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異世界インスタ  作者: 五寸
第4章 狂宴のモンテローエ
78/117

5話

「みんな準備オッケー? 忘れ物とかないよね?」

「問題ねぇ」

「いつでもいい」

「大丈夫よぉ」

「よーっし! じゃあしゅっぱーつ!」


 高らかに出発の宣言をしたあーしは、向かいに立つルビーちゃんと協力して手漕ぎ式のトロッコを動かす。その様子をゼルに撮影してもらい、体力無さ自慢のネクが応援してくれる。


 お風呂場での会議から翌日。さっそくコボルトとの取引用に準備を済ませたあーしたちは、全ての謎を解き明かすために再び坑道ダンジョンへと足を運んだ。

 昨日のうちにあーしたち含む冒険者パーティが魔物の数を減らしたおかげか、鉱夫さんたちの活動範囲が昨日よりも広くなっていた。それに合わせて止められていたトロッコが再開し、途中までの道のりを大きくショートカットできるように。


 手漕ぎトロッコは初体験という事で、意気揚々とあーしが操縦役に名乗りを上げると、みんなどこか温かい視線でそれを譲ってくれた。特にネクなんかは満面の笑みで。

 その理由は、早々に明らかになった。


「ハァッ・・・ハァッ・・・しんどっ!?」

「そらお前、手漕ぎだからな」

「インスタグラマーのアカネさんには、きついかもしれない」

「言っておくけど、アタシは変わらないわよぉ」


 無慈悲なネクの言葉にムチ打たれたあーしは、重くなってきた腕を無理矢理動かしてレバーを上下させる。

 少し考えれば分かる事だけど、四人・・・実質三人を人力で運ぶんだから、しんどくない訳が無かった。興味本位でやるもんじゃないなコレ。

 そんなあーしに対してルビーちゃんは涼しい顔を浮かべたまま、一糸乱れぬペースでレバーを上下に動かし続けている。なんなら隣のレーンでは人に加えてたくさんの採掘道具を運んでいく鉱夫さんたちが次々にあーしたちを追い抜いていく始末。・・・化け物か何か?


「これ・・・普通に歩いた方が・・・楽だったんじゃ・・・?」

「そんな事ないわよぉ。その調子で帰りもお願いねぇ」

「ネクさんは走った方がいい。何なら今からでも」

「今から!? ルビーアナタ最近ちょっと辛辣過ぎない!?」


 焦ったようなネクの抗議の一切をスルーし、ルビーちゃんは黙々とトロッコ運転作業に戻る。たぶん八割くらいルビーちゃんの力で動いてるなこのトロッコ。


「お、そろそろ終点っぽいぞ」

「了解、アカネさん」

「わ、分かった・・・」


 後半はもう上下するレバーに手を添えるだけになっていたあーしは、ルビーちゃんに促されて足下のブレーキペダルをゆっくりと踏み込んでいく。そうして徐々にスピードを落としたトロッコは、乗換駅らしい場所の前で動きを止めた。

 重くなった両腕を振りながらトロッコから降りると、採掘道具を握った鉱夫さんたちの他に冒険者パーティもチラホラと目に入る。


「こっからが俺たちの仕事場だな」

「なんか、昨日よりも冒険者が多いね」

「あの穴ボコが見つかってギルドが斡旋したんだろ」

「穴が増える可能性があるなら、こっちも数を増やさないと」

「大本を叩かないと無意味だと思うけどねぇ」

「その為に来たんだろ。まずはコボルト探しからだな、行くぞ」

「ゼルさん、そっちは逆」


 めちゃくちゃカッコつけて先頭を切ったゼルの背中に、ガイドを持ったルビーちゃんの事務的な言葉が突き刺さる。・・・しょうがないよ、だってここほんとに迷路みたいなんだもん。

 あえて聞こえるようにプークスクスと笑うネクは完全にスルーし、ゼルは顔を見せないようにバックで進みながらあーしたちの後に続いた。それじゃあ殿は任せるね。






 ルビーちゃんを先頭に坑道ダンジョンを突き進んでしばらく。

 残念ながら未だコボルトのコの字も見つからなかった。それどころか。


「魔物は良いとして、鉱石ってここまで見つからないもんなの?」

「いや、他所者の俺様でもおかしいって分かるぜこりゃ」


 今まで歩いてきた道の全てにおいて、鉱石は一つたりとも見つけることが出来なかった。そしてやはりというかなんというか、代わりに残されていたのは抉り取ったような傷跡と例の穴。


