11話
星空と提灯に照らされるモンテローエの大通りを、あーしはサンダルをペタペタと鳴らしながら一人進んでいく。
ボルケーノワームを討伐してから翌日。モンテローエではボルケーノワーム討伐記念祭が開かれ、あーしたちの特殊な商売で集客していたこともあり、街は盛り上がりに盛り上がっていた。
というのも、ワームをやっつけた時に撒き散らされたモザイク必須の例のゲテモノ。なんとこの中に食べられた鉱石が詰まっていた。更には他の鉱石と混ざり合ってより強くなった鉱石まであり、結果街が潤いまくったことで、そのテンションでもってこの祭が開かれることになった。
・・・職業柄慣れてるのかもしんないけど、モザイクまみれで喜ぶ冒険者たちの絵面は色々と思うところがあった。ちなみに撮影はしてない。できない。
「あっ、もしかしてアカネさんですか!?」
「ん? あーしのこと? そーですよー」
「やー! 本物だー! あの、握手とかしてもらっていいですか!?」
「あーズルイ! わたしもいいですか!?」
「どうぞー」
「やった!」
たぶんあーしと同い年くらいの女の子二人に声をかけられ、そのまま流れで握手に応じる。雰囲気的に、お祭りに来た観光客かな。
自分でも言うのもなんだけど、あーしたちはかなり知名度が上がった。いや知名度だけならインスタグラマーの時点でそこそこあったかもだけど、実力がついたこともあってか、こうして一般の人から声をかけられる機会がかなり増えたと思う。
特に今回の祭はあーしがインスタで集客をかけたこともあって、ちょっと進むたびに色んな人から声をかけまくられ、思うように進めない状況だったり。嬉しいけど、これはこれで考えものかも。
「あのっ、記事で見ました! ワームと戦ってるところ!」
「ほんと? ありがとー!」
「今回は他のメンバーさんも大きくなってましたけど、あれもアカネさんのスキルなんですか!?」
「あっ・・・あー、うん。合ってるっちゃ合ってるかな・・・」
そして今回も例の巨人が話題に上がってしまっている。なんかもう訂正が無理っぽそうなくらい広まっちゃったなコレ。あれほとんどあーしの力関係ないのに。
まぁ修正が無理なら、上書きしちゃえばいいんだけどね。
「今日はそのスキルでお祭りをもっと盛り上げちゃうから、最後まで楽しんでって!」
「マジですか!? 絶対見ます!」
「わー超楽しみー!」
「あっ、でもまずは最初のイベントからだから、準備は出来てる?」
「「もちろん!」」
二人がハモリながら取り出したのは、薄く折りたたまれた紙。ちなみにこの二人だけじゃなく、道行く人のほとんどがカバンに入れてたり脇に挟んだりして持ち歩いている。もちろんあーしも。
この紙のアイテム自体が、今回のメインイベントの一つだ。
その後あーしは用事があるからと二人と別れ、再び目的地のギルドへ向けて歩き出す。
今回あーしたちのパーティはお祭りの実行側に回っていて、その中でもメインイベントである第一と第二イベントを担当させてもらっている。ちなみに第一はルビーちゃんとネク、第二はあーしとゼルで担当。
そういう関係もあって、まだ時間に余裕のある序盤の内にみんなでお祭りを楽しみ、イベント開始時刻が近づいた今は担当ごとの持ち場に散らばっている。
その中で恐れ多くも大トリを務めることになっているあーしはまだ少しだけ時間に余裕があり、どうせなら第一イベントを一緒に楽しんでから持ち場に行こうと、ルビーちゃんたちの待機しているギルドへと向かっていた。
そうして適当に屋台を引っ掛けながらギルドへと続く坂道を進んでいると、あーしと違って真剣に屋台とにらめっこしている見慣れた黒髪を見つける。
「何してんのルビーちゃん?」
「あっ、アカネさん。ちょっと買い出しに」
「・・・してないでしょそれ」
「・・・ごめんなさい」
めっちゃ真面目な顔で振り向いたルビーちゃんの口元には、言い訳不可能なレベルで食べカスやソースなんかがくっついていた。女の子なんだからもっと気使おうよ。
どうやら我慢できずに食べ歩きしていたらしいルビーちゃんを叱りつつ、あーしはその口元を拭ってあげる。
「ハイオッケー。あーしもちょうどギルドに行くとこだし、一緒に買い出し終わらせよっか」
「分かった。じゃあまずは、あのフランクフルトを十本ほど」
「多っ!? 絶対今食べる気でしょルビーちゃん! 全然分かってないし!」
やや暴走気味のルビーちゃんを抑えつつなんとか買い出しを済ませたあーしたちは、ルビーちゃんの帰りを待っているだろうネクの下へと向かう。
第一イベント開始に合わせてぞろぞろと集まってきた人混みをかわしながら進んでいくと、立ち入りが制限されたギルドの中でつまらそうに座っているネクを見つけた。
