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異世界インスタ  作者: 五寸
第4章 狂宴のモンテローエ
75/117

2話

 温泉巡りから翌日の朝。あーしたちは予定通り坑道ダンジョンへと繰り出していた。


 モンテローエ火山を少し登った先にあるこの場所は、ダンジョンという割には普通の作業着を着たおじさんたちが普通に出入りしていて、魔物ひしめく危険なダンジョンという雰囲気は一切感じない。

 といってもこれは入り口付近までの光景らしく、ここからどんどんと奥深くまで進んで行けば、凶悪な魔物が顔を出すようになるとのこと。


 そして今回の冒険先が坑道ダンジョンという事で、ヘルメットやつるはし一式を装着して突入する事になった。・・・あーしだけ。


「何であーしだけ?」

「俺たちゃ自力で何とかなるからな」

「アタシは重い物持てないしぃ」

「もっとマシな言い訳してよ!?」


 そんなしょうもない会話が坑道の中で反響し、ほの暗い道の先へと吸い込まれていく。


 今回の目的は、坑道ダンジョンの上層まで出張ってきた深層の魔物の討伐と、それによって放棄されてしまった坑道での採掘及び納品。採掘量が減ったぶん鉱石の値段が上がっているらしく、それに乗っかって稼いでしまおうという魂胆だ。昨日来たばっかでよくそこまで情報集められたなゼル。


 登山道の途中で大きく口を開けていた坑道ダンジョンの入り口から入り、作業場をすり抜けるように進んでからしばらく。奥へと続く道は思ってたよりもずっと広く、馬車がすれ違うくらいなら出来そうなくらい高さと幅に余裕があった。その壁面や天井には木材で組まれた支えのような物が沿うように建てられている。あれで坑道を補強してるのかな?


 元の世界でも体験した事のない坑道探索に一人ワクワクしながら、採掘に勤しんでいたり砂利や石を運んでいたりする人々の生活風景を写真に収めつつ、等間隔に置かれた松明に照らされた道を進んで行く。

 気付いた頃には入り口付近の人の活気が遠く響くようになり、小さな吐息すら耳に残るほどの静けさがあーしたちを包み込んでいた。


 そんな中で唐突に現れたのは、立入禁止の立て看板。

 何か武器をもったような魔物のイラストが描かれていて、『魔物出没につき、冒険者以外立入禁止!』と書いてある。

 つまり、ここから先があーしたちの仕事場という訳だ。


「ようやくか。近くまで出張ってきたっつーもんだから、入口あたりでドンパチしてるのかと思ってたぜ」

「それもう緊急クエスト案件じゃないの? 金稼ぎどころじゃ無いし」

「坑道ダンジョンは広く深い。むしろ本来は、深層の魔物に会う事の方が骨が折れる」

「潜るほど熱くなるらしいからねぇ。こういう機会でもなかったら遠慮したいところだわぁ」


 適当な会話を交わしながら、立て看板をすり抜けて先へ進む。

 するとひと際広い空間に辿り着き、そこで何やら話し込んでいる複数のパーティと鉢合わせた。どうやらここから更に道が枝分かれしているらしく、どの道を選ぶか話し合っている様子。


「分かれ道かー。どうする?」

「お前さんガイド持ってたろ。それで調べてみろよ」

「あっ、そうだね」


 ゼルに言われてあーしはポーチからガイドブックを取り出す。やたらデカデカと描かれた完全攻略の表紙を素早くめくり、とりあえずダンジョンの地図を広げて見せる。


「あーしたちが今いるのは・・・どこだろ?」

「ここ」

「アカネ、お前・・・」

「しゃっ、しゃーないじゃん! だってあんまり地図とか見ないんだもん!」

「アタシたち一流を名乗っていい冒険者になったのよねぇ・・・?」


 二人に白い目を向けられて顔が熱くなるのを感じながら、あーしは地図とにらめっこしているルビーちゃんへと助けを求める。


「どっ、どうルビーちゃん?」

「道自体はどれを選んでも一緒。最終的にはまた広い空間で合流するようになってる」

「えっ、じゃあ悩む必要なくない?」

「道ごとに出てくる魔物が違うんだろ」

「ゼルさんの言う通り。そこに深層の魔物が加わるから、パーティと相談して選ぶ必要がある」

「なるほどー」


 久しぶりに真面目な作戦会議をやった気がする。それはそれでどうなの。

 そうして他のパーティと同じように、ガイドに乗ってる情報とメンバーのクラスを照らし合わせた結果、一番安全そうな道を進むことに決まった。色々言っておいて結局は安全第一である。


