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異世界インスタ  作者: 五寸
第4章 狂宴のモンテローエ
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7話

 地上に戻るためにコボルトくんの集落へと案内してもらう事になったあーしたちは、ゼルを除いたあーしたちには少し小さめの、コボルトくんサイズの横穴を屈みながら進んでいた。腰やっちゃいそうコレ。


 坑道ダンジョンにはこういうコボルトだけが知っている通り道が無数にあるらしく、それらを使って上へ下へと安全かつ自由に行き来しているらしい。

 そんな裏道のターミナルとも言えるのが、今回あーしたちが案内された場所。コボルトの集落である。

 

「おぉー! 思ったより広いね!」


 細道を抜けた先で視界に入ったのは、放棄されたものを再利用しているらしい小さめの坑道。

 通路には木材と布で簡単に組み上げた寝床の列が並び、壁にはいくつもの壊れた採掘道具が立てかけられている。それらを修理するコボルトがいれば、修理された物を受け取って横穴の中に繰り出すコボルトがいたりと、人間たちと何ら変わりない生活がそこにあった。


「一応は部外者だってのに、警戒心ねえなこいつら」

「ここに案内された時点で、同族と認識されてるのかも」

「せめて同盟関係って言いなさいよぉ」


 苦々しい顔を浮かべたネクの事はお構いなしに、たれ耳のコボルトくんはさらに集落の奥へとあーしたちを連れて行く。進んで行くごとに集落にある施設も顔を出し、食事場のような場所や資材を溜めておく倉庫らしきもの、中にはちょっとした温泉のような所まであった。意外と充実してるなぁ。


 そんなコボルトの集落を歩きながら写真に収めていると、前を進んでいたゼルが急に止まって、少しつんのめるようにあーしも止まる。何事かと前を向けば、たれ耳くんたちと比べてかなり大きい、あーしたち人間サイズのコボルトが、仰々しい椅子に深々と座ってこっちを見下ろしていた。

 全身が白く長い毛に覆われたそのビジュアルは、説明なしにここの長老的存在であると理解させてくる。

 

「えっと、ルビーちゃん?」

「彼はこの集落のトップらしい。ここを通るにあたって挨拶だけしておいてほしいと言ってる」

「まぁ助けられた身だし、これくらいの筋は通さねえとな」


 以外にもゼルが先頭切って頭を下げ、それに続いてルビーちゃん、慌ててあーしと頭を下げる。なぜかネクは最後まで抵抗してたけど、あーしとルビーちゃんで力づくで押さえつけた。変なトコで変なプライド発揮しないでほしい。


 対してコボルト長老は何か反応を示すでもなく、深々と座ったまま未だあーしたちを見下ろしている。

 その威厳すら感じる堂々とした佇まいにちょっと気圧されていると、たれ耳のコボルトくんが長老の下へと近づき、ルビーちゃんに向かって何か合図を送った。あー、もしかして年齢的に声が小さいとか、そういうのだったのかな。


「何てルビーちゃん?」

「・・・寝てるって」

「「「なんじゃそりゃ!!」」」


 ハモったあーしたち三人のツッコミが集落の中に響き渡る。じゃあ今までのやりとりなんだったの。時間返して。


 それからコボルト長老が目覚めるまで時間を潰すことになったあーしたちは、丁度いいしお昼ごはんの準備を進める事にした。匂いで目が覚めるかもしんないしね。


 集落の調理場を貸してもらい、ルビーちゃんが転移のスクロールで調理器具と材料を呼び出すまでの間、あーしはざっと調理場の中を見渡してみる。

 岩を削り出して作ったらしいキッチンは、食材を切るための台所と簡単なかまどが備えられ、空いたスペースにコンロ代わりの焚火が用意されている。天井には再利用品らしき刃物が吊るされ、いかにも魔物のキッチンらしさが出ていた。いいじゃん、悪くないかも。


「アカネさん、全部届いた」

「ありがとールビーちゃん。じゃあ後はあーしがやるから、先に手洗っといで」

「もう洗った。ここで見てる」

「・・・つまみ食いはダメだよ?」

「ぎくっ!?」


 面白いぐらいのリアクションをしてくれたルビーちゃんを、ネクが糸で簀巻きにして連行する。空腹は最高のスパイス、もうちょい我慢してね。


「じゃあゼル、撮影お願いね」

「あいよ」


 残ったゼルにスマホを託して撮影を任せ、あーしはようやく調理に入る。といってもそこまで難しい手順でもないんだけど。


 まずは呼び出した鍋を焚火コンロに準備して、買っておいたモンテローエの温泉と、アルフィノエ産の昆布で出汁を作る。並行してお豆腐とネギを食べやすい大きさに切り分け、それを出汁の入った鍋に投入。あとは沸騰するのを待つだけ。

 