「これじゃ安全圏が広がっても、鉱石が無いなら意味ないんじゃないの?」

「坑道ダンジョンの鉱石は、火の精霊の恵みによって周期的に生み出される。だからよほど取りすぎない限りは枯渇する事はない」

「今まさに枯渇しかかってると思うんだがな」

「思ったより大きい事態かもしれないわねぇ」


 薄暗い道を進みながら、割とマジな雰囲気で考え込み始めたあーしたち。といっても判断材料なんてほとんど無いようなもので、それを手に入れる為に会いに来たコボルトも見つからない訳で。


「取引材料ばっか考えてたけど、会うまでの事を考えとくべきだったね・・・」

「なんか食いもんで釣ったりできねえのか」

「釣れるのはルビーだけよぉ」

「・・・」

「否定しようよそこは!?」


 あーしのツッコミに続いて、「ちょっと言いすぎたかしらぁ・・・?」みたいな表情を浮かべながら心配そうに覗きこむネク。なんでゼル以外にはそんな繊細なの。

 その一切に反応することなく俯いていたルビーちゃんは、ついにはしゃがみ込んで地面の上を指でなぞり始めた。あれ、ルビーちゃんもそんな傷つきやすい方だったっけ? ・・・泣いたりしないよね?

 二人してあわあわしていると、そういう空気を一切読まない妖精が切り込む。


「何してんだよルビー。土いじりなら帰ってからやれ」

「違う。足跡を見つけた」

「マジか」

「「えっ」」


 思わずあーしとネクの声がハモる。どうやらコボルトの足跡を見つけたようで、それを一生懸命追っていたらしい。・・・うわあーしたちバカみたい。バカなんだけどさ。


「それと、他にコボルト以外の足跡と血痕。たぶん魔物。まだ新しい」

「それって・・・」

「魔物に狙われて、ついさっきここを通ったってとこか」

「ヤバいじゃんそれ!? 早く行かないと!」

「貴重な情報源だしな。ルビー、頼めるか」

「問題ない」


 ようやく見つけたコボルトの大ピンチを知り、大急ぎで足跡をたどっていくあーしたち。

 しばらくすると素人のあーしにも分かるくらい足跡がはっきりし始め、次いで道の先から激しくぶつかるような音が聞こえてきた。


「私が先行する。コボルトの救助を最優先に」

「魔物の方は任せとけ」

「がんばってルビーちゃん!」

「ハァッ・・・任せた、わよぉ・・・」

「今くらいバシッと決めてよ!」


 戦闘前に息切れしていたネクにツッコむのと同時にルビーちゃんが姿を消す。しばらくすると道の先から魔物の悲鳴がこだまし、ぶつかるような音がより激しさを増した。

 あーしはヘタりこみかけるネクを支えながら、ようやく現場に到着する。


「っ! ミノタウロス!」


 そこで視界に飛び込んできたのは、血みどろになりながら暴れ狂うミノタウロスと、それを華麗にジャンプでかわすルビーちゃんの姿。

 さっきの奇襲によるものなのか、ミノタウロスの両目からは血が噴き出し、右肩は大きく抉れて赤黒い血が流れ出している。うっわグロ・・・。


「なんだあの傷。ルビーがやったんじゃ・・・ねぇよなぁ?」

「私がやったのは目だけ。すでに手負いで気が立っていた」

「他の冒険者が仕留め損ねたってとこか? にしちゃあ傷跡が・・・」

「あとで考えよそれ! あのミノタウロスめっちゃ暴れてて超危ないし!」

「・・・手負いってのが今一ノリきれんが、しゃーねーか」


 ゼルはどこか気怠そうにゆっくりと進んでいくと、魔法で作り出した岩の右腕を振るい、暴れまわるミノタウロスを豪快に殴り飛ばす。

 ひと際大きい轟音が坑道の中に響いた後、それ以上ミノタウロスが暴れる事は無かった。


「これで終わりか? 物足りねえなぁ」

「それよりゼルさん。こっち」

「っ! コボルトが!」


 ルビーちゃんの声の方へ視線を向けると、この前のたれ耳のコボルトが腕から血を流して座り込んでいる姿が目に入った。さっきのミノタウロスにやられたんだろう。


「ゼッ、ゼル! お願い!」

「あいよ」


 慌てまくるあーしに対して何事でもなさそうに回復魔法を唱えるゼル。実際本当に大したことなかったのか、傷口はみるみるうちに塞がっていき、コボルトの顔にも生気が戻る。


「いっちょあがりだな」

「よかったー! 大丈夫?」


 コボルトは傷口とあーしたちを交互に見たあと、ぺこりと小さく頭を下げた。おぉ、なかなか紳士的。

 そのまま通訳のルビーちゃんと言葉を交わし、翻訳されたコボルト語をルビーちゃんが教えてくれる。


「最近ダンジョンに空いた穴を人間たちとの取引材料に調べていたら、魔物に見つかったらしい」

「たくましいやつだな」

「コボルトもけっこう命懸けなんだね・・・」


 今更ながら当たり前のことを再確認するあーし。コボルト側も冒険者に負けないくらい厳しい世界を生き抜いているんだろう。・・・そんな命がけの情報って聞くと、湯豆腐じゃ足りないんじゃないかな。