「おつかれー、ネク」
「ただいまネクさん」
「! アカネちゃん? ってルビー! こんな時間まで何してたのよぉ!」
「道に迷った」
「ウソおっしゃい!」
「なんで一発でバレるウソついたし・・・」
あーしとネクの反応にルビーちゃんは小さく舌を出すと、プンスカと怒るネクにお詫びのリンゴ飴を差し出す。ネクは一瞬どうするかたじろいだものの、結局は受け取ってそれ以上怒ることはしなかった。チョロいなぁ。
「それでアカネちゃんは何でここに? 自分の持ち場に行かなくていいのぉ?」
「あーし大トリだからちょっと時間あるんだよね。だから二人と楽しんでから行こっかなって」
「大トリに余裕ってあるものなのかしらぁ・・・?」
「イメージするだけだしね。だいじょーぶだいじょーぶ」
「それより二人とも、冷めないうちに」
そうしてあーしたちは関係者特権でギルドのテーブル席に座り、買ってきた屋台の出し物を分け合いながら、第一イベント開始まで時間を潰す。
しばらくするとギルドの前に設置された小さな舞台の上に職員さんが上がり、メガホンを使ってイベント開始の宣言を始めた。
「皆様! 大変長らくお待たせ致しました! 只今よりボルケーノワーム討伐記念祭の第一イベント、『天灯上げ』を開始します!」
キーンという音の混じった職員さんの宣言を聞き、それまで纏まりのなかった人々のざわめきが一気に同じ歓声に変わる。
そしてあーしたち含む集まった人たちはそれぞれ例の折りたたまれた紙を取り出し、それを優しく丁寧に広げて小さな気球のようなものを作り出す。
「おぉー、ちっちゃいのに良く出来てるねー」
「こういう職人芸は素直に感心するわねぇ」
「二人とも、火をつけるから少し掲げて」
ルビーちゃんに言われて持ち上げるように少し掲げると、職員さんが気球の底に取り付けられた点火部分に魔法で火をつけてくれた。すると薄い紙の中から優しいオレンジ色の光が漏れ出し、思わず目を奪われる。
天灯。分かりやすく言うとスカイランタン。
元の世界でもお祭りなんかで使われていた、熱気球の一つ。有名映画のワンシーンでもあったよね。
ここモンテローエでは、坑道ダンジョンをはじめとした炎神様の恵みに感謝の意を示すため、こうして天灯を飛ばす風習があるらしい。今回はボルケーノワームから採れた鉱石への感謝の気持ち。
職員さんは慣れた手つきでどんどん天灯に火をつけていき、ギルド周辺から道の先まで夜とは思えないほどの明かりが満たされていく。
しばらくして大体の天灯が準備を終えたと判断した職員さんは、今か今かと待ち続ける人たちに再びメガホンを取って合図を出した。
「それでは皆様、天灯を空へ!」
職員さんが言うや否や、ギルド前の広場のあちこちからゆっくりと天灯が昇り始めた。あーしたちも続いて天灯を空へと放すと、クラゲのようにゆらゆらと揺れながら空へと昇っていく。
あーしは素早くカメラとドローンを起動して撮影に入ると、街の至る所からも天灯が昇り始めたのを捉えた。
闇夜に映えるオレンジ色の星空は上と下とで表情を変え、その圧巻の景色を前にあーしは思わずため息を漏らしてしまう。
「すっごいきれい・・・!」
「わぁ・・・」
「まさに絶景ねぇ・・・。火の大精霊も満足するでしょう」
そんな心を満たす天灯の絶景も、時の流れを示すようにゆっくりとあーしたちから遠ざかっていき、見惚れていた人々も徐々に心を取り戻したのか、広場に小さなざわめきがポツポツと生まれ始める。
それを見計らっていたかのように、第一イベント担当のネクが動き出した。
「あんまり余韻を楽しめないのも考えものねぇ」
「まぁまぁ、後で一緒に動画見直そうよ」
「あら、いいわねぇ。それじゃあ始めましょうかぁ」
あーしの誘いにネクは優しく微笑むと、気だるそうに両腕を星空に向かって伸ばす。その先にルビーちゃんが火をつけると、飛んで行った天灯を追いかけるようにカラフルな炎が走っていった。
突然現れた七色の炎に観客たちが一様にどよめく中、まるで天に昇る龍のようにうねりながら昇っていった炎は、ほとんど星空に混ざり始めた天灯たちを色鮮やかに燃やし尽くす。
そしてそれを合図に、火山側の方から一斉に花火が打ち上がった。
天灯に変わって夜空に咲いた大輪の花に、呆気にとられていた観客たちは再び歓声を上げる。
「うまくいったね、ネク!」
「当然よぉ。なにせアタシの糸なんだからぁ」
「すごい、ネクさん」
あーしたちにすごいすごいと褒めまくられ、これでもかと踏ん反り返って鼻を伸ばしまくるネク。
そう、さっき飛ばした天灯にはネクの極細糸が取り付けてあった。その糸に錬金術師産の特殊な油を塗ることで、空に昇った天灯をカラフルに燃やしたと言うわけ。
