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異世界インスタ  作者: 五寸
第4章 狂宴のモンテローエ
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8話

 謎の地下神殿探索からコボルトの集落での食事会と、立て続けに起こった想定外のイベントを終え、その疲れをようやく温泉で癒したあーしたちは、お風呂から上がるなり妙にやる気に溢れたゼルに捕まり、そのままギルドへと向かうことになった。


 到着するや否やゼルは受付ブースへと直行し、何の前置きも無くダンジョン探索の報告と、異変の原因がボルケーノワームにある事を説明した。その間あーしたちは見てるだけ。これあーしたち居る?


 職員さん側もいきなりすぎるこの話に最初は戸惑っていたものの、コボルトの名前を出したとたんに反応が変わり、スムーズに話が進んだ。すごいなコボルトの信用度。


 ボルケーノワームの生態自体はギルドも把握していたようで、鉱石が無くなっている現状や、その付近に残された傷跡、ワームの通り道である穴と状況証拠が揃った事もあり、ギルドも正式にボルケーノワームが原因であると認めるに至った。


 しかし珍しい魔物であるためかこれまでに討伐記録が無いらしく、討伐クエストを出そうにもどう対処させればいいのかと、今まさにあーしたちがぶつかっている問題と衝突。

 それを見計らっていたかのように、ゼルは例の邪悪な笑みを浮かべながらこう切り出した。


「俺にいい考えがあるんだが、乗るか?」


 あーしやネクと同じように嫌な予感がしたのか、職員さんたちは一様に怪訝な表情を浮かべたものの、その内容を聞いてあーしたち含めた全員が協力する事を決めた。


 内容は単純明快。モンテローエで鉱石が採れないなら、他から集めればいい。

 

 鉱石が採れるのは、何もモンテローエの坑道ダンジョンだけじゃない。この広い世界には、鉱石を採れるスポットがいくらでも点在している。そしてそれを求めて冒険する冒険者や商人が、この世界にはたくさんいるのだ。

 そんな彼らに対して、あーしがインスタを使って鉱石を高く買い取ると呼びかける。・・・ギルドの協力ありきで。

 後はそれで集めた鉱石を使ってボルケーノワームを釣る。それがゼルの語った、ボルケーノワーム討伐作戦の一部だった。



 そう、一部である。

 ここまでは良かったんだよ。ここまでは。


 あーしたちは忘れていた。


 この妖精が邪悪な笑みを浮かべた時は、大抵ロクな事を考えていないということを。



「あーい! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! モンテローエ限定! 手配書販売だァ!」

「俺このAセット!」

「BとCを一つずつ頼む!」

「ここからここ、全部で」


 ギルドとの協力を取り付けてから二日後の朝。

 モンテローエに来てから今日までこの温泉街で一番の盛り上がりを見せているのは、ギルド前で行われているネクリアのグラビア手配書販売会。

 いつか見たラクティスでの販売会と同じ、いやそれ以上の長蛇の列が、手配書という名のグラビアを売りさばくゼルの前に並んでいた。・・・何でこうなるし。


 当然、鉱石を買うにもお金がいる。それならばとゼルはこの商売をギルドに持ち掛け、見事ギルドの協力と販売スペース、そして大義名分をゴリ押しで勝ち取った。

 限定と謳っている通り、今回売られているのはお風呂上がりのネクリアの写真を始め、バスタオル姿や温泉に浸かる写真が多数。これはギルドの協力という大義名分をこれでもかと振りかざし、温泉での撮影許可をもぎ取ったゼルの仕業・・・成果である。

 ちなみに今回の被写体はもちろん本人。公にはルビーちゃんの変身と、あーしのPマジックの力って誤魔化してるけど。



 そして残念なことに、今回の商売はそれだけに留まらない。



「何でこんな事になるのかしらぁ・・・」

「・・・仕方ない。我慢」

「まぁ、一応は街の為だもんね・・・複雑だけど」


 ゼルが精を出している販売ブースの隣で待機しているのは、ネクリアに変身したルビーちゃんと、Pマジックでネクリアに変身させたネク・・・という体にした本人。ややこしいな。