 今回コボルトが命がけで仕入れた情報は、タイミングよくあーしたちが求めていた例の穴に関する情報。厳しい交渉戦を予想していると、ルビーちゃんがコボルト通訳の続きを話し出した。


「それと、調査途中で手付かずの採掘ポイントを見つけて、さっきのお礼に教えてあげると言ってる」

「マジか!」

「ちょっと待って! それなら穴の情報について教えてもらった方がよくない?」

「なんでだよ、スクロール代も浮いていいじゃねえか」

「だけど、あの危ない穴の情報ってけっこう貴重なんじゃないの?」

「んなもんお前さんのドローンでいくらでも調べられるだろ」

「・・・あっ」


 そうだった、素で忘れてた。・・・てかもっと早く言ってよ。






「おおーーーーー!!」

 

 お礼と言われて垂れ耳のコボルトに案内されたのは、坑道ダンジョンの行き止まりの道。その一番奥で、岩の中に埋まった鉱石の数々が、松明の明かりに照らされて鈍く光り輝いていた。


「けっこうな数があんな。これなら一週間くらいなら遊んでられるんじゃねえか?」

「マジで!? じゃみんなでおいしいもの食べに行こうよ!」

「賛成!」

「うし、じゃあさっさと掘れクモ女」

「なんでアタシだけなのよぉ!?」


 不服そうにゼルに抗議したのは、採掘道具一式に身を包んだネク。普段から体が貧弱なせいか、どことなく体が重そうに見える。


「テメェさっき何もしてなかったろうが。キリキリ働け」

「あーしはトロッコ動かしたし」

「私はトロッコ、追跡、戦闘」

「そ、そんなぁ・・・」

「・・・ウソウソ冗談だって、手伝うから」


 完全アウェーで半泣きになっていたネクの顔がぱぁっと和らぐ。ちょろいなほんと。

 そうしてあーしたちの初めての採掘作業が始まり、あーしはつるはしで、ゼルは魔法で、ルビーちゃんは変身を駆使して、ネクは糸を使ってそれぞれ掘り進めていく。


「ちょっと待って。なんであーしだけ純粋な肉体労働?」

「あ? んなもん使えるもんはみんな使うだろ」

「インスタグラマーには何かないの?」

「何かって・・・撮影とか?」

「お前なぁ・・・」

「でもかっこよく掘れば、それはそれで伸びそうじゃない?」

「よっしゃ、いっちょ決めてやるか」

「アタシの時と扱いが違わないかしらぁ!?」


 まぁ黙々と掘り進めるだけってのもつまんないし、ちょっとしたエンタメ性がある方が面白いでしょ。

 とりあえず先鋒はゼルに任せてその全身をフレームに収めると、右腕に作り出した巨大な岩の拳を大きく振りかぶり、鉱石の眠る壁に向けて勢いよく打ち出した。


 その時だった。


「きゃあああああああああ!!?」

「何だ!?」

「地震・・・?」

「にしては揺れが・・・ひゃっ!?」


 ゼルの放った岩の拳が壁に激突した瞬間、立っていられないほどの激しい揺れがあーしたちに襲いかかった。

 しかもその揺れは収まることなく、それどころかあちこちから岩が砕けるような音が聞こえ始め、ついには天井から雨のように大きめの石が降り注いでくる。


「『シェル』! ・・・やべえなこいつは、ひとまず出るぞ!」

「でもっ、こんな揺れじゃ歩けな・・・」

「っ! ゼルさん前!」

「!?」


 ルビーちゃんの叫び声にあーしたちは揃って前を向けば、壁を突き破って現れた超巨大な赤黒い何かが、反対側の壁を突き破ってその中へと潜り込んでいくのが見えた。そしてそこに残されたのは、最近よく見る例の穴。


「もしかして、今のが!?」

「分析は後だ! 早く逃げるぞ!」

「待って、足場がっ・・・!?」

「「「!?」」」


 ネクの言葉を聞いて下を向いた頃にはもう遅く、地面いっぱいにヒビが広がったかと思えば、一気に粉々になってあーしたちは重力に足を取られた。

 瓦礫に混じって落下する最中、あーしはもはや悲鳴をあげることすらできず、意識すらも闇の中へと落ちていってしまった。

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