なぜ燃やしたのかというと、単純なゴミの問題だったりする。ならそれの処理も演出に組み込んじゃって、打ち上げ花火に繋げちゃおうって寸法である。ファンタジー世界ならではだよねこういうの。
「アカネさん、そろそろ時間」
「あっ、そうだった。じゃああーし行くね」
「気をつけて行くのよぉ」
「後片付けを済ませたら、私たちも追いかける」
「うん、待ってるねー!」
二人と短く別れを済ませると、あーしは小走りで自分の持ち場へと向かう。
第二イベント担当のあーしとゼルの持ち場は、モンテローエ火山入り口付近にある広場。そこに花火師たちが集まり、祭りの最後を盛大に彩る。
あーしは移動しながら花火を見つめる中、他の花火に混じってやたらにあっちこっちと動き回る光の筋を見つけた。
流れ星のようにキラキラと光るそれは、直線に打ち上がる花火と違い、渦巻いたり円を描いたり、さらにはハートマークなんかを光の筋で描いた後、満足したように一花咲かせて花火としての役目を果たす。
なんかお調子者みたいな花火だなぁと心の中で呟いていると、ようやく目的地にたどり着いた。
そこでは元の世界と同じように筒に入れて花火を打ち上げる人の他に、魔法を唱えて光を筋を打ち出す人々の姿が。あー、あれ魔法だったんだ。
とめどなく鼓膜を殴りつける爆音の中、両耳を塞ぎながら辺りを見回すと、花火師たちに混じって妙なテンションで魔法を打ち出すゼルを見つけた。
一瞬行くのやめようかなという考えがよぎったものの、あーしはゼルの下へと近づいて行く。
「ゼルー!」
「っしゃあああ!! どんどん行くぜオラァアアア!!」
「ゼルってばー!」
「あ? おうアカネ! 今来たのか?」
「そうだけど、何その魔法? 初めて見たんだけど」
「何だお前さん、花火知ってるくせに魔法花火知らねえのか」
「いや、まぁ・・・うん」
「つってまぁ、名前通り魔法版花火ってだけだがな。見た通り打ち上げから爆発まである程度操れる」
そう言ってゼルはデモンストレーションのように魔法を唱え、右手に呼び出した魔法陣から光の筋を飛ばす。打ち出された光の筋は竜巻のように渦を巻いて飛んでいき、最後には盛大な花を咲かせた。
「おぉー! すごいじゃん! それならいつでも花火できるじゃん!」
「いつでもってお前なぁ・・・つーかお前さんもそろそろ出番じゃねえのか?」
「あっ、そうだった」
「お前・・・何しに来たんだマジで」
妙に高いテンションから一転、じっとりした目線であーしを見つめてくるゼル。しゃーないじゃん! だって魔法花火とか初めて見たんだもん!
なんて言い訳をする暇もないので、あーしはいそいそとPマジックを起動し、頭の中にイメージを浮かべる。
「まずはこれかな!」
空高く飛び上がったドローンからモンテローエ火山に向けて光が放たれ、その雄大なキャンパスに天灯の星空が映し出された。
さすがにこれは誰にも予想できていなかったらしく、花火師さんたちを始めゼルですら驚きの声を上げる。
「おいおい何だこりゃお前さん!? こんなスキルあったのか!?」
「これもPマジックだよ。てかむしろこっちのが本来の使い方なんだけどね」
ちょっと得意げになったあーしはさらにイメージを膨らませ、さっきやったように天灯を色鮮やかに燃やした後、山の中からボルケーノワームを登場させる。
花火師や観客からどよめきや小さい悲鳴が上がる中、続いて冒険者や巨大ゼルを映し出し、ワームとの戦いを簡単に再現してみせた。
「おぉ、マジか・・・! 相変わらず変なとこですげえなお前さん」
「一言余計だし」
素直じゃないゼルの褒め言葉を受け取りながら、あーしは次のイメージを探り始める。
このアプリ最大のポイントは、あーしのイメージが強く関係してくること。
つまり、クオリティもセンスも全部あーし依存。改めて元の世界のプロの実力を思い知らされる。
「俺様も負けてらんねえなァ! そらよッ!」
負けじとゼルも魔法の花火を連続で飛ばし、夜空を大輪の花で彩る。あーしはそれに合わせてイメージを膨らませ、ゼルの花火が花開いたと同時に映像のワームも爆発させた。
「ほぉ、面白え事すんじゃねえか」
「モザイクはさすがに映せないしね」
「そうだな」
あーしたちはお互いに笑い、お祭りのクライマックスまで盛り上げるよう全力で努める。
しばらくするとルビーちゃんとネクも合流してきて、最後の打ち上げ花火が上がるその瞬間まで一緒にこのお祭りを楽しんだ。
全ての異変の原因だったボルケーノワーム。その討伐記念祭。
いつの間にか街の問題解決に走り回ってたけど、これでようやく元通りになるだろう。
とりあえずまずは、入れなかった温泉を制覇するところから始めようかな。