 販売ブースと比べて煌びやかに飾り付けられたこちらのスペースには、握手用ブースと書かれた立札が置かれている。


 そう、なんとゼルは新しい商売として、グラビアを一定数以上買った特典に、被写体のネクリアとの握手券を付けたのだ。・・・まさか異世界で特典商法を見る事になろうとは。

 ちなみにあーしははがし役。・・・これはこれで複雑なんですけど。


「あのっ、お願いします!」

「はっ・・・はぁい。ありがとうございますぅ・・・!」

「ありがとう、ございます・・・」


 どこか引きつった笑顔を浮かべながら、握手に応じるルビーちゃんとネク。そんな二人に追い打ちをかけるように、握手待ちの列はどんどんと長い蛇の姿へと変わっていく。これ今日中に終わんのかな・・・?


「よし、良い調子だ。お前さんらはそのまま続けててくれ。俺はちょっと外す」

「えっ!? ちょっとどこ行くの!?」

「仕事だ」


 そう言ってゼルは会計を職員さんに変わってもらい、人ごみの中へと消えていった。仕事って、今のこれがそうなんじゃないの?

 そんなあーしの疑問がゼルに届くことはなく、ただひたすらに握手を求めるお客さんを捌き続ける内に日も暮れて、暗くなった街を街灯が照らす頃にようやくその日の販売会が終わった。



 そう、終わったのはあくまで「その日」の販売会。

 つまりそれは「次の日」があるってことでありまして。



「「・・・おはようございまーす」」

「おはようございます。ようこそいらっしゃいましたアカネさん、ネクさん。どうぞこちらへ」


 まだ日も登っていない早朝。開店前の温泉へと寝ぼけ眼をこすりながらやってきたあーしとネクは、従業員さんに案内されて更衣室へと通される。そこでネク一人だけが着替えを済ませると、あーしたちは貸し切った温泉の中へとだるい足を引きずって行く。

 ・・・当然目的は朝風呂ではなく、販売会用のネクリアのグラビア撮影である。


 どうもゼルはこの一日二日で街中の温泉宿とコンタクトを取っていたようで、それぞれの温泉宿の空き時間を確保した結果、分刻みのスケジュールが生まれ、それを街の為という殺し文句で押し通されたあーしたちは、温泉街の中を汗だくで走り回る羽目に。

 そこから昼休憩を挟んでもうしばらく撮影を続けると、午後からは販売会の方の手伝いへ。


 その間の握手対応を一人任されているルビーちゃんは、朝から昼休憩挟んだラストまでぶっ通しという鬼スケジュールになっていて、午後からあーしたちが合流した頃には、今まで見た事もないほど憔悴しきった表情を浮かべていた。

 

 そこから昨日と同じように日が沈むまで働き、辺りが暗くなった頃にようやく解放される。

 疲れ切った体を温泉で癒し、美味しいご飯を食べてからやっとお布団へ・・・という訳にもいかず、最後に今日撮った写真を整理し、明日の販売用としてまとめてからようやく就寝という流れ。


 こんな生活が五日間ぶっ通しで続き、ついにネクの不満が爆発した。


「こんな生活もう嫌よぉ!!」

「ハイオッケー。じゃあネク次後ろからね」

「はぁい。・・・そうじゃなくてぇ! ていうか何アカネちゃんも順応してるのよぉ! アタシたちボルケーノワームを倒すんじゃなかったのぉ!? 何でずっと撮影ばっかしてるのよぉ!?」