「よーっし、終わり!」

「速えな」

「まぁお手軽なレシピでやったからね。それに元々はダンジョンの中で作る予定だったし」

「そういえばそうだったな」


 気づけば予定と大分変わっている現状に、あーしとゼルはお互いに苦笑する。

 しばらくすると鍋の中から良い匂いが立ち登り、集落のコボルトたちが釣られるように調理場へと集まって来た。・・・あっ。


「ちょっとマズイかも・・・」

「どした?」

「いや、元々はたれ耳くんだけにご馳走する予定だったじゃん? だからこの数は足りないんじゃないかなって・・・」

「それなら心配ない」

「ちょっ、ルビー待ちなさっ・・・!」


 声のした方へと視線を向けると、同じように匂いに釣られたルビーちゃんが、糸で捕まえているネクごと引きずって調理場へと戻って来ていた。・・・これはネクが弱いのか、ルビーちゃんの執念が強いのかどっちだろう。どっちもか。


「そんなこともあろうかと、食材を少し多めに準備しておいた。ゼルさん」

「あいよ」

 

 簀巻き状態のルビーちゃんに頼まれたゼルは、いつの間にか隅っこに置かれていた風呂敷を開ける。その中から現れたのは、ピラミッド状に重ねられたお豆腐とその他食材多数。ちょっ!?


「いつの間に買ったのルビーちゃんコレ!? ていうか絶対自分が食べるためでしょ! てか多っ!?」

「いいじゃねえか別に。結果オーライだろ」

「いやっ・・・そうだけど! そうなんだけど!」

「アカネさん、湯豆腐が」

「えっ? あぁーーーーーっ!?」


 調理中にすら予想外の事態に見舞われつつも、あーしはルビーちゃんの機転? もあって、全員分の湯豆腐とプラスアルファの料理を準備することが出来た。結果、予定より疲れた。何これ。






 その後、ようやく起きてきたコボルト長老も入れての昼食会が始まった。

 嬉しいことにあーしの作った湯豆腐始め、料理の数々は大変評判が良く、途中から炊き出しの行列のような光景になっていた。おかげであーしはあんまり食べられなかったんだけど。


 そうして作った料理が順調に無くなってきた頃、あーしは今更ながらに本来の目的を思い出した。


「あっ、そうだ。あーしたちあの穴のこと聞きに来たんじゃん」

「あぁ、そういえばそうだったわねぇ」

「つってもまぁ、穴の行き先は身をもって体験してきたんだがな」


 ゼルの言う通り、あーしたちはあの穴に落とされた結果、例の地下神殿に迷い込み、そこでコボルトくんに助けられて今に至る。


 穴の先はもう分かった。なら次は、あの穴を作った犯人は何なのか。

 脳裏に浮かぶのは、地面が崩れる前に一瞬だけ見えた、超巨大な謎の物体。

 

「考えるまでも無いけど、あのでっかいヤツが犯人だよね。何なのアイツ? 魔物?」

「どうなんだルビー? その辺の情報もコボルトは仕入れ済みか?」

「ーーーーっ!」


パーティで唯一の通訳者であるルビーちゃんは、今は一人のフードファイターとして、その口にありったけの食べ物をかき込んでいた。・・・あの、ルビーちゃん? あーしたちここにご飯食べに来たんじゃないんだからね?


「ソレナラ、ワタシガ、オシエヨウ」

「おぉマジか、助かる」

「ありがとーです。えっと・・・」


 状況を察してくれたのか、心優しい誰かが説明役を買って出てくれた。その心遣いに感謝しつつ、若干カタコト気味の声の方へと振り向くと。


「アレハ、ボルケーノワーム、トイウ」

「「喋った!!?」」

「あらぁ」


 まさかのコボルト長老が、白い毛並みに隠された口をモゴモゴと動かしながら人間の言葉を話していた。え、マジで? 喋れんのあーしたちの言葉!?


