4話
「それでは、採掘及び納品クエストの方は失敗という事で・・・よろしいですか?」
「はい・・・すみません」
「いえいえ、謝らないでください! 深層の魔物を退治してくれただけでも大助かりですから!」
そう言ってあーしを励ましてくれるのは、モンテローエのギルドで働いている職員のお姉さん。
今の会話の内容通り、あーしたちは鉱石の納品クエストを達成する事が出来なかった。
何故なら、ルビーちゃんに案内された場所にあるはずだった鉱石が、いつの間にか全て無くなっていたから。
あーしは討伐クエストの報酬だけを受け取り、テーブル席で待っているみんなの下へと戻る。
「ハイ、これ討伐分の報酬ね」
「予定ではこれに納品分も上乗せされるはずだったんだがなぁ」
「・・・ごめんなさい」
「いやいや、ルビーちゃんが謝る事ないよ」
「場所から考えて先客が来たとは考えにくいし、それに人の手で掘られた様にも見えなかったしねぇ」
あーしはネクのセリフを聞いて、坑道ダンジョンで撮った写真をフォルダから呼び出す。
スマホの画面に映るのは、ルビーちゃんに案内された鉱石の採掘ポイント。・・・だった場所。その壁面はつるはしで掘ったような跡じゃなく、何か太く鋭いもので根こそぎ抉り取られたような痕跡が残されていた。
「コボルトの野郎がネコババしたにしちゃぁ、痕跡が大規模すぎるよなぁ」
「そもそもコボルトは、根こそぎ取るような真似はしない」
「そういえばあの子はどこ行ったの? たれ耳のあの子。いつの間にかいなくなってたけど」
「普通に逃げたんじゃないかしらぁ。取引は案内だから、それ以上付き合う義理はない訳だし」
「あーそっか。逃げられたならいいや」
そもそも坑道ダンジョンが家みたいなもんだし、逃げ道ならあーしたちよりよっぽど詳しいもんね。
「つーか今ある情報じゃ何も分かんねーだろ。それより風呂行こうぜ、汗流してぇ」
「さんせぇい。アタシも服がベタベタ張り付いて気持ち悪いのよぉ」
「そんな薄い服着てたら当たり前」
「ていうかめっちゃ見られてるから。ちょっとは隠しなよネク」
「ウフフ、見せてるからいいのよぉ」
とんでもない痴女発言きましたよコレ。同じパーティのあーしたちの事も考えて欲しい。
ていうか、結局二人は気が合うのね。
報告を終えてギルドを後にしたあーしたちは、ダンジョン後の疲れを癒すために、ジェットバスが体験できるスパ施設にやってきた。
異世界にジェットバスがあるって聞いて最初はめちゃくちゃびっくりしたけど、ルビーちゃん曰く魔法を使ってるとのこと。よく考えたら戦闘に使えるんだから、ジェットバスくらい出来てもおかしくないか。
「「あぁぁ~~~~~~」」
この前の露天風呂と同じように、あーしとネクの気の抜けた声がお風呂場の中に小さく響く。ただし今回は他のお客さんもいるからあんまり羽目は外せないけど。
「あぁ~~効くわねぇ~~~」
「ネク大きいし、やっぱ肩が一番くる?」
「そうねぇ、後は最近足腰もちょっと・・・」
「弱すぎるでしょそれ。おばあちゃんじゃないんだから」
「だってぇ、ルビーが最近きびしいんだものぉ・・・」
「ねくさんは・・・もっと・・・きたえないと・・・だめ」
ネクの愚痴に対して途切れ途切れに反論してきたのは、あーしの左隣でとろけきっているルビーちゃん。お湯に浸かりながら体をほぐされたのが初めてだったのか、入って数秒も経たないうちにこうなってしまった。いつものキリッとした顔がふにゃふにゃのお餅みたいになっていて大変かわいらしいけど、温泉内での撮影は厳禁のため、あーしの脳内フォルダに収めるしかない。今度家族風呂に誘おうかな。
「それと・・・あのあなも・・・きになる」
