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異世界インスタ  作者: 五寸
第4章 狂宴のモンテローエ
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12話

「ふぅ・・・」


 モンテローエの早い朝。あーしはギルド前に備えられた足湯に浸かり、道行く冒険者たちを何の気なしにぼーっと見送る。


 ワーム討伐祭からはや三日。モンテローエでは足しげく鍛冶屋に通う冒険者たちの姿が頻繁に見られるようになっていた。

 というのも、この街に冒険者が集まるのは王都へと向かう準備を整えるため。そのために必要な鉱石がボルケーノワームからたくさん取れたことにより、武器や防具を更新しようと鍛冶屋に通っているという訳。

 おそらく近いうちに、ほとんどの冒険者が王都へ向けて馬車を走らせるだろう、とはゼルの談。


「ん? ようアカネ、早いな」

「おはよーゼル。今日もクエストはあんまりいいのなかったよ」

「だろうな。まぁ構いやしねえさ。どうせしばらく働かなくても困らねえしよ」


 噂をすればなんとやら。朝練終わりらしいゼルは、そのまま会話を続けつつあーしの隣に腰掛ける。足湯に届いてないけど。

 ゼルの言う通り、あーしたちは財布の中身に余裕ができていた。理由は簡単、あーしたちには鉱石の使い道がないから。

 ワーム産の鉱石はかなり高値で売れたおかげで、こうして朝っぱらから何もせずぼーっと過ごす事ができている。つくづく冒険者してないな。


 クエストに関しても、ここしばらく商売とかお祭りとかで人が増えたこともあって、目ぼしいクエストはほとんど消化されてしまっていた。まぁ、逆に言えばそれだけモンテローエが平和って意味でもあるんだろうけど。


「あっ、おはようアカネさん。ゼルさんも」

「おう」

「ルビーちゃん。と、ネクも一緒だったんだ」

「ハァッ・・・ハァッ・・・出来ることなら・・・一緒したくなかったわぁ・・・」


 足湯をパチャパチャやっていると、道の向こうから小走りでルビーちゃんとネクがやってきた。多分恒例の朝練だろう。自主性があるかは置いといて。


「二人は何してたの?」

「何も。むしろ今日は何しようかなーって考えてたかな」

「クエストを受けてもいいんだが、どうにもハリがなくてな」

「贅沢な悩みだね」


 この前あーしたちが戦ってきたワームやミノタウロスたちは、モンテローエでも強敵の部類に当たる。今さらその辺の普通の魔物じゃ満足できんと、ここ最近のゼルは酒を飲みながらぼやいていた。


「それなら、坑道ダンジョンの調査に混ざればよかったんじゃ? 確か用心棒を募集してたはず」

「もう定員オーバーだとよ。新しい武器の試し斬りがしてぇとかでな」

「ギルド側も狙って日程組んでたかもね」


 坑道ダンジョンの調査っていうのは、ボルケーノワームがなぜ上層まで出張ってきたのかという件と、この前の地下神殿について。予想通りというか学者さんたちが食いつきまくったらしく、ワームの件と合わせて調査が行われることになった。・・・ワームの方もちゃんと調べてくれるんだろうか。

 ちなみに、写真整理するまで地下神殿のこと忘れてたのは秘密。


「じゃあ、もういっそ王都に行くのはどう? タイミングもいいし、そろそろ招集がかかってもおかしくない」

「あー、それいいかもね」

「つーかむしろ遅い方じゃねえのか。あのクソ女近いうちにっつってたくせによ」

「それも直接本人に問い詰めたらいい。きっと喜ぶ」

「お前なぁ・・・」


 珍しくイジってきたルビーちゃんをゼルが引きつった笑みで睨む。別におかしなことは言ってないっていうのがポイント高い。いやおかしいんだけども。


「んじゃどうせ予定もないし、このまま朝ごはん食べたら出発しよっか」

「了解」

「あいよ」

「ちょっとぉ・・・アタシの意見はぁ・・・?」

「なんだよ、ついてこないのか?」

「・・・行くわよぉ! ただちゃんとアタシにも聞いて欲しかっただけぇ!」


 なんかめっちゃかわいい事をプンスカ怒りながら叫んだネク。この人元何なんだっけ?