「ワタシハ、ナガイキシタ。トリヒキスルウチ、オボエタ」

「お、おぉ・・・なんか、尊敬します・・・!」

「かしこい子たちとは思ってたけど、ここまでとはねぇ」

「ただのボケたジジイじゃヘブッ!?」


 息をするように失礼な言葉を吐きかけたゼルを先手を打って止める。ちょっと大人しくしてるなと思ったらこれだよ。

 それにしてもすごいなコボルト長老。学校行ってロクに英語喋れないあーしより数段頭良いと思う。マジで。


「・・・で? そのなんとかワームってなんなんだ?」


 あーしにシバかれた頭をさすりながら、ゼルが話を本題に戻す。


「ボルケーノワーム。ダンジョンノ、イチバンシタ、スミカ。コウセキヲ、タベル」

「! 鉱石を食べるって・・・!」

「なるほどなぁ。話が見えてきたぜ」


 コボルト長老から話を聞きながら、あーしたちは自分なりの推測を立てていく。


「ワームハ、ウエノコウセキモ、タベニキタ。ソレデ、マモノタチハ、オイダサレタ」

「で、その魔物どもが上層にまで出張ってきたって訳か」

「進出して来たんじゃなくて、追い出されたのねぇ」

「じゃあ、あーしたちを穴に落としたのは・・・」

「ワームの野郎の食事に巻き込まれたってとこだろうな。大方あの肩が抉れたミノタウロスも同じ理由だろ」


 ゼルのセリフを聞いて、たれ耳のコボルトくんを襲っていたミノタウロスを思い出す。言われてみればあの肩の傷、壁に付いてた痕跡と似てたかもしれない。


「つまりダンジョンの異変は全部、そのボルケーノワームが原因ってこと?」

「そうなるな」

「そうだとして、何であの子は上層に出てきたのかしらぁ? 今までは無かったのよねぇ?」

「リユウハ、ワカラナイ。ソコマデハ、シラベキレナイ」

「そりゃ住処に突入するようなもんだしな」

「でも原因が分かっただけ十分でしょ。後は冒険者で何とか出来るかもだし。ありがと、えっと・・・コボルトおじいちゃん」

「おじいちゃんてお前」

「ウム」

「いいのかよ」


 ゼルのツッコミを合図に一旦話を区切り、そろそろあーしたちもご飯を再開しようと食卓の方へと目を向ける。しかしそこに残っていたのは、洗った後のようにきれいになった食器と、パンパンにお腹を膨らましたルビーちゃんとコボルトたちが寝転がる姿だった。・・・せめて長老の分くらいは残しといてあげようよ。






 コボルトたちとの食事会兼情報交換を終えたあーしたちは、無事に集落からダンジョンの上層へと戻り、そこから歩いてようやくモンテローエへと戻ってきた。ちなみにコボルトくんたちにはフォロワーになってもらえた。やったね。


「んー! 風気持ちいー!」

「ほんと、すごく久しぶりに感じる」

「ついさっきまでマグマの近くに居たんだものねぇ」


 出迎えるように体を撫で付けてくれた風が、火照った体を涼やかに癒してくれる。やっぱ地上最高だわ、うん。


「どうする? てかもう温泉直行でいいよね?」

「賛成よぉ」

「賛成」

「賛成だ」


 短く確認を済ませたあーしたちは、とりあえず疲労回復に効く温泉を目指して重くなってきた足を動かす。後でマッサージ受けに行こうかな。


「にしてもボルケーノワームか。面倒なヤツに当たったな」


 移動中の暇潰しがてら、ゼルが思い出すようにワームの話を切り出す。ボルケーノワームについてはコボルトたちにとっても悩みのタネだったらしく、知っている情報の全てを教えてもらった。


「名前が示す通り、炎を身に纏う巨大なミミズ型の魔物。マグマの中すら平気で泳ぎ、しかもそれを吐き出してくる」

「一応聞くけど、倒せそう?」

「まともにやり合えればな。問題はどうやってそこに持ってくかだが」

「・・・どういうこと?」


 勝算があるのに苦い顔を浮かべるゼルにその理由を聞いてみる。しかし本人は攻略法を考えることに夢中になっているようで、代わりにルビーちゃんとネクが解説してくれた。


「今回のコボルト探しと同じよぉ。どうやって戦いの場に持っていくのか」

「今のワームの住処は、言ってしまえば坑道ダンジョン全体。見つけるだけでも一苦労な上にとても危険。最悪の場合、マグマまで叩き落される危険性もある」

「・・・よーく分かりました」


 灼熱の地獄を想像しながら、一瞬で汗が吹っ飛ぶような悪寒に襲われるあーし。うん、そりゃ危ないわマジで。

 アルフィノエの魔物漁でも体験させられたように、魔物との戦いにおいては、フィールドのアドバンテージも大きく関わってくる。今回は海とは違って狭い坑道、しかもその四方八方から襲われる危険性がある場所。・・・正直無理ゲーな気がしなくもない。


「だから対等に戦える場所まで引きずり出す。そこがスタートライン」

「なるほど・・・」

「まぁ、そこまでが一番難しいんだけどねぇ」

「じゃあ・・・食べ物で釣るとかどう? コボルトくんの時みたいに」

「アナタ・・・ちょっと生き物を単純に考えすぎよぉ?」

「それに、ワームの主食の鉱石は現状枯渇気味。そもそも今から採れるかどうか」

「そっかぁ・・・」


 いつものことながらスムーズに進まない物事にだんだんと気が沈んでくる。・・・あー、ダメダメ! 今考えてもしょうがない。そういうのも温泉でリラックスしてれば不意に思いつくでしょ。


 そうしてあーしが切り替えようとしていると、今まで静かに考え込んでいたゼルが不意に口を開いた。


「釣る、か・・・悪くねえな」

「えっ、なに?」

「お前ら、どうにかなるかもしんねえぞ」

「・・・何を企んでいるのかしらぁ」


 どうやら打開策を思いついたらしいゼルのその顔は、なぜか悪党のような邪悪な笑みに覆われていた。

 ・・・なんだろう、この懐かしい感じ。イヤな予感がする。

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