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異世界インスタ  作者: 五寸
第4章 狂宴のモンテローエ
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3話

 コボルトとの取引で案内を頼んだあーしたちは、全員揃って温泉まんじゅうをかじりながら坑道を進んでいた。おいしいなこれ。


「すごいねあの子。地図も見ないで進んでる」

「言っちまえば、ここはコボルトの家だからな。誰よりも詳しいし、新しい情報にも敏感って訳だ」

「つまり、地元案内みたいなカンジ?」

「まぁ、そうなるな」

「一気に緊張感が抜けるわねぇ」


 温泉まんじゅうを食べながら、地元民に目的の場所まで案内してもらう。こう言うととてもダンジョン探索に来ているとは思えない。ましてや危険な魔物退治とかカスリもしないだろうなぁ。


 ゼルの見立てでは、深層から上層まで出張ってきた魔物は、ミノタウロスとヘルハウンドの二種類。

 どちらも強く素早い強敵との事で、いつでも対処できるよう前方はゼルが、後方はルビーちゃんが見張ってくれている。まんじゅう頬張りながら。


 そしてもう一つの目的として、放棄された坑道での採掘と納品クエストがあるんだけど、これがどうも幸先が良くなかった。というのも。


「全然鉱石ないね・・・」

「話が違うじゃなぁい」

「俺に言うなよ」


 そう愚痴ってしまうほど、坑道には鉱石のかけらも残っていなかった。

 行く先々で目に映るのは、ただただくすんだ岩の壁だけ。そこそこ張り切って用意した採掘道具一式も、歩を進める度に重くなっているように感じてしまう。


「たぶん、私たちより先に来たパーティが採っていったんだと思う」


 ルビーちゃんの予想を聞いて、そういえばと他のパーティがちらほら居たのを思い出す。でもあーしたちと同じ道を選んだパーティは居なかったはずだけど、もしかしたらあーしたちが来る前に出発してたんだろうか。


「ここに無くても奥に行けば残ってんだろ。なんならコボルトに聞いてもいいしな」

「それ最終的に深層まで行くなんてオチにはならないわよねぇ・・・?」

「行くぞ」

「せめて何か言いなさいよぉ!?」


 青い顔をしてゼルに抗議するネクを見て、あーしもうっすらと背筋が冷える感覚を覚えた。あーしたちのパーティはそういうところがあるから、無いとは断言できないのがもう、ね。

 

 そんなあーしたちのやり取りはお構いなしに進んでいたコボルトが、不意にその足を止めた。


「あれ、どしたん?」

「どうやら着いたっぽいな。全員気ぃ引き締めろ」

「っ! わ、分かった」

「了解」

「やっと休憩できるわねぇ」


 ボケなのか本気なのか分からないネクの呟きはスルーして、ゼルの後ろから覗き込むように前を見ると少し広めの空間が視界に入る。

 元々は鉱夫たちの拠点か何かだったのか、そこには放棄された採掘道具や簡単な調理器具、黒くなった焚火の跡なんかが残されていた。


 そんな中で一際目立つのは、至る所で口を開けた大きな穴。

 更に枝分かれした道かと思えばそうではなく、地面や天井にも同じように大きな穴が開いており、得体の知れない不気味さを醸し出している。


「な、何ここ・・・ここに魔物が居るの? てか何あの穴?」

「あれは地図にも載ってない。恐らく、最近開けられたもの」

「最近ってーとつまり・・・お前らのことだよなァ」


 いきなり名指しするようなゼルのセリフが聞こえたかと思えば、その呼び掛けに応えるように、穴という穴の中からぞろぞろと魔物が顔を出した。一方では二足歩行の牛の魔物が鼻息荒く大斧を引っ提げ、もう一方では線の細い黒犬が荒い呼吸の代わりに炎を漏らしている。

 間違いない、あれがミノタウロスとヘルハウンドだ。ただ・・・。


「なんか多くない!?」

「これは骨が折れそうねぇ・・・」


 ぞろぞろと巣から出てくるアリのように現れた魔物たちは、気づいた頃にはこの空間をほとんど埋め尽くすほどの数になっていた。


「ハッ! 面白ェ! 全員まとめてかかってこいよ!」

「ちょっ、余計なこと言わなくていいから!?」

「もう遅い。来る」

「ひぇええええええ!?」


 ゼルの挑発が通じてしまったのか、ミノタウロスの群れは機関車のように鼻息を吹き出し、ラグビー選手よろしく地面を豪快に蹴ってタックルをかましてきた。


「レイヤードマジック『三重シェル』!!」


 狭い空間を埋め尽くすほどの物量で迫ってきた猛烈なタックルを、ゼルの張った三重の壁の魔法が受け止める。しかしミノタウロスはそれでも足を止めることなく、力づくで打ち破ろうと何度もタックルを繰り返してくる。


「力比べか、上等だぜ! 『アドバンスシェル』!」


 火が点いたゼルは壁の魔法を撃ち出し、筋肉の壁のようなミノタウロスたちをまとめて吹き飛ばした。さらっとやったけどすごいな今の。

 しかし脳の中身まではレベルアップしてなかったのか、ゼルは自分を強化する魔法を唱えると、そのままミノタウロスの群れに向かって生身で飛び込んでいく。・・・大丈夫かなアレ。