「私が殿を務めるから、アカネさんはドローンで斥候をお願い」

「りょーかーい」


 あーしはルビーちゃんとネクに挟まれながら、ドローンを呼び出して少し前の方へと送り込む。スマホの画面には後光で更に照らし出された坑道の先がはっきりと映し出され、その先にはまだ魔物が居ない事を知らせてくれる。


「ねー、そういや深層の魔物ってどんなやつなの?」


 スマホで偵察中のあーしに変わってガイド確認担当になったネクに聞いてみる。ちなみにゼルは先頭で盾役。


「ちょっと待ってねぇ・・・えっとぉ、マグマゴーレム、ミノタウロス、ヘルハウンド。主にこの三種が深層の魔物として有名みたいねぇ」


 ペラペラとページをめくったネクの口から、やたらと物騒な名前が飛び出してくる。そういうのに疎いあーしでも何となくわかる。その手の名前はファンタジーでもラストの方に出てくるやつだ。てかマグマゴーレムて。触れないじゃん。勝てないじゃん。


「そいつらの中で言うと、ミノタウロスとヘルハウンドが出張ってきた連中か」

「えっ、分かるの?」

「ゴーレムは基本動かない。自分のテリトリーに入ってきた外敵だけを追い払う」

「あー、そういえばそうだったかも」


 言われて氷桜の時のゴーレムを思い出す。まぁアレはネクが作ってたやつだからちょっと違うかもしれないけど。

 

「じゃあゴーレム以外のやつはどんな魔物なの?」

「ミノタウロスは、筋骨隆々の牛の魔物。力が強くて足も速い。さらに武器も使ってくる強敵」

「ヘルハウンドはあれだ。犬だ。火ぃ吹いてくる犬」

「説明雑ッ!?」

「シンプルなのにどうしてこうも印象が違うのかしらぁ・・・」


 ネクの呟きにあーしも静かに頷く。まぁ要点さえ押さえてあればそれでいいかもしんないけど。

 そんな風に少し気が抜けてきたところで、ドローンのカメラが前方に居る何者かにピントを合わせ始めた。あーしの体に一気に緊張が走り、囁き声でみんなに知らせる。


「みんな止まって! なんか居る・・・」

「っ!」

「ようやくお出ましか。どいつだ?」

「えっと・・・人間サイズだから・・・あれ、作業着着てる」


 恐る恐るドローンを近づけていくと、入り口付近で働いていた人たちと同じ作業服が照らし出された。他にも五人ほど同じ格好の人たちが立ち尽くしていて、一様に道の先を見つめたまま固まっている。何かあったのかな?


「こいつらは・・・」

「とりあえず何してるのか聞いてみようよ。すいませーん!」

「待ってアカネさん!」

「オイバカッ!」

「えっ?」


 慌てて止めてきた二人の声に振り向くと、焦ったような表情を浮かべる二人と、その奥で呆れたように首を振るネクの顔が目に入った。えっ、あーしなんかマズった・・・?

 恐る恐るスマホの画面をもう一度確認すると、同じように作業着姿の人たちも振り返っていた所だった。


 そこに映し出されたのは、ヘルメットをかぶった真っ白なガイコツ。


 鉱夫のスケルトンたちはドローンに向かって歯をカチカチと打ち鳴らすと、その奥から声をかけたあーしに向かって一斉に走り寄ってきた。


「いぃぎゃああああああああああああああ!!?」

「いきなり声かけるやつがあるか! 行くぞお前ら、『アーマーライズ』!」

「了解」

「頑張ってねぇ」

「テメェも手伝うんだよ!」


 ツッコみながらスケルトンの群れに突っ込んだゼルに続き、気怠そうに放たれたネクの糸と、陰に潜んだルビーちゃんの刃が迎え撃つ。さすがにレベルも上がったからか特に手こずったりすることも無く、ゼルが蹴散らし、ネクが捕らえ、ルビーちゃんが始末していった。

 それでも警戒を解く事なく、三人はあーしを囲みながら周囲に注意を向ける。


「他には見当たらんが、どうだルビー?」

「気配は感じない。だけど油断は禁物。アカネさん」

「ごっ、ごめん」

「そうじゃなくて、ドローンを」

「あっ、そっちか」


 ルビーちゃんに促されてあーしはもう一度ドローンの操縦に戻る。画面一杯に移ったガイコツの顔に若干トラウマを憶えつつ、あーしは薄暗い坑道の先へとドローンを送った。


「とりあえずはもう居ないっぽいね・・・。ていうかマジでビックリしたー、作業服着てるとかフツー分かんないって。何アレ? コスプレ?」

「んな訳あるか。十中八九ここでくたばった奴の成れの果てだ」

「えっ、マジで・・・?」

「ダンジョンだものぉ。採掘業で栄えてるといっても、そこは変わらないわぁ」

「イヤなとこだけリアルだよねほんと・・・っ!?」


 ダークな部分だけ妙にリアルな異世界事情に眉を歪めていると、偵察していたドローンが道の奥に何か毛深い物体を捉えた。曲がり角の影に隠れていた

それは、隠しきれていない垂れ耳を揺らしながらこっちを覗いてきている。

 毛深くて、垂れ耳。そしてここは坑道ダンジョン。つまり。


「いっ、犬! 犬っぽいのが居る! あれって例のヘルなんとかじゃないの!?」

「落ち着けアカネ。そのヒソヒソ声割とボリューム大きいぞ」

「それと、正しくはヘルハウンド」

「言ってる場合じゃないから! どうしよう、もう向こうにバレちゃってるよ!?」

「落ち着きなさいなぁ。ヘルハウンドなら一も二もなく襲いかかってくるはずよぉ。そうしないって事は、あの子はきっと別の魔物ねぇ」

「・・・えっ、そうなん?」


 ネクの言葉に多少落ち着きを取り戻したあーしは、気を取り直してもう一度ドローンを操縦し、その毛深い謎の魔物へ向けて移動させる。


 そうしてドローンが映し出したのは、二足歩行の小さな犬っぽい魔物。 

 服のようにボロ布を身にまとい、石か骨で作ったようなアクセサリーを身に付けたその姿は、どことなくゴブリンを思い起こさせた。


「コボルトじゃねえか。ツイてるなオイ」

「コボルト?」

「獣人の魔物。坑道ダンジョンを住処にしてる」

「大人しい子たちだから、危害を加えてきたりはしないはずよぉ」


 魔物の正体が分かって敵意を解いたのが伝わったのか、垂れ耳のコボルトはゆっくりとあーしたちに近づいてきた。ネクが言った通り何かしてこようとする気配もなく、しきりにあーしたちの足元をチラチラと覗き見ている。

 釣られてあーしも目線を下げれば、そこにはさっきゼルたちが倒したスケルトンの亡骸が転がっている。


 もしかして、これを拾いにきたとか?


 意図を察して道を開けると、コボルトはトテトテとスケルトンの亡骸まで歩みより、砕けた骨を何やら品定めし始めた。


「何してるのあれ?」

「見ての通りだ。あれで物を作ったり、もしくは人間との取引材料に使ったりな」

「えっ!? そんなことする魔物がいるの!?」

「彼らはこの坑道を熟知している。だから物や食料を渡せば、その代わりに坑道の情報を教えてくれる」

「あの子たちは魔物の中でもかしこい方だからねぇ。下手に争うよりは、そうして平穏に生きていくことを選んでるのよぉ」

「はぁ~、なんかすごいなぁ」

「少なくともスケルトンに声かけるほどバカじゃねえな」

「もー、ゴメンって!」


 そんな会話を交わしていた間に品定めが終わったのか、今度はあーしたちへと視線を向けてきた垂れ耳のコボルト。二足歩行の犬みたいな見た目の割に人懐っこさは一切なく、それどころか妙にたくましく見えなくもない。坑道で生きるがゆえの風格だろうか。


「ちょうどいいぜ。こいつなら魔物の居場所も知ってんだろ。案内してもらおうぜ」

「それはいいけど、言葉通じるの?」

「問題ない、私が伝える。アカネさん、何か食料を」

「わ、分かった」


 水の精霊の時もそうだったけど、ルビーちゃんのコミュニケーション能力が半端ない。これもう大体の生き物と意思疏通できるんじゃないの?

 あーしはポーチから取り出したおやつ用のお饅頭を渡すと、ルビーちゃんはそれを一瞬惜しそうに見つめ、コボルトに差し出しながら何やら交渉を始めた。ルビーちゃんの分もあるから。


 しばらくするとコボルトは小さく頷き、あーしたちに先だって坑道を歩き始めた。


「どうだったルビーちゃん?」

「正確な居場所は分からないけど、最近見かけた場所まで案内してくれるらしい」

「上等だぜ。行くぞお前ら」

「・・・その前にちょっと休憩しなぁい?」

「速っ!? もうダウンしたのネク!?」

「まだ入り口も同然。ほら立って」

「・・・お留守番しとくんだったわぁ」


 早くも後悔の色を浮かべたネクを連れて、あーしたちは先を行くコボルトの後ろを着いていく。他にも同じ目的っぽいパーティがいたけど、これなら一番乗りできるかも。


 それとコボルトって、写真撮るのも何かあげないとダメなんだろうか。

 クエストが終わったら聞いてみよう。

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