「ハッ!? そういえばそうだったっけ!?」


 忙しすぎてすっかり忘れてた。最近ちょっとコツとか掴めてきちゃってたから余計に。


「ルビーだって、最近あの子魔王軍にいた頃と同じような顔つきになってたわよぉ」

「確かにあーしたち最近、ブラック企業ばりのハードワークだもんね・・・」

「それとあの羽虫、アタシたちだけに働かせて自分はめっきり顔見せないじゃなぁい。宿にもほとんど帰ってこないし」

「何してんだろね・・・? ルビーちゃんからは早朝だけ顔だして、昼ごろからどっか行ってるとは聞いてるけど」

「・・・遊んでるに決まってるわぁ」

「えぇっ!?」

「絶対そうよぉ! だって売り上げの一部を持って行ってるってルビーから聞いたものぉ!」

「うっそ!? マジで!?」


 ちょっと待ってそれは聞き捨てならないんだけど。あーしたちが朝から晩まで働いてる中自分は遊んでる・・・? ・・・いやゼルがそんなことするかなぁ? でもルビーちゃんが嘘つくとも思えないし。


「もう我慢できない・・・縛り上げて問い詰めてやるわぁ・・・!」

「あんま乱暴はやめてよ? まぁ話聞くのはあーしも賛成だけどさ」

「今日の仕事が終わったらギルドに残りましょう。ここ最近はギルドで寝泊まりしてるらしいから、そこに罠を張って・・・ウフフ」

「張らないから」


 疲れすぎて変なテンションになっているのか、諫めた後も物騒な事を呟きながら笑い声を漏らすネク。でも仕事終わらせてからって辺り、なんだかんだネクも真面目だよね。






 その日の販売会を終えたあーしたちは予定通りギルドに残り、ゼルが帰ってくるのを待った。

 しかしいつまで経っても戻ってくる気配はなく、仕方なしに一人ずつお風呂に入り、晩御飯を済ませ、明日分の写真確認を済ませてもまだ現れず、気づけばもう深夜に突入していた。


 流石にそろそろ帰ろうかと考えていたその時、ギルドの入り口の方から聞き覚えのある声が耳に届く。


「お? 何してんだテメェら、こんな夜中まで」


 いつもとなんら変わらない態度で話しかけてきたゼルに、ネクが今まで見たことも無いようなスピードで飛びつき、その小さな胸倉をつまみ上げた。つかめないからね。


「アナタァ! 一体こんな時間までどこほっつき歩いてたのかしらァ!?」

「あ? 何だテメェクモ女いきなり」

「こっちは朝から晩まで働いてるのに、アナタはその売り上げ金握って街に繰り出してるみたいじゃなァい!? どういうことなのか説明しなさいよォ!!」

「お前ッ!? ちょ、落ち着け!! 何か変な目で見られてるだろうが!!」


 なんかギャンブルにハマるヒモ夫とケンカする奥さんみたいな、そんな雰囲気を醸し出す二人に冷ややかな視線が集まる。内容自体は間違ってないのがなんとも。

 その後ゼルはどうにかネクから逃れると、軽く咳払いしてから弁明するように声を張り上げて説明を始める。


「だから前に言ったように仕事だっつってんだろ。お前さんらに稼いでもらってる間、俺はワームの討伐作戦の方を進めてたんだよ」

「はァ!?」

「それなら、何で売り上げ金を持っていく必要が?」

「・・・ハァ、まぁちょうどいいか。ちょっと待ってろ、もうそろそろ集まる頃だ」

「集まるって何が・・・っ!?」


 意味深なゼルの言葉に首を傾げていると、その言葉に答えるようにぞろぞろと冒険者たちがギルドへと入り込んできた。それぞれが見知った仲のようにゼルと短く挨拶を交わすと、職員さんと協力して長テーブルを並べ替え始める。


「えっ、なにこれ?」

「! アカネさん、コボルトがいる」

「えぇっ!?」


 驚いてルビーちゃんの示した方を見ると、例のたれ耳コボルトくんが何故かそこに居た。いやマジで何で!? どういうこと?

 半分パニックになったあーしは寄ってきたコボルトくんにすらまともに挨拶を返せないでいると、隣で満足げにギルド内を見渡していたゼルがこう切り出した。


「そんじゃ始めるぞ。ボルケーノワーム討伐作戦、最終会議をな」

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