「心配するのはいいけど、自分のことも疎かにしちゃダメよぉ」

「っ! そうだった・・・ってルビーちゃんは?」

「もう仕事中よぉ。牛の群れは彼が引き受けてくれるみたいだし、アタシたちは犬のしつけを済ませましょう」

「しつけって、そんなかわいいもんじゃないでしょ・・・ってひゃあっ!?」


 どこか気の抜ける会話を交わしていたあーしたちに向かって、ヘルハウンドの一匹がヨダレの代わりに炎を撒き散らしながら飛びかかってきた。反射的に体を庇うように腕を持ち上げると、その腕の隙間から、ヘルハウンドの頭と胴体が切り離されたのが僅かに見えた。


「! ありがとルビーちゃん!」

「気にしないで。それよりネクさん、準備は終わった」

「ご苦労様ルビー。あとはアタシの仕事ねぇ」


 いつの間に作戦を立てていたのか、元魔王軍の二人は短く言葉を交わすと、ルビーちゃんは再び姿を消し、ネクは自分たちを囲むヘルハウンドの群れを余裕たっぷりの笑みを浮かべながら見回す。


「しつけの時間よぉ。いらっしゃぁい」


 ネクはゼルと同じように挑発すると、それを合図にヘルハウンドの群れが一斉に飛びかかってきた。

 何か勝算があるとはいえ、火を吐く犬の魔物に四方八方から飛びかかられるという状況に思わず体を強張らせると、なぜかヘルハウンドの群れも同じように強張ったまま動かなくなった。


 しかも、あーしたちに飛び掛かってきた、その空中で。


「えっ、何これ・・・?」

「ハイド中のルビーに極細の糸を張らせたのよぉ。ラクティスで使ったのと一緒ねぇ」

「あぁー! アレね!」


 そう言われて思い出す、ラクティスを陥落寸前まで追いやったネクの極細の糸のトラップ。笑って思い出す内容じゃないんだけど、それが味方となるとこうも心強いとは。

 さらにネクの糸には魔力を吸収する効果もあり、必死に火を吐こうともがくヘルハウンドの口からは、黒こげた煙のようなものしか出てこない。

 そんなヘルハウンドの首筋を優しく撫でながら、ネクは挑発するように耳元でささやく。


「ウッフフ。アナタたちの魔力、一滴残らずアタシが頂いちゃうわねぇ」


 完全に自分の支配下に置いたからか、まるで女王のようにSっぷりを発揮するネク。楽しんでるとこ悪いけど、それ言葉通じてるんだろうか。

 そんなあーしの視線はお構いなしにネクは自分の世界に浸っていると、横から飛んできた筋肉の塊に、支配下に置いたヘルハウンドの群れを蹴散らされた。


「犬コロ相手に何調子こいてんだクモ女」

「アナタにだけは言われたくないわねェ!? ていうかわざとやったのかしらァ!?」


 お楽しみの時間を邪魔されて大層ご立腹なネクは完全にスルーし、ゼルは残ったミノタウロスとの戦闘に戻る。どうやらあえて岩の拳だけでの肉弾戦を楽しんでいるらしく、その顔にはどこぞの戦闘民族のような笑顔が浮かんでいる。


 それが気に入らなかったのか、ネクはキレたまま引きつった笑顔を浮かべ、糸から解放されたヘルハウンドたちの方へと視線を戻す。

 ヘルハウンド側も怒っているのか、示し合わせたように群れ全体で口の中にほとばしる炎を溜め始め、今まさにそれを吐き出そうとしたその時、ネクの糸が群れ全体の頭を回れ右させた。

 その先に居るのは、今もミノタウロスたちと殴り合うゼル。ちょっ!?


「死になさァい!!」

「あァ!? うおっ!?」


 ネクの言葉に半ギレで振り向いたゼルは、突如襲ってきた炎の濁流に飲み込まれた。

 薄暗い坑道の中を赤く照らし出す程の熱量を誇っていたその炎は、さっきまで猛烈に拳を振るっていたミノタウロスを真っ黒に焼き焦がし、坑道の壁すらも赤く変色させた。


 その中から唯一無傷で現れたのは、壁の魔法に包まれたゼルただ一人。

 瞳孔が開くぐらいブチ切れたその視線は、炎を吐いたヘルハウンドではなく、その奥で忌々し気に舌打ちするネクを真っ直ぐに捉えて離さない。


 えーっと、その・・・。


「あの、二人ともその辺に・・・」

「どうやらここで決着をつける必要があるみてぇだなクモ女ァ・・・!」

「アナタと意見が合うのは癪だけどォ、今日で終わりに出来るなら喜んで受け入れるわァ・・・!」


 殺意というドス黒い炎を燃やして互いを睨み合う二人に、ヘルハウンドたちもさすがに困惑したのか右左を交互に見ながら出方を伺う。

 そんな隙を決して見逃さない優秀なアサシンが、炎を吹き消す風のようにヘルハウンドたちの首を切り裂いていった。・・・もうあの二人もやってくれないかな。


「お疲れルビーちゃん。おやつ食べる?」

「食べる。ありがとう。あと、敵はもういない。穴の方も調べた」

「さっすがルビーちゃん! ・・・ほんとさすがだよ」


 二人でちらりと視線を流せば、いよいよ本格的に取っ組み合いを始めた虫コンビが目に入る。少年マンガならあのあと無二の親友になったりするんだけど、あの二人はそうならないから質が悪い。


「そういえば、穴の先はどうなってたか分かった?」

「ごめんなさい、深すぎて調べきれなかった。その代わり、鉱石がたくさんある場所を見つけられた」

「おお! ナイスルビーちゃん!」

「よっしゃ、行くぞお前ら」

「グズグズしてないで早く行くわよぉ」

「「・・・・・・」」


 なんなんこの二人。もうどういう脳の回路してんのか全然分かんない。たぶんもう坑道の地図の方が分かりやすいんじゃないかな。

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