここまでやって来たんだろうし。
「じゃあえっと、ルビーちゃんも大丈夫?」
「私も問題ない。強いて言えば、ちょっとお腹が空いてる」
「ルビーちゃんにとってはかなり重大問題な気がするけど・・・まぁいいや。それでネクは? 行けそう?」
「強いていうなら、足がちょっと痛いわねぇ・・・」
「問題なしね。んじゃ行こっか」
「扱いがおかしくないかしらぁ!?」
「今回はちゃんと聞いてあげたでしょ、ほら行くよ。コボルトくん、案内お願いできるかな?」
あーしのセリフにコボルトくんは静かに頷くと、モンテローエ火山に向けて歩き出す。あーしたちもその後ろに続き、今まさに異変の真っ只中にある坑道ダンジョンへ向けて出発した。
ほぼ百パーセント魔王軍とぶつかる可能性があるかもしれない。気を引き締めていかないと。