「あの魔物がめっちゃ出てきたやつでしょ? なんだったんだろねアレ」
「一応はアタシと彼で埋めておいたけど、たぶん無意味でしょうねぇ」
今回の坑道ダンジョンの異変の原因を作った、深層の魔物が現れた謎の穴。
拠点跡に残されていた穴は、あーしがギルド提出用に写真を撮ってからネクの糸とゼルの魔法で全部閉じてもらい、あの時はそれで万事解決と思い込んでたんだけど、その後ルビーちゃんに案内された採掘スポットでそうではないと悟らされた。
あそこには、鉱石を根こそぎ抉り取るような痕跡の他に、拠点跡にあったのと全く同じ穴が一つ開いていたから。
となれば恐らく、あの穴は坑道ダンジョンの至る所に開いていて、もしかしたら今も増え続けているかもしれない。
「もしかして今回のも魔王軍の仕業だったりする?」
「無くはないかもだけど、いまいち目的が掴めないわねぇ。人類側に打撃を与えるほどでもないし」
「そっかー。うーん・・・」
「それも・・・こぼるとに・・・きけばいい」
「そっか! その手があった!」
「ていうかいい加減その喋り方やめなさいよぉ。やり辛いわぁ」
「む・・・り・・・」
なんかもう死にかけみたいな状態になっちゃったルビーちゃんは放っておき、とりあえずネクと二人で今後の会議を進める。ちなみにゼルは男湯。
「コボルトに聞くとなると、取引用のお土産がいるよね? 何がいいと思う?」
「食料ならなんでもいいんじゃないのぉ? ていうか何でちょっと楽しそうなのよぉ」
「えー、だってどうせあげるなら喜んでもらえる方がいいじゃん? それでフォロワーになってくれたら最高じゃん?」
「そっちが本音って訳ねぇ・・・」
苦笑いを浮かべてやれやれと首を振るネク。そりゃもちろん、インスタグラマーですから。むしろコボルトのフォロワーとかそれだけでバズりそうだし。・・・あーし以外スマホ持ってないけど。
「やっぱモンテローエの特産品かな?」
「そういうのは他の冒険者がすでにあげてると思うわよぉ」
「あー、なるほどそっか。じゃあ、うーん・・・もうあーしが何か作っちゃおっか」
「アカネさんが作るの!?」
「うわっ!?」
「ひゃっ!?」
とろけ餅から一転飛び起きてきたルビーちゃんに思わず抱き合って驚くあーしとネク。・・・びっくりしたー。
「・・・もぉー、人がリラックスしてる時に脅かさないでちょうだいなぁ」
「何を作るのアカネさん!?」
「えっ? えーっと、それを今から決めようってところかな」
「なら私からリクエストがある!」
「言っとくけどコボルトにあげるんだからね?」
「・・・聞きなさいよぉ」
完全に無視されて涙目になったネクも入れて、対コボルト用アカネちゃんクッキング対策会議が開かれた。名前長いなこれ。
最初に提案してきたのはもちろんこの子。
「はい! 私はシチューとパスタとパエリアと焼き鳥とオムライスと」
「ストップストップルビーちゃん! そんなに作れないから。それにコボルトたちの好みもあると思うし」
「コボルトは雑食。それに食べられなかった分は私が食べる」
「・・・何がこの子をここまで突き動かすのかしらぁ?」
「アハハ、まぁあーしとしては嬉しいけどね」
氷桜のシチュー以来、ルビーちゃんはあーしの手料理をとても気に入ってくれている。といってもせいぜい遠出した時くらいしか作らないんだけど。
あーしはやんわりとルビーちゃんの提案を断りつつ、ネクの方へ視線を滑らせる。
「そうねぇ・・・湯豆腐とかどうかしら」
「あー、いいね! ちょうどここ温泉だし」
「お肌にも良くて最高よねぇ」
「じゃあそれもさっきのレパートリーに」
「加えないから。そっちはまた今度作ってあげるから我慢して、ね?」
「・・・分かった」