 うっすらと涙目になるネクを慰めながら、あーしたちは酒場の方へと入っていった。






 モンテローエを馬車で出発してからしばらく。エギルに襲撃されて以来の王都に到着した。

 今も街中は厳戒態勢ではあるものの、少しずつ人の活気は戻りつつあるようで、至る所に刻まれていた戦いの傷跡も治り始めているのが見て取れる。


 入り口付近で馬車を預けたあーしたちは徒歩で王城まで移動し、門番の兵士さんにシルヴァさんの居所を訪ねてみたところ、どうやら今は社の警備に回っていたらしく、代わりにルークさんが会いにきてくれることになった。今更だけど騎士団長を呼びつけるって、何気にすごいことしてるなあーしたち。


 流石にこの状況で中に通すわけには行かないのか、門の前でしばらく待っていると、王城へと続く中庭の道の向こうからルークさんが小走りでやってきた。


「やぁ、待たせてしまって申し訳ない」

「いえいえそんな! 仕事中にすみません」


 呼びつけたのはこちら側なのに気を使ってくれるルークさん。相変わらずモテそうなオーラが出てるわ。


「久しぶりだな団長サンよぉ」

「皆も、元気そうで何よりだよ。そういえば、モンテローエでも活躍したんだってね」

「ハッハッハ! まぁ、魔王の息子をぶっ飛ばした俺様なら、あんな芋虫程度どうってことねえよ」

「あぁいや、それもあるけど、商売の話が盛り上がっていてね」

「「「・・・」」」


 名前こそ出さなかったものの、ルークさんの言わんとすることはすぐに分かってしまった。上品なイメージのある王都だと、流石にあーしたちの評判も下がり気味だったりするんだろうか。


「なんだよ、欲しいのか?」

「ちょっ、ゼル!?」

「何を言ってるのかしらアナタはぁ!?」

「いやいや、実はあの時期やたらとモンテローエ行きを志願する者が増えてね。それで何事かとセシリーさんが調べたら・・・」

「あー・・・なんか、すいません」

「いいんだよ。結果的に士気も上がったし」

「何で持ってるんですか!?」


 ルークさんはニコニコ顔で例の限定グラビアをいくつか取り出した。あまりに予想外の出来事すぎて思わず一、二歩後ずさると、青い顔で固まるネクが横に並ぶ。騎士団にまで広まってるのは予想できないよね、うん。


「意外だな、騎士サマってーのはお堅いモンだと思ってたんだが」

「ここ最近はずっと気を張っているからね。息抜きも大事さ」

「フットワーク軽いんですね・・・」


 ガチガチの規律で縛っているかと思いきや、意外と柔軟なタイプだったこの世界の騎士団。まぁルークさんはともかくとしてシルヴァさんがアレだし、そう考えるとそこまでおかしい事でも・・・いやどうだろう。


「そんなことより、奪還作戦はどうなったの?」


 めちゃくちゃに脱線してしまっていた話を、ルビーちゃんの透き通る声が正してくれる。そうだ、あーしたちはこんな話するためにここに来たんじゃない。

 ルークさんもすぐに切り替え、一度咳払いしてから奪還作戦の現状について語り出した。


「まずは連絡が遅れて申し訳ない。実は君たちの報告を受けて、作戦を少し延期していたんだ」

「延期に?」

「なんでだよ、あのクソ女もあんなに意気込んでたのによぉ」

「ハハハ、シルヴァにもずいぶん反発されたよ。でも、だからこそなんだ」


 ルークさんは懐かしむように笑った後、すぐに真剣な表情に変わって続きを話す。


「君たちが報告してくれた通り、エイミス様を利用して光の魔法を手中に収める事がエギルの目的なら、奪還作戦で手薄になった社を狙われてしまう危険性がある」

「あっ! そっか・・・!」

「だから今は騎士団総出で四大の社の防衛に回り、奪還作戦は選抜した冒険者たちに依頼する形になったんだ」

「選抜だァ? 加護を受けた俺たちでカチコミをかけるんじゃなかったのか?」

「もちろん、ゼル君と僕とシルヴァは作戦に参加する。ただし陽動としてね」

「その間に、選抜した冒険者たちが王女様を救出する」

「その通りだよルビー君」


 先読みしたルビーちゃんにルークさんが頷き返す。なるほど、その冒険者選びで今まで時間が掛かってたって事かな。


「というと、もしかしてあーしたちは特にやる事なかったり?」

「まさかそんな。ゼル君には悪いけど、アカネ君たちにはエイミス様の救出に回ってもらいたい」

「えっ!? あーしも!?」

「ドローンは潜入にかなり役立つ。悪い選定じゃない」

「いやでもアレ光ってるし・・・大丈夫かなぁ」

「アタシたちも一緒だから大丈夫よぉ。うるさいのも居ないからむしろ安心感があるわねぇ」

「ハッハッハ! ここで息の根止めてやろうかクモ女」

「今はそういうのいいから」


 流れるようにケンカが始まりかけた二人を、ルビーちゃんの冷たすぎる一言がバッサリ断ち切る。なんか今日キツくないルビーちゃん? ネクちょっと涙目になってるよ?


「それと一つ質問がある」

「何かな?」

「王女様は操られてしまっていた。その辺りはどう対処すれば?」

「精霊槍の光の力で浄化する予定だよ。浄化程度の力に限れば、光の力も分け与えられるからね」

「なるほど。了解した」


 めっちゃくちゃ真面目な顔で一人ふんふんと頷くルビーちゃん。もしかしてもう潜入時の動きを考えてたりするんだろうか。元魔王軍だし、なんか超頼りになるんですけど。


「つーかほとんど作戦決まってんじゃねえか。あとは何が足んねえんだよ」

「防衛側の方で少しね。万全を期して、作戦時には他の冒険者たちにも協力してもらえるようギルドに手配中なんだ」

「ずいぶん回りくどい真似するのねぇ。手っ取り早く命令すればいいんじゃないのぉ?」

「人を動かすには、それなりの誠意が必要なのさ」


 そう言ってルークさんは例のグラビア手配書を取り出した。本人は分かってないんだろうけど、それを見るたびにネクがダメージを受けてるのが面白い。説得力もあるもんだから余計に。


「それも後少しで準備が整うから、もう少しだけ待っていてもらえると助かるよ」

「いやいやそんな! むしろ任せっきりだし、助かってるのはこっちって言うか・・・」

「それが仕事だからね。君たちはそれまで万全の態勢を整えていてほしい」

「わ、分かりました」


 騎士団長でありながらどこまでも低姿勢で気遣いを忘れないルークさん。なんか今朝までぼーっとしてた自分が恥かしくなる。


「作戦については以上だけど、何か質問はあるかな? 無いなら僕は仕事に戻るけど」

「問題ない」

「どうせ作戦当日にもっかい説明すんだろ?」

「そうだね、それじゃあ当日はよろしく頼むよ」

「あっ、はい。ありがとうございました」


 ルークさんは爽やかに別れの挨拶を残し、王城の中へと戻っていった。


「で、俺たちはどうするよ? 何かクエストでも受けてくか?」

「今さっき万全の態勢でって言ってたじゃん。王都のクエストはヤバイでしょ」

「そうなると、無理に王都に留まるよりは、モンテローエで体を癒していた方がいいかもしれない」

「アタシも賛成よぉ。それにアタシたちの事だから、どうせまた面倒ごとに巻き込まれる可能性も高いものぉ」

「否定できないのが嫌だねそれ・・・」


 ネクの話を聞いて思わず引きつった笑みを浮かべるあーし。モンテローエにしたって結果的にワームと戦う羽目になったわけだし、王都でそんなもんに巻き込まれたら作戦に参加できないまである。


「まぁでもこのまま帰るのもアレだし、適当に遊んでくのはどう?」

「それくらいなら歓迎ねぇ」

「私も。王都の食を制覇するチャンス」

「さっき食ったばっかだろうが」

「んじゃ予定考えるのも兼ねて、どっかカフェにでも行こっか」


 あーしの提案にみんなは頷いて返し、ゆっくりと王都の道を進み始める。

 作戦も近いみたいだし、今のうちにいっぱい羽を伸ばしておこう。

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