ちょっと残念そうにしながらもルビーちゃんは承諾してくれた。かわいそうだし今晩は好きなもの作ってあげよっかな。
「あとは材料だけど、どこのがいいかな?」
「おいしい湯豆腐のお店はすでにリサーチ済み。専用の温泉を売ってくれる所もある」
「さっすがルビーちゃん! 頼りになるぅ!」
「いつの間に仕入れたのよぉ。まだここに来て日も浅いのに・・・」
底の見えないルビーちゃんの食への探求心に、ネクがうっすらと引いた表情を浮かべる。まぁルビーちゃんらしいっちゃらしいでしょ。
「調理器具は自前のでいいとして、ダンジョンの中に持ってって大丈夫かなぁ。とうふ崩れちゃったらヤだし」
「討伐報酬も入ったし、転移のスクロールを買おう」
「そだね、そうしよっか」
「ええっ!? そんなことのために使うのぉ!?」
「前もそうしたし、ねぇ?」
「うん」
「アナタたちを侮ってたわぁ・・・」
あーしとルビーちゃんを交互に見てさらにドン引いた様子のネク。そういや氷桜の時はネクいなかったもんね。まぁその時使ったのも魔王軍からの支給品なんだけど。
「そんじゃ予定もメニューも決まりってことで。お風呂上がったら帰りに買ってこっか」
「了解」
「・・・分かったわぁ」
「あっそうだ、ルビーちゃん何食べたい? 今日は好きなの作ったげる」
「いいの!?」
「・・・でもあんまり多いのはダメだからね? スクロール買えなくなっちゃうから」
「分かった!」
そう言うとルビーちゃんはご機嫌な様子で肩まで湯船に浸かり直す。かわいいなもう。多少のわがままなら許しちゃうかも。
「そういえばアタシたちだけで決めちゃったけど、彼のことはいいのぉ?」
「たぶん大丈夫でしょ。ゼルだし」
「適当ねぇ・・・」
「ダンジョン行きならゼルも文句言わないって。なんなら今も儲け話聞き出してるかもだし」
「あり得るわねぇ・・・今まさに男湯で冒険者たちと」
「あっちいいいいいいいいいいいいいいいいい!!?」
「「「!?」」」
あーしとネクの会話を遮ったのは、突如聞こえてきたゼルのけたたましい叫び声。
何事かと男湯女湯を隔てている壁の方まで移動すると、壁の向こうからくぐもったチンピラボイスが聞こえてきた。
「あァーあっちいなチキショウ、ふざけやがってこのヤロー」
「ゼッ、ゼル? どうしたの?」
「あ? あぁアカネか。んだよ覗きか?」
「違うから! すんごい叫び声がしたから心配してきたの!」
「あーそっちか。それはだな・・・いや、何でもねえよ」
「? 何でもないことないで・・・っ!?」
ゼルの思わせぶりな態度を問い詰めようとしたところで、お湯に浸かった太ももから下に違和感を覚えた。
足先からどんどんとピリピリとした刺激が高まっていき、最終的には刺すような痛みに変わる。
つまり。
「あっちゃああああああああああああああ!!?」
あーしは半狂乱になりながら、ゼルと同じような叫び声をあげてお風呂から飛び出す。事前に脱出していた二人に見守られながら、あーしはお笑い芸人のように慌てながら水風呂へと飛び込んだ。
「なにこれなにこれ!? どうなってんの!?」
「前に言われてたじゃなぁい。最近温泉が突然熱くなることがあるってぇ」
「ゼルさんの叫び声で大体察しがついた」
「なら教えてよ!! なんで半笑いで見守ってるかなぁ!?」
「「映えると思って」」
「カメラないから!!」
そう二人にツッコミながら、さっきのゼルの思わせぶりな態度を思い出す。分かっててやったなあのエセ妖精・・・!!
あーしは今晩のメニューをみんなが嫌いなものに変更してやろうかなと考えつつ、薄目でちらりと熱湯風呂と化したジェットバスを見る。
もしかしてこれもあの穴が関係してたりとか、さすがにそれはない・・・